PM4:30 楓のおばあちゃんの家
その家は、温かい雰囲気に包まれていた。
壁にかけられた、大きなタぺストリー、木枠の窓に並べられた、ハーブ?のガラス瓶、どっしりとした木の家具。
……本当に中世の農家、に来たような、そんな感じだった。
俺は思わず、ほっとため息をついた。そんな俺を見て、彼女がふふっと笑った。
「ちょっと落ち着かなかったでしょう? ここの村は特殊だから」
「え? そうなの?」
楓がきょとんとした顔をした。
……そうか、楓にとって、この村は『普通』に感じるのか。
「……すみません、どうも場違いな気がして……」
勧めてくれた椅子に座りながら、俺は本音を明かした。楓が隣に座る。
彼女が隣の台所に行き、トレイを運んできた。
「そう感じるのが普通よ? あの人もここに来た時、同じような事言ってたわ」
……あの人。楓の『おじいちゃん』か。
俺と楓の前に、木の器とスプーンが置かれた。中に入っているのは……。
「魔法のスープ、ね!」
楓がうれしそうに叫ぶ。
「さあ、召し上がれ。疲れたでしょう?」
「「……いただきます」」
俺と楓は、スープを一口飲んだ。
「美味しい! やっぱりおばあちゃんのスープは最高!」
食欲もあまりなかった楓が、嬉しそうに食べてる。
……心に沁みる味。温かさが骨まで伝わってくるような。
彼女はにこにこ笑いながら、楓を愛おしそうに見ている。
……なんだろう。この気持ちは。
楓が、ここで生き生きすればする程……罪悪感? 焦り?
訳のわからない感情が、喉にせりあがってくる……。
俺は、楓と彼女の会話を聞きながら、黙々とスープを平らげた。
ふーっと楓が息を吐いた。
「美味しかったー!!」
くすくすと彼女が笑う。
「まあ、大袈裟ね。あなたもこのスープ、作れるじゃない」
「でも、おばあちゃんが作ったのとは違うの!」
……楓が、甘えてる。
まだ見た事のない表情。小さい子が母親に駄々をこねているような。
……胸の奥が、ちくり、とした。
彼女が俺を見て、ふっと微笑んだ。
……みんな見抜かれている、そんな気がした。
彼女が席を立ち、食器を片づけ始めた。俺も立ち上がろうとしたが、お客様は座ってて、と止められた。
「ねえ、和也さん?」
楓が俺を見る。
「ん?」
「……おばあちゃん、素敵でしょう?」
「……そうだな」
この家に溢れてる優しさは、俺たちが住んでいる館、と同じ。全てを受け止めてくれるような、そんな安らぎに満ちている。
……それは、全て、彼女の力、だ。
「ありがとう、和也さん。私、おばあちゃんに会いたかったんです」
「……そうか……」
楓の嬉しそうな顔。それが見れただけで……良かった、と思える。
「……楓、和也さん」
彼女が、何かを手に持って、また戻ってきた。
……四角い陶器の、写真立て?
「……ねえ、楓。あなたの両親は、あなたがまだ小さい頃に亡くなってしまって、写真もほとんどない、って言ってたでしょう?」
「う、うん……」
「これはね、あなたが生まれた時の写真。大事に持っていたのだけれど……もう、あなたに渡してもいいと思うわ」
写真立てを受け取った楓が、びっくりしたような顔をした。
……俺も横から覗く。
(……え!?)




