18話 ケーキ
二人で軽くお昼を食べて、店を出た瞬間だった。
「よし、じゃあ次はー!」
朔が元気よく言ったそのとき、
外は突然ざぁっと雨が降り出した。
「すごい雨だね。」
「これだと散歩はできないなー。」
朔が少し考えてから、ぱっと顔を上げる。
「どうする? ショッピングモールで服とか見る?」
「うーん……」
迷っていると、朔が急に手を叩いた。
「よし! 予定変更!
スーパー寄って、傘買って、俺ん家いこ!」
「う、うん!」
勢いに押されて返事をすると、
朔は嬉しそうに笑った。
そして二人でスーパーへ向かう。
「何買うの?」
「ケーキ作ろうと思って。」
「ケーキ?」
「そう! 二人の誕生日祝いってことで。
何がいい? 王道にイチゴショートかな?」
「難しくない?」
「いけるいける!」
朔は迷いなく材料をカゴに入れていく。
その手つきが妙に慣れていて、思わず見つめてしまう。
「……朔、なんか慣れてない?」
「まあ、ちょっとね。」
朔は振り返って笑う。
「羽瑠と作るのは初めてだから、楽しみ。」
その一言で、胸のざわつきが一気に溶けていく。
雨音の中、
二人の誕生日ケーキの材料が
カゴの中で小さく揺れた。
朔のアパートに入ると、
彼は慣れた手つきで材料をキッチンに並べていく。
「よし、じゃあ羽瑠はイチゴ洗って!」
「はい!」
二人で並んで作業を進める。
キッチンに立つだけで、なんだか新婚みたいで照れる。
しばらくして――
「ねぇ、」
「ん?」
「なんか思ってたのと違くない?」
「確かに!」
完成したショートケーキは、
生クリームが足りなくて、見栄えはちょっと残念。
でも、朔は胸を張って言う。
「でも、味は美味しいはず!」
「そうだといいけど。」
朔はロウソクを取り出し、
ケーキの真ん中にちょこんと立てた。
「よし、蝋燭つけて。」
火が灯ると、部屋の明かりが少しだけ揺れる。
朔が笑いながら歌い出す。
「ハッピーバースデイトウーユー、
羽瑠と俺!」
思わず吹き出してしまう。
「自分も祝うんだ。」
「当たり前でしょ。二人の誕生日だから。」
朔はそう言って、
ロウソクの火を見つめながら少しだけ声を落とす。
「……一緒に祝えるの、嬉しい。」
その言い方があまりにも優しくて、
胸がぎゅっとなる。
未来から来た朔。
いつかいなくなるかもしれない朔。
でも今は、
同じ部屋で、同じケーキを前にして笑っている。
「じゃあ、ふたりで吹き消そ。」
「うん。」
せーの――
ふたりの息が重なって、
小さな火がふっと消えた。
その瞬間、
ロケットペンダントが胸元で小さく揺れた。
「ねぇ、朔…
来年も一緒にお祝いできるかな?」
その言葉を口にした瞬間、
朔の目がわずかに揺れた。
ほんの一瞬だけど、確かに動揺していた。
「出来るよ。きっと。」
優しい声。
でも――わかる。
これは本心を隠した言い方だ。
朔は“未来から来た”と言った。
夏祭りの日、私に“殺されるかもしれない”ことも。
もし私が無事にその日を越えられたら、
朔はきっと自分のいた場所へ戻ってしまう。
胸がきゅっと痛む。
「ねぇ、朔は……」
言いかけたところで、
朔の表情がわずかに強張った。
続きを言わせまいとするように、
でも拒絶ではなく、
ただ“覚悟をした”ような目。
「ごめん…何でもない。」
その目を見た瞬間、
私は何も言えなかった。




