26話 神社
裏路地や日陰を通りながら、朔が迷いなく歩いていく。
「どこいくの?」
「もう少し。」
そう言う朔の横顔は、どこかワクワクしているようだった。
やがて視界が開ける。
「ここ…神社?」
「そう。」
境内には風鈴がずらりと並んでいて、風が吹くたびに
チリン、チリンと澄んだ音が響く。
耳をすますと、まるで風そのものが歌っているみたいにきれい。
「綺麗だね。」
「お参りしようか。」
「うん。」
二人で手を合わせる。
風鈴の音が背中をそっと押すように揺れていた。
「ここ、災いから守ってくれる神様がいるんだって。」
「そうなんだ。」
「だから…来たかったんだよね。
風鈴も綺麗だしさ。」
朔は少し照れたように笑う。
「それと、この神社の名前——
春咲く神社っていうんだって。」
「はるさく…?」
「漢字は違うけどさ、羽瑠と俺みたいじゃない?」
ニヤリと笑う朔。
その笑顔が、風鈴の音よりも胸に響いた。
夏の光の中で、風鈴がまた揺れる。
チリン、と優しい音が二人の間に落ちた。
「春になったら、そこの桜がたくさん咲くんだろうね。」
朔がそう言って、境内の奥を指さす。
まだ青々とした葉だけの桜の木が、静かに風に揺れていた。
——春になったら。
その言葉が胸にひっかかる。
桜が咲くころには、もう…朔はいない。
そんな予感がずっと心のどこかにあって、
楽しいのに、幸せなのに、
どうしようもなくこわくなる。
風鈴の音が、やけに遠く聞こえた。
「さすがに暑いね。
カフェでも入ろうか。」
朔が何気なく言う。
「うん。」
返事をしながら、胸の奥がきゅっとなる。
でも朔は気づかず、いつものように前を歩いていく。
風鈴がまた揺れた。
チリン、と優しい音が背中を押す。
——今だけでも、ちゃんと笑おう。
そう思って、私は朔の後ろを追いかけた。
二人でカフェに入り、涼しい店内で大きなかき氷を分け合う。
頭がキーンとなるほど冷たいのに、どこか心はあたたかかった。
店を出て、帰り道を歩く。
「美味しかったね。」
「ね! あんなに大きいと思わなかったけど。」
笑いながら話しているうちに、海が見える道へ出る。
夕暮れの光が水面に反射して、金色の帯みたいに揺れていた。
自然と手を繋いで歩く。
どちらからともなくぎゅっと握り返す。
「羽瑠とここに来れてよかった。」
「私も。」
「白い手、出てこなくてよかったね。」
「まだそれ言うの!」
ふっと笑い合う。
その笑い声が、波の音に溶けていく。
「帰ろっか。」
「うん。」
駅までの道は、少し名残惜しいような、でも心地よい静けさだった。
帰りの電車に揺られながら、気づけば朔の肩にもたれかかって眠っていた。
朔の肩はあたたかくて、揺れるたびにそっと支えてくれる。
——この時間が、ずっと続けばいいのに。
そんな願いが、夢の中に溶けていった。




