第37話 ドッジボールの練習試合に参加したら、熱烈な歓迎を受けました
ドッジボール部の部室は、部室棟の四階にあった。
大人数での移動を想定しているのか、ショッピングセンターの二倍はあろうかという巨大なエレベーターに乗り込み、僕たちは部室の門を叩いた。
一番最初に目に飛び込んできたのは、所狭しと並べられた本格的なトレーニング器具だった。
ここは部室というより、もはやフィットネスジムだ。
「おう、宝泉姉妹! 連れてきたか?」
重量上げをしていた大柄な男子が、バーベルを置いてこちらに近づいてくる。
「よう。お前らが、あの宝泉姉妹を打ち負かしたっていう一年坊主か」
「はい。合宿の時に、一応」
「七瀬類です。こっちは伏野志貴。本日はよろしくお願いします」
僕たちが一礼すると、彼はガハハと豪快に笑った。
「俺は部長の剛力だ。よろしくな」
剛力部長は、品定めするように僕の体をじろじろと見つめた。
「ほう……伏野。お前、いい体してるな。筋肉が引き締まってる。陸上か水泳、どっちかやってたろ?」
「! よく分かりましたね。中学の時、陸上部でした」
「筋肉のつき方で分かるさ。……で、隣の七瀬。お前もしっかりした筋肉があるが、……少し太ったか?」
「……あ、バレました? 最近、ラーメンばっかり食ってまして。少し増量しちゃいました」
照れながら答える類。僕はすかさず横槍を入れた。
「どうせラーメンの後に、別腹とか言って色々食ってたんだろ?」
「食ってねーよ!」
「いや、こないだコンビニでスイーツとお菓子、山ほど買い込んでたじゃないか」
「スイーツはカロリーに含まれないんだよ! 別腹だ!」
類の必死な言い訳に、部室内が爆笑に包まれた。宝泉姉妹も肩を揺らして笑っている。
「ははは! 宝泉姉妹が負けた理由が分かったぜ」
剛力部長が真剣な顔になり、僕たちの肩を叩いた。
「ドッジってのはな、個人技以上にチームプレイが重要視される競技だ。一人じゃ成立しねぇ。互いの思考を理解し、信頼して初めて勝負になる。……お前らには、もうそれがあるな」
部長はそのままドアへ向かう。
「実践あるのみだ。とりあえず、やってみるか」
*
案内されたのは、第五体育館。そこでは既に、男女混合の部員たちが激しい練習試合を繰り広げていた。
「おーい、天堂、築地。ちょっと来い」
部長に呼ばれ、二人の部員が歩み寄ってくる。
「部長、例の二人ですか?」と、鋭い眼光の築地さん。
「お、やっと来たか」と、天堂さんが爽やかに笑う。
部長の指示で、僕と類は築地さんチーム、宝泉姉妹は天堂さんチームに入ることになった。
青と赤のゼッケンを着用し、コートに立つ。
「合宿以来の対戦だね」「次は負けませんよ?」
不敵に微笑む宝泉姉妹に、僕と類も拳を合わせた。
「こっちこそ、返り討ちにしてやるよ。なぁ、志貴?」
「ああ。もう一回、勝とう」
試合開始のホイッスル。
ボールを勝ち取った築地さんが、電光石火の速攻で敵一人をアウトにする。
だが、跳ね返ったボールを天堂さんが拾った。無駄のないフォームから放たれた弾丸のようなシュートが類を襲う。
類はキャッチを試みるが、あまりの威力に弾かれ、ボールがコート外へ転がった。
「ぐっ、すまん。やられちまった……」
「大丈夫、すぐ戻すよ」
類とハイタッチを交わし、僕は転がってきたボールを拾い上げる。
周囲がざわつくのが分かった。
(さて、どう攻めるか……)
僕の狙いは、類をアウトにした天堂さんだ。彼も僕の視線に気づき、身構える。
僕は全身のバネを使い、全力で腕を振り抜いた。
――放たれたボールは、天堂さんの手前で鋭く軌道を変える。
「!? 狙いは俺じゃない……!?」
天堂さんが驚愕の声を上げた。
僕が投げたのは、攻撃ではなくパス。それも、外野に回った類が最も捕りやすい位置への超高速パスだ。
類は落下地点に滑り込み、完璧なタイミングでキャッチ。そのまま流れるような動作で近くの部員にボールを叩きつけた。
「アウト!!」
部長の声が響く。周囲の部員たちは何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くしていた。
「あいつ、あの速度でパスを……」
「外野との連携が完璧すぎるだろ……」
試合はそのまま、僕たちのチームが時間切れで勝利した。
終わった後、更衣室では部員たちに揉みくちゃにされた。
「あの連携、ヤバすぎだろ!」「ドッジ部、入るんだろ? 楽しみにしてるぜ!」
新入部員が宝泉姉妹しかいないらしく、彼らの歓迎は凄まじかった。
*
「なぁ志貴。お前、どうするよ」
帰り道、類が真剣な顔で聞いてきた。
「僕は……まだ迷ってる」
「そっか。俺は、入部してみようと思うんだ。あんなに熱烈に歓迎されたの初めてだしな」
「類らしいね。……でも僕は、陸上部も捨てがたくてさ」
そこへ、背後から猛烈な勢いで何かが突進してきた。
「志・貴ぃ! お・つ・か・れぇ!」
「うおっ!?」
金美が背中に飛びついてくる。倒れそうになるのを必死に堪える。
「お疲れ様です、志貴さん。今日はありがとうございました」
銀華が隣に並び、おっとりと微笑んだ。
「お疲れ。今日は楽しかったよ。チームプレイの面白さを再確認したよ」
「そうでしょ? 入るよね? ね、決まりだよね!」
興奮する金美を、銀華が「お姉ちゃん、そろそろ怒りますよ?」と制止する。
「急がなくてもいいんですよ。私たちはいつでも歓迎しますから……」
銀華は一度言葉を切り、僕にしか聞こえないような小さな声で付け加えた。
「……その方が、私たちにとっても『都合がいい』ですから」
一瞬、冷たい何かが全身を走った。理由は分からない。
「ん? 今、なんて言った?」
「いえ、何でもありません。それではまた明日」
「バイバイ、志貴!」
嵐のような双子と別れ、僕は一人、家路についた。
陸上の風、ドッジの熱。そして、ドッジボール部に行く前「信じてる」と言った陽奈。
僕の平穏な日々は、どうやら遠い過去のものになりつつあった。
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