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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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17話 誕生日デート

そして週末…誕生日デート。


速川 湊は、私に告白することもなく、あっさりと他の子と付き合い始めた。

胸の奥にあった小さな棘が、音もなく抜け落ちていくような感覚だけが残った。


「速川先輩が他の子とうまくいったから、これで私とは関係なくなったよね。」


「そうだね。

見せつけた甲斐があった。貴方の入る隙はありませーんって!」


朔が得意げに笑う。

その笑顔があまりにも自然で、思わず肩の力が抜けた。


「ほんとにもう。」


気づけば、朔が私の手をそっと取っていた。

指先が触れた瞬間、少しだけ心臓が跳ねる。

でも、拒む理由なんてどこにもなかった。


並んで歩くと、アスファルトの照り返しがワンピースの裾を揺らした。


「それにしても、今日のワンピースもすごい可愛い!」


朔が目を細める。

私は水色の涼しげなワンピースにポニーテール。

鏡で見たときより、彼に言われると少しだけ特別に思えた。


「ありがとう。それより今日はどんな予定なの?

私、プレゼントも用意してないよ。」


朔は“プレゼントはいらない”と言っていた。

本当にそれでいいのかと少し不安だったけれど、

今の朔の顔を見ると、何か企んでいるのは明らかだった。


「いいの! いいの!

これから一緒につくるから。」


「つくる?」


「ほら、いこう!」


朔が手を引く。

その勢いに、誕生日の朝の空気が少しだけ甘く揺れた。

「ここは?」


「手作りのアクセサリーがつくれるところ。

入ろう。」


「うん。」


中に入ると、そこはロケットペンダントに

好きなラメ入りの粉やパワーストーンを詰めて

自分だけのアクセサリーを作れる店だった。


「これさ、お互いのために作って交換しない?」


「なにそれ、楽しそう。」


「お互いのお誕生日おめでとう、ってことで。

気持ち、たっぷり込めてね。」


「わかった。」


「俺の羽瑠への愛、こんなちっちゃいのに入りきらないけどね!」


朔が楽しそうに笑う。

その笑顔を見るだけで胸があたたかくなる。


――ああ、この笑顔が好きだな。


そう思った瞬間、

胸の奥に小さな痛みが走った。


今、隣にいるのに。

笑ってくれているのに。


――いついなくなってしまうんだろう。


そんな思いが、胸の中にぽつりと残った。


だめだめ。

せっかくの誕生日デートだ。

楽しまなきゃ。せっかく朔が考えてくれたんだもん。


でも…

ロケットペンダントに何を入れようかな……。

朔のことを想って、って言われても……難しい。


朔は少し離れた棚で、真剣な顔でパワーストーンを見比べている。


そんなとき、店員さんがそっと声をかけてきた。


「何を入れるか迷われてます?」


「はい……ちょっと。」


「そうですね。だいたい誕生月のパワーストーンを入れる方が多いですよ。

あとは、それに合わせてラメ入りの粉末を入れると、とても綺麗になります。」


「ありがとうございます。」


アドバイスに軽く頭を下げたところで、朔が戻ってきた。


「決まった?」


「うーん……なんとなく、かな。」


「そっか。」


「朔は?」


「ばっちり! いいの作るから待っててね!」


自信満々に笑う朔。

その笑顔を見るだけで、胸がふわっと温かくなる。



そして二人で夢中になって作業して、ようやく。


「できた!」


「俺も!」


お会計を済ませ、袋にそっと詰めてもらってから

並んで店を出る。


「よし、じゃあ交換!」


「うん。」


そう言って、お互い袋からロケットペンダントを取り出した。


朔が先に開ける。


「……ダイヤモンドだ!かっこいい。」


私は誕生日月のパワーストーン、ダイヤモンドを選んだ。

長寿、力、幸福の象徴。


朔に、ずっと笑っていてほしくて。


そして、朔がくれたロケットペンダントをみる。


「これって……?」


「ラピスラズリ。」


「え、でも誕生日月って違ったよね?」


私の誕生日は6月。

てっきりそのパワーストーンが入ってると思っていた。


「うん、違うんだけどね。」


朔は少し照れたように笑って続ける。


「ラピスラズリってさ、“幸運”とか“真実”を導く石なんだって。……どうか、これが羽瑠を守ってくれますように。」


その言葉が、胸の奥にじんわり染みていく。


朔の笑顔は明るいのに、

その奥にある“願い”はどこか切なくて、

まっすぐで、優しかった。



「あ、そうだ! 笛持ってる?」


「うん、朔が持っててって言ってたからあるよ。」


水族館で買ってもらった、小さな笛を取り出す。


朔はそれを見るなり、ぱっと目を輝かせた。


「これも一緒につけといてよ。

羽瑠が呼んだら俺がいつでも来れるようにさ。」


ふっと笑って、ロケットペンダントを開く。


「……入るかな?」


そう言いながら、笛をロケットの中にそっと当ててみる。

真剣な顔で角度を変えたり、押し込まないように慎重に試したりして――


「……あれ?入らないや。」


小さく首をかしげる朔が、なんだか可愛くて笑ってしまう。


「そりゃ無理だよ、朔。笛だよ?」


「えー、入ると思ったんだけどなぁ」


朔は苦笑しながら笛を見つめ、

少しだけ寂しそうに息を吐いた。


「じゃあさ、外に付けといてよ。

 羽瑠が呼んだら……俺、どこにいても気づけるように。」


ふっと笑ったその横顔は、

どうしようもなく優しくて、

どこか遠くを見ているようだった。



「うん。ねぇ、これつけてもいいかな?」


自分の首を指さす。


「もちろん。」


朔は嬉しそうに笑った。


「なんか髪が引っかかる。」


「貸して……。」


そっと首元に朔の指が触れる。

くすぐったくて、思わず肩がすくむ。


「はい、できた!可愛いね。」


「ありがとう。」


「俺もつけよう! ペアルック!」


「なんか急に恥ずかしい。

外してもいい?」


「いや、だめでしょ!」


朔は即答して、子どもみたいに笑った。


その笑顔が眩しくて、

胸の奥がふわっと温かくなる。


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