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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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14話 遊園地に潜む影

「な、なにするんだ。君たち。」


「何って……羽瑠のこと、追いかけ回してたよね?」


朔の声は低く、静かだった。


「え……?」


「な、なにを言うんだ……」


「知ってるよ。俺。

羽瑠のこと、ずっと見てたよね。

もう何ヶ月も前から。」


「うそ……」


知らなかった。

本当に、気づかなかった。


「ねぇ、どういうつもり?」


朔は及川をしっかりと押さえつけたまま、

その耳元に冷たい声で問いかける。


朔は手にしていた刃物を首筋にあてる。


「これ以上、羽瑠に近づく気はある?」


その声は穏やかだけど、

逃げ場のない圧があった。


及川は青ざめ、震えながら言葉を詰まらせる。


「ち、違うんだ……そんなつもりじゃ……」


「じゃあ、なんで追ってきたの?」


朔の問いに、

及川は口を開きかけて――閉じた。


朔が静かに言った。


「うーん……荷物、見させてもらうよ。それで警察に渡すか判断する。」


「そ、そ、それは……!」


朔は及川の拘束をしながら手際よくバッグを開き、中身をバサバサと広げた。


「や、やめてくれーー!」


床に散らばったのは――


「写真……?いや、紙?」


私は思わず手に取る。


そこに描かれていたのは、

フリルの衣装を着た“少女”。


「魔法少女……?」


「これ……羽瑠に似てる。」


「え?うそ?」


その瞬間、及川さんが慌てて叫んだ。


「あのっ……だから!

それ、俺が描いてる漫画なんだ!」


「え?」


朔と私は顔を見合わせる。


「漫画を描いてて……羽瑠ちゃんをモデルにしてたんだ!

でも……魔法少女に、か、彼氏はタブーで……。

だから、その……どうしても気になって……!」


言いながら、及川さんは顔を真っ赤にして俯いた。


追ってきた理由が、

“嫉妬”というより“創作の暴走”だったと分かり、

私は言葉を失う。


朔は深く息を吐き、冷静に言った。


「……つまり、羽瑠に本当に彼氏がいるかどうか、

確認したくて追ってきたってこと?」


「そ、そう……です……」


朔の目が細くなる。


「いや、普通に危ないから。」


その静かな一言に、及川さんは肩をすくめて縮こまった。


「と、とりあえず……その、危ないものは下ろしてくれ。

羽瑠ちゃんに危害を加えるつもりなんて、本当にないんだ。」


及川さんは縮こまりながら必死に訴える。


朔はしばらく黙って見つめたあと、

「わかったよ」と言って、相手への圧を少し緩めた。


「スマホ出して。」


「え……?」


「写真とか撮ってないよね?」


「い、いや……その……ほんとに勘弁してください……」


「じゃあ警察呼ぶよ。

理由なんていくらでも作ればあるし。」


淡々とした朔の声に、及川さんは観念したようにスマホを差し出した。


朔が画面を確認していると、

ふと手が止まった。


「どうしたの?」


私が覗き込むと――


「いや……あの、これ……」


画面には、

魔法少女の衣装を着た“及川本人”の写真が映っていた。


「ぐふっ……」


思わず変な声が漏れた。


「ご、ごめんなさい……ふふ……」


堪えきれず、肩が震える。


朔も目をそらしながら小さく咳払いした。


「……これは、どういう……?」


及川さんは真っ赤になりながら、

蚊の鳴くような声で言った。


「そ、それは……資料です……

自分で着てみないと、描くときのシワとか動きが……わからなくて……」


その瞬間、

緊張で張りつめていた空気が、

一気にどこかへ吹き飛んだ。




朔は及川のコスプレ写真を自分のスマホに転送し、

画面をちらりと見せつけるように掲げた。


「今後一切、羽瑠を追いかけ回したりしませんね?」


「し、しない!絶対にしない!」


「もしするようなら……わかってますよね。

これ、世に放出します。」


コスプレ写真が、

朔の指先でゆらりと揺れる。


「わ、わかったから……!

それだけは……それだけは勘弁してくれ……!」


及川さんは半泣きで頭を下げ続けた。


私はその様子を見ながら、

胸の奥でふっと力が抜ける。


「……とりあえず、一件落着……なのかな?」


朔はスマホをしまいながら、

少しだけ肩の力を抜いた。


「うん。少なくとも“犯人”じゃない。

ただの……暴走気味のパン屋の漫画家さんだった。」


「ただの……って言っていいのかな……」


「まあ、危害を加える気はなかったってわかっただけでも十分。」


朔は私の頭を軽くぽんと撫でた。


本命の容疑者は、別にいるってことか。

遊園地の明るい音楽が急に遠く感じた。


一件落着――

でも、事件そのものはまだ終わっていない。



その後、朔と二人で遊園地を歩いた。

夕暮れの光が観覧車の鉄骨を赤く染めていて、

どこか現実じゃないみたいに見えた。


「ねぇ、せっかくだからあれ乗ろう。」


朔が指差した先――観覧車。


「うん、いいよ。」


二人で並んで乗り込む。

ゴンドラがゆっくりと浮かび上がり、

遊園地全体がオレンジ色に包まれていく。


「とりあえず良かったね。」


「そうだね。」


沈黙が落ちる。

でも嫌な沈黙じゃない。

夕暮れの光が二人の間をやわらかく満たしていた。


「ねぇ、隣いっていい?」


朔がこちらを見つめる。

その目は、さっきより少しだけ大人びていた。


「え?バランス悪くなんない?」


「大丈夫大丈夫。」


彼はそっと横に腰掛ける。

肩が触れそうで、触れない距離。

その近さに、胸が少しだけざわついた。


「ねぇ、朔。」


「なに?」


「私に隠してることないよね?」


「ないよ。」


朔は外の景色を見たまま答える。

その横顔は静かすぎて、逆に嘘だと分かってしまう。


――うそだ。


でも、それ以上は聞けなかった。

聞いてしまえば、

この夕暮れの温度も、

隣にいる彼の気配も、

全部壊れてしまう気がした。


だから私は、

ただ黙って、

沈む夕陽を一緒に見ていた。


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