11話 メロンパン
昼休み、屋上にて。
陽の光が白いコンクリートに跳ね返り、少し眩しい。
風が吹くたび、フェンスがかすかに鳴った。
「とりあえずさ、透さんは“なし”ってことでいいんだよね?」
私がそういうと、朔は紙パックのジュースを飲みながら答える。
「うん、そうだね。
次は……及川康。パン屋の亭主かな。」
「うーん、こんなに美味しいのにな。」
私は袋からメロンパンを取り出し、かじる。
外側のサクッとした甘い皮が崩れて、ふわっとした香りが広がった。
「普通さ、容疑者かもしれないパン屋さん行く?」
少し呆れ気味に朔がいう。
「え、だっておいしいよ。一口食べる?」
差し出されたパンを、朔はかじる。
あむ。
「あ……美味しい!」
「ちょっと、一口どころじゃないじゃん!」
口のパンくずをそっと取る仕草がなんかかっこよくてむかつく。
「まあまあ。一緒に行こうよ、そのパン屋。」
そして朔はニコッと笑った。
茶色の髪が風に揺れ、光を受けて柔らかく見える。
「あー、もうゴールデンウィークだな。」
空を見上げながら彼がつぶやく。
雲がゆっくり流れていく。
「確かに。」
「この休みの間に、どうにか調べたいな。」
「そうだね。」
「こわい?」
彼がそう聞いた瞬間、風がひとつ吹き抜けた。
屋上の空気が少しだけ冷たく感じる。
「うーん、よくわからないんだよね。
私が誰かに殺されるかもしれない未来があるって……。
私、そんな恨まれることしたのかな?」
言葉にすると、胸の奥がざわつく。
怖いというより、現実味のない夢を語っているような、足元がふわっと浮く感じ。
「どっちかっていうと……執着かもしれないね。」
彼はフェンスにもたれ、視線を遠くに投げた。
その横顔はいつもより真剣で、軽い冗談を挟む余裕もなさそうだった。
「執着?」
「うん。」
短い返事なのに、妙に重い。
風が止まり、二人の間に静けさが落ちる。
「ねぇ、私はどうやって殺されたの? 死体はどこで?
なんで?」
自分でも、聞きながら胸がきゅっと縮むのがわかった。
でも知らないままのほうが、もっと不安だった。
「それ聞く?」
彼は眉を寄せ、少しだけ困ったように笑う。
「聞かないとわからなくない?」
私の声は思ったより強く響いた。
自分のことなのに、知らされないのは耐えられない。
「正直、不安を煽るだけだと思うんだけど。」
「それでも、私のことでしょ?」
言い返すと、彼は一瞬だけ目を伏せた。
その沈黙が、風より冷たく感じた。
「はあー、強いね、羽瑠は。
さすが俺の惚れた人。」
わざとらしくため息をつきながらも、どこか誇らしげに笑う。
「……ねぇ、本当に私のどこが好きなの?」
気づけば口からこぼれていた。
風にさらわれそうな小さな声だったのに、彼はしっかり拾う。
「そこ聞く?」
ニヤッと口角を上げる。
からかうときの、あの癖のある笑い方。
「だって、わからないから。
朔が私を助けようとしてくれる理由も。」
自分でも弱音っぽいと思った。
でも、聞かずにはいられなかった。
「うーん……可愛いところ。」
「またそれ?」
「授業中眠いの我慢して、ほっぺ引っ張ってるとことか。
美味しいもの食べるときに目元がゆるむとことか。
たまに空ぼーっと眺めて──」
「もう、もういいから!」
「えー、まだあるのに。」
「恥ずかしいんだけど。」
「じゃあ、また気が向いたら話してあげる。」
軽く言いながら、朔は私の頭をぽんと撫でた。
その手つきが優しくて、胸の奥がじんわり熱くなる。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、屋上の静けさが現実に引き戻された。
「さて、授業戻ろう。
放課後、話をしよう。」
「……うん。」
階段へ向かう足音が二つ。
昼の光が薄くなり、風がそっと背中を押す。
二人並んで、屋上をあとにした。




