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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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32/45

32話 真相

しばらく泣き続けていると、

スマホが震えた。


画面がにじんでよく見えない。

涙を拭って、そっと確認する。


そこに表示されていた名前は――



――黒木病院。


「お爺ちゃんが危篤? すぐ行きます!」


胸がざわつく。

私は急いでTシャツとショートパンツに着替え、カバンをもって家を飛び出した。


この時間ならタクシーが早い。

手を挙げるとすぐに車が止まり、私は慌てて乗り込んだ。



病院に着くと、

ベッドで、お爺ちゃんが静かに眠っていた。


「よ、よかった……。」


胸を撫で下ろした瞬間、蓮水先生が現れた。


「ごめんね。少し心拍が落ちたから、一応連絡したんだ。」


申し訳なさそうに微笑む。


「いえ……とりあえず、良かったです。」


「ご両親はいまはいないんだよね?」


「あ、はい。旅行に行ってて、明日帰ってくる予定です。

あれ……どうしてそれを?」


「湯浅さんから聞いたんだよ。

何かあったら君に一番に連絡するようにって。」


「あ、そうなんですね。

あれ、じゃあ叔父は来てますか?」


「来てないね。」


「え……? さっき蓮水先生、連絡したって言ってましたよね?」


「そうだったかな?」


蓮水先生は、

まるで“試すように”

意味深に微笑んだ。


その笑顔は、優しいのに――

どこか、底が見えなかった。


胸の奥がざわりと揺れる。


何かがおかしい。

何かが、噛み合っていない。


「黒木先生、湯浅さんですが心電図確認してもらってもいいですか?」


「うん。」


受け取った紙を手早く広げ、波形を目で追う。

淡い蛍光灯の光が、心電図の細い線を白く照らしていた。


「一応、今晩はモニターつけておいて。」


「わかりました。」


「うん、よろしくね。」


紙をそっと折りたたみ、看護師に手渡す。


「黒木?」


「あれーもしかして知りませんでした?

黒木院長の息子さんなんですよ。」


「でも蓮水先生って…。」


「あー、母方の旧姓なんだ。

同じ病院で働くと黒木院長の息子だって特別視されるのが嫌でね。」


蓮水先生いや黒木先生が笑う。


「へぇ…。」


あれ、待って。これもしかして。

私の中で警報が鳴る。



「じゃあ私湯浅さんのところ見てきます。」


看護師さんが去って行った。



待って!

声を出す前に、走馬灯のように映像が流れる。



過去?


夏祭りの日、私はさっくんに会いに行こうとした。

りんご飴を持って。


だけど、お爺ちゃんが危篤と連絡が来た。


そうだ目の前の黒木 巧先生。


『君を殺すよ。

僕の中で永遠になる。

言い残すことはある?』


そう言われた。


だけど私は…


『私のこと好きだから殺すんですよね。

ならお願い一つきいてください。


私の腎臓をさっくん…七瀬 朔に移植してください。』



そうだ。


それで私は首を絞められて殺された。

それから私の腎臓は…蓮水…いや、黒木巧の手で取り除かれた。

まるで宝物を扱うみたいに。

プレゼントのようにさっくんに届けられた。


そして、その腎臓が…朔に。

黒木雅信院長の手で移植された。



「どうかした? 顔色悪いけど。」


蓮水―いや、黒木先生の手が私に伸びかけた、その瞬間。


「羽瑠!」


朔が迷いなく前に出て、私を庇うように立った。


「貴方だったんですね。

羽瑠を――奪おうとしたのは。」


低く、押し殺した声。

病室の空気が一気に張りつめる。


「何を言ってるの? 今、羽瑠ちゃんは目の前にいるよ。」


黒木は穏やかな笑みを崩さない。


「じゃあ言い方を変えます。

今夜、羽瑠を狙っていましたね。」


その言葉に、黒木の指先がわずかに止まった。

笑みが、ほんの一瞬だけ揺れる。


朔は続ける。


「黒木沙羅。あなたの姉、17歳。

夏祭りの帰り道、事故で亡くなった。」


黒木の目が細くなる。


「そこまで調べているのか。

……そうだよ。姉さんは死んだ。

あの日から、僕の世界は色を失った。」


声は静かで、淡々としているのに、どこか壊れた響きがあった。


「優しい人だった。聡明で、美しくて……

羽瑠ちゃん、君にそっくりだ。」


背筋が冷たくなる。


黒木は、まるで告白するように続けた。


「だからね、君を“守りたい”と思った。

姉さんのように、突然奪われるんじゃなくて……

僕が責任を持って、君を永遠に留めておきたいと。」


その言葉は、優しい声で語られているのに、

意味はあまりにも歪んでいた。


朔が一歩踏み出す。


「それは守るじゃない。

支配だ。奪うことだ。」


黒木は首をかしげる。


「違うよ。

僕はただ……君を“綺麗なまま”残したかっただけだ。」


その笑顔は、

優しさと狂気が紙一重で混ざり合っていた。


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