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万華鏡は月を巻き戻す  作者: 舞響


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10話 彼氏入門試験?と怪しい叔父

朔side


羽瑠が売り場の奥へ歩いていった。

その背中が見えなくなった瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなる。

透さんと二人きりになるのは正直気まずいけれど、

今、言わなきゃいけないことがある。


「あの……」


自分でも驚くほど声が硬かった。


透さんが振り返る。


「なに?」


「疑って……すみません。」


頭を下げると、

透さんは一瞬だけ目を丸くして、すぐに柔らかく笑った。


「別にいいよ。

君が何を気にしてるのかは知らないけど……

羽瑠ちゃんのこと、大切に思ってるのは見てれば分かる。」


その言葉が、胸の奥に静かに落ちた。

責めるでもなく、軽く流すでもなく。

ただ、まっすぐに受け止めてくれる。


「……ありがとうございます。」


自然とそう言葉が出た。


透さんは豆腐を手に取りながら、

少し遠くを見るように言った。


「仲良くね。

楽しい青春は今だけだから。

大人になると……色んな“しがらみ”が出てくるからさ。」


その声には、

経験した人にしか出せない重さがあった。


「そうですね。」


俺は素直にうなずくしかなかった。

大人には…きっとなれないだろうけど。


透さんがふと思い出したように、指を立てる。


「そうだ。ひとつ、いいこと教えてあげる」


「はい?」


「羽瑠ちゃん、トマトソースのオムライスより

ホワイトソースのオムライスの方が好きだよ。」


そう言って、カゴの中の材料を指さした。


胸が少しだけ熱くなる。


「……それは、いいこと聞きました。

ありがとうございます。」


俺が笑うと透さんもつられて笑う。


ほんの短い時間だったけれど、

この人が“羽瑠のことをちゃんと想っている人”なんだと、

ようやく実感できた気がした。



羽瑠side


二人のところへ戻る。

さっきより空気がふわっとあたたかい気がした。

何を話していたんだろう。


「はい、卵!」


「ありがとう。

じゃあこれ戻してくる。」


朔がトマトソースを手に取る。


「え?オムライス作るんでしょ?

トマトソースのやつ。」


「味を変更する。

きのことベーコンのホワイトソースのが食べたくなってきた。」


「うわ、いいな!絶対おいしいやつじゃん。」


気づけば自然と朔の隣に並んでいた。

その距離が、いつもより近い。

胸の奥が少しくすぐったい。


そんな私たちを見て、

透さんがぽつりとつぶやいた。


「青春だね……。」


その声は、どこか優しくて、

少しだけ羨ましそうでもあった。



透さんと別れて家に戻る。

朔とキッチンに立つ。朔は手際よくオムライスを作り始めた。


「羽瑠はレタス洗ってくれる?」


「わかった。」


言われた通りに動きながら、

横目で朔のフライパンさばきを見る。


「って……本当に料理上手なんだね。

オムライス、ふわっとろじゃん!」


「んー?わりと簡単だよ。」


軽く言うくせに、動きはプロみたいで悔しい。


そこへお母さんが口を挟む。


「やだー!料理もできて、イケメンなんて最高ね!!

羽瑠、今からちゃんと捕まえておいてよ。」


「ほんとやめてよー!」


「喜んで!手綱でも首輪でもするよ、俺。」


「冗談に乗らないの!」


私がツッコむと、

朔は悪びれもせず笑っている。


そんな賑やかな空気の中で、

出来上がったオムライスをみんなで囲んだ。


途中でお父さんが帰ってきて――


「え!えー?!うそうそ……」


と、状況を飲み込めずに動揺しながらオムライスを食べ、


「美味しい。

……娘をよろしくね」


と、さらっと言い放つ。


「だから違うの!!」


私の声が響き、

さらに賑やかな食卓になった。


胸の奥が、なんだかくすぐったい。

でも悪くない。



「遅くまですみません。

お邪魔しました。」


朔が丁寧に頭を下げる。


「いいえ、こちらこそご馳走様になっちゃって。ありがとうね!」


「またおいで。」


母も父も、どこか嬉しそうに微笑んだ。


玄関の外まで見送りに出る。

扉が閉まると、急に静かになって、

私と朔だけが夜の空気の中に残った。


「オムライス、ご馳走様。美味しかった。」


「それなら良かった。

……良いご家族だね。」


「なんか賑やかで恥ずかしいよ。」


そう言うと、朔は少しだけ真剣な顔になった。


「……絶対奪わせないよ。」


「え?」


「羽瑠のことも、羽瑠の家族からも。

奪わせたりなんてしない。」


胸の奥がぎゅっとなる。

その言葉は重いのに、どこか温かかった。


「朔……」


朔ははっとして、少し照れたように笑う。


「ごめん。暗くなっちゃったね。

また月曜日。」


「うん。ねぇ、朔。」


「なに?」


「ありがとう。」


朔は一瞬だけ目を細めて、

優しくうなずいた。


「うん。またね。」


その声が、夜風よりもあたたかかった。


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