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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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28話 告白

図書館を出ると、蝉の鳴き声が一気に耳に押し寄せた。

むわっとした熱気が肌にまとわりついて、じっとり汗がにじむ。


繋いだ手のぬくもりが、

明日もちゃんとここにあるのだろうか。


夏祭りが終わったら、朔は――

いなくなってしまうんじゃないか。


そんな不安が胸の奥でずっと渦を巻いて、

歩くたびに少しずつ重くなる。


「羽瑠。また明日。」


朔が手を離そうとした瞬間、

私は反射的に袖をぎゅっとつかんでいた。


「やだ。帰りたくない。

私…朔が好き。」


言ったあと、心臓が跳ねる。

でも、もう止められなかった。


「…ほんと?

それはめちゃくちゃ嬉しい。」


朔は、子どもみたいに無邪気に笑った。

その笑顔が、胸にしみる。


「一緒にいたい。」


震える声でそう言うと、

朔は少しだけ困ったように眉を下げた。


「そっか。俺も羽瑠といたいよ。

でもさ…。」


「お願い。」


その一言に、朔は小さく息を吐いて、

苦笑いを浮かべた。


「そのお願いはずるいな…。」


でも、次の瞬間。


「一緒にいこう。俺の家。」


「…うん。」


「夜通しお菓子パーティだ!」


その言葉に、思わずふっと笑ってしまう。

不安でいっぱいだった胸が、少しだけ軽くなる。


繋いだ手は、さっきよりも強く握り返された。


朔と手を繋いで、近くのスーパーへ向かった。


「夕飯、何にするの?」


「うーん…サッパリかガッツリ、どっちがいい?」


「その二択ならサッパリ。」


「じゃあ手巻き寿司にしよう。」


「手巻き寿司とか久々かも!」


「俺、けっこう好きなんだよね。楽しくない?

好きなもの詰めて食べるの。」


「いいね。」


そんな他愛ない会話をしながら、

好きな具材をかごに入れていく。


買い物を終えてアパートへ歩き出したところで、

ぽつ、ぽつ、と冷たいものが落ちてきた。


「うわ、夕立!?」


「近くだから走ろ!」


2人で笑いながら駆け出す。

雨粒がどんどん大きくなって、

着く頃にはすっかりびしょ濡れだった。


朔のアパートに着く。


「うわ、びしょびしょ。

とりあえずシャワー使って!」


「うん。」


「着替えは…これ使って。

あ、下着がないか。ちょっと待って。

近くのコンビニでなんか買ってくる。」


「え?私行くって!」


そう言う前に、朔はもう走り出していた。


ぽつんと残された私は、

とりあえずタオルで髪を押さえながら考える。


戻ってくるの待つ?


「くっしゅん。……浴びよ。」


シャワーを借りて、

タオルで体を拭いていたところで――


「は、羽瑠!!

ここに置いとくよ!ちょっと隙間あけていい?

あの、目つむってるから!

あとよくわかんなくていくつか買ってきたから!」


扉の向こうで、朔が完全にテンパっている。


「うん、ありがとう。」


そう言うと、

朔はさっと袋を置いて、

すぐに扉を閉めた。


買ってきてくれた下着に着替え、

タボっとしたTシャツと短パンを身につける。


「おさきー。」


タオルで髪を押さえながらリビングに戻ると――


「おかえ…り。

下着、平気だった?」


朔が固まっていた。


「うん…ありがとう。

それよりどうしたの?」


「いや…可愛いすぎてやばい。

じゃあ…俺も入ってくる。」


顔を真っ赤にして、

逃げるようにバスルームへ向かっていく。


その背中がなんだか可愛くて、

思わず小さく笑ってしまう。


朔もシャワーから出てきた。


「はあー、スッキリした。

お茶飲む?」


「うん。」


カラン、と氷の音がして、

麦茶の入ったグラスが手渡される。

冷たさが指先に心地いい。


少し休んだあとに…。


「さて、夕飯つくろう。」


朔が立ち上がる。


「私も手伝う。」


2人で具材を切って、

テーブルに並べていく。

海苔の香りがふわっと広がって、

なんだかそれだけで楽しくなる。


好きな具材をのせて、くるっと巻いて、

そのままぱくっと食べる。


「はい、これ羽瑠に。」


朔が自分で巻いた手巻きを差し出してくる。


「ありがとう!」


「俺のおすすめ、サーモンチーズ。」


「わあ、美味しい!」


口に入れた瞬間、

サーモンのとろっとした甘さと、

チーズのまろやかさが広がる。


朔が嬉しそうに笑う。


「でしょ。これ最強なんだよ。」


その笑顔を見ていると、

さっきまでの不安が少しずつ溶けていく。


2人で並んで座って、

同じものを食べて、

笑い合っている。


夕飯を終えると、

今度はお菓子をテーブルいっぱいに広げた。


「前さ、私の誕生日に読んでくれた本、あれってなんてやつ?」


「ん?あー、寝落ち電話した時ね。」


朔が本棚から一冊を引っ張り出す。


「これ。『恋する逆さまの月』。」


「どういう話?」


「うーん…月が星に恋をするんだよ。

たくさんある星の中で、ひときわ好きな星があってさ。

その星が幸せでいてくれたらいいなって、

ずっと願う話。」


「へぇー。」


「もし読むならあげる。」


そう言って私に差し出す。


「ほんとに?いいの?」


「うん。」


「ありがとう。」


その後も2人で他愛もない話をする。


「それでさ。」


「なにそれ。」


ふっと笑い合う。

楽しくて、賑やかで、

胸の奥がじんわりするような時間。


幸せって、こういう瞬間なんだと思う。



「よし、そろそろ寝よっか。」


「うん。」


「ベッド、俺の使って。」


「え?いいよ。」


「ダメだよ。

大丈夫、俺こっちの布団で寝るから。」


「…わかった。」


部屋の灯りを落とすと、

静けさがふわっと降りてきた。


「ねぇー、まだ起きてる?」


「うん。」


暗闇の中で声だけが近い。


「朔…この先も一緒だよね。」


少し震える声。

自分でも抑えられなかった。


「どうしたの?眠れない?

手でも繋ぐ?」


軽く言うその声が、

逆に優しくて胸が痛くなる。


「…うん。繋いで。」


「うん。」


布団の隙間から伸びてきた手を握る。

そのぬくもりが、

今日いちばん安心する。


「羽瑠が寝るまで繋いであげる。」


その言葉に、

胸の奥がじんわり熱くなって瞼が閉じていった。



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