第36話 放課後に双子がお迎えに来たのに、幼なじみが離してくれない
今朝のことだ。
いつもの四人と一緒に登校していると、正面から宝泉姉妹が歩み寄ってきた。
「おはよう、志貴!」
「おはようございます、志貴さん」
二人の声が重なる。
「おう、おはよう。今日はよろしくな」
「はい、よろしくお願いしますね。ふふ、楽しみです」
「僕が放課後、類とそっちの教室に行けばいいんだよね?」と確認すると、銀華が小さく首を振って微笑んだ。
「いえいえ、こちらからお迎えにあがります」
「いや、女子に迎えに来てもらうのは、流石にちょっと恥ずかしいというか……」
「あら。いつもこれほど多くの女性と一緒にいるじゃないですか。
それに比べたら、今さら恥ずかしがるようなことでもないと思いますが……?」
銀華が目を細め、僕の周りにいる陽奈たちを順番に見つめる。
「た、確かに……。言われてみれば、そうかも……」
改めて指摘されると、急に顔が熱くなっていく。
「あらあら。今さら自覚するなんて、可愛いですね?」
「あはは。顔も可愛いけど、そういう初々しいところも可愛いんだね」
銀華に続いて、姉の金美まで揶揄い始めた。初対面の女子に、面と向かって「可愛い」と連呼されるのは流石に耐え難い。
けれど、本当の恐怖はその後ろからやってきた。
背中に刺さる、氷点下の視線。恐る恐る振り返ると、そこには案の定、般若のような顔をした陽奈たちが立っていた。
「それで? お話は終わったかなぁ?」
陽奈の低く、地を這うような声。
「志貴くんが可愛いのは、もう知ってますよ」とのどかが淡々と告げ、
「今更それを言われたところで……」と杏が吐き捨てる。
「もう校内の周知の事実かと思っていましたよ」と美雪姫がトドメを刺した。
「あらあら。愛されているのですね、志貴さん?」
銀華の楽しげな声が追い打ちをかける。
……頼むから、公衆の面前で僕を玩具にするのはやめてくれ。
この日、校内には「伏野志貴は四人の美女に自分に可愛いと言わせている」という、
根も葉もない、しかし破壊力抜群の噂が広がることになった。
*
放課後。僕が類と教室で待機していると、廊下からけたたましい足音が聞こえてきた。
「志貴ぃ! お・ま・た・せ! 早く行こ! さあ、すぐ行こ!」
バァン! と扉を開けて突進してきた金美が、僕の腕を強引に引き寄せた。
「痛たた……ちょっ、金美ちゃん! 引っ張らないで、行くから落ち着いて!」
「落ち着けないよ! 今日をどれだけ楽しみにしてたと思ってるの!」
金美はさらに腕を密着させ、ぐいぐいと僕を廊下へ引きずり出そうとする。
「ちょっと! そんなにベタベタ組む必要ないでしょ! 離しなさいよ!」
そこに待ったをかけたのは、当然、陽奈だった。彼女は僕のもう片方の腕をがっしりと掴む。
「陽奈!? 痛い、いたたたたた……! 腕が、腕が千切れる……!」
「そっちが離せばいいじゃん! 志貴と一緒に行けないでしょ!」
金美が対抗して力を強める。
「そっちが離しなさいよ! ていうか、志貴って呼び捨てしないでよ!」
右と左から、全力の力で引き絞られる。
このままだと僕の体は真っ二つになり、教室にグロテスクな光景をぶちまけることになる。
「類、ヘルプ!!」
親友に必死の救援要請を送るが、類は冷めた目で僕を一瞥した。
「自分が撒いた種だ。……大人しく、散ってこい」
「お前ぇえええ!!」
僕の体が限界を迎えようとした、その時だった。
「二人とも、その辺にしてください!」
凛とした声が教室に響き渡った。
その威圧感に、二人の力がふっと緩む。銀華が、少しだけ眉をひそめて立っていた。
「お姉ちゃん? 先走らないでって言いましたよね……?」
「っ……!」
金美が肩を震わせ、気まずそうに目を逸らす。
「陽奈さんも、少し落ち着いてください。志貴くんが本当に壊れてしまうところでしたよ?」
「……ふん!」
陽奈もバツが悪そうに手を離した。
「志貴さん、そして教室の皆さんも。お騒がせして失礼いたしました」
銀華が優雅に頭を下げると、教室中がざわつき始めた。
「あれ、この前の双子だよな?」「本当にお迎えに来たのかよ」「なんであいつばっかり……」
「お迎えにあがりました。志貴さん、七瀬さん。それでは行きましょうか」
「……ああ。行こう、類」
「おう。ようやく解放されるな」
僕たちが教室を出ようとした、その瞬間。
後ろから陽奈が僕の背中に抱きついてきた。
「私、信じてるからね?」
耳元で囁かれたその声は、優しく、けれど逃げ場を許さないような重みを含んでいた。
まっすぐ僕を見つめるその瞳は、優しいはずなのに――なぜか目を逸らしてはいけない気がした。
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