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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
MoonLight*HoneyMoon
82/88

AM9:30 本社会長室~ルーマニア・魔女の村

「……楓さんの具合はどうじゃ?」

 大きなマホガニー製の机に座るじーさんに、俺は言った。

「大丈夫です。もう熱も下がってますし」


 まだ微熱気味だから、無理せず身体を休める、とは言ってたが。


「……和也。お前はこの一ヶ月、よくやったな」

「……会長?」

 じーさんの口調がいつもと違う。

「お前の力量を見るために、出来る限り仕事を任せてみたが……想像以上の出来じゃったぞ」

 ……単に仕事を押し付けてたわけじゃ、なかったのか。

 にいっとじーさんが笑った。

「……そこでじゃ、次の仕事は……」

 じーさんはどさり、と資料を机の上に置いた。

「各地に散らばる九条ホテルの視察、じゃな」

「は?」

「まず、手始めに……」

 ほれ、とパンフレットを俺の方に向けた。

 受け取って中を見る。緑豊かな、田舎の風景。ルーマニア……?


「……楓さんが言っておったのでな。いつか、おばあちゃんの故郷に行きたい、と」

 俺ははっと顔を上げた。


 じーさんが、渡航用の書類を2組、机の上に出した。


「……お前たち、新婚旅行もまだなことじゃし、楓さんも連れて、ひと月ほど滞在してはどうかの?」

「……会長……」

「プロジェクトも立ち上げたばかりで、仕事ついで、になるがな」

 俺は頭を深く下げた。

「ありがとう……ございます」

「楓さんが喜んでくれれば、わしは満足じゃ」

 じーさんがほっほっほ、と笑う。


 ……楓。おばあちゃんの国に行こう。

 そう言ったら、どんな顔をするだろう。


 楓の笑顔を思い浮かべながら、俺は書類を手に取った。





***





 濃い霧。濃い緑。人気のない砂利道。


「……本当に、この辺りか?」

「はい、大きな杉の木があるって……あ、あれかも!」

 楓が駆け出す。よかった、元気そうになって。

(飛行機の中でも、寝てばっかりだったからな……)


『本当!? 本当に和也さんとおばあちゃんの所に行けるの!?』

 そう言った楓は、本当に嬉しそうに笑った。

 仕事にかまけて、新婚旅行もまだだったから、じーさんがプレゼントしてくれた、と言ったら、涙ぐんでたな……。

 楓の風邪が治り切っていなかったから、『そんな贅沢しなくても』という楓の抗議を無視して、九条グループのプライベートジェットでルーマニア、ブカレストへ。

 そこからは、じーさんが手配してくれた九条ホテルの車で、トランシルヴァニア地方に向かった。

 中世の雰囲気をそのまま残した古い街並み。石畳に赤い屋根。楓は目をきらきらさせながら、あちこちのぞいていた。


 ……そして、目的地の『魔女の村』へ。


 地図にも載ってないから、車を借りて近くの村まで。そこからは徒歩。

 楓の体調が心配だったが、この辺りの澄んだ空気が合うのか、伏せっていたのが嘘の様に元気になっている。

「あ! おばあちゃん!」

 楓が声を上げた。前を見ると、大きな杉の木の下に、青いドレス?のような服を着た女性が、手を振っていた。

 楓が駆けだす。荷物を持ってる俺は、その後ろから、早足でついていった。


 楓の身体をそっと離し、女性が俺の方を見た。

 銀に近い金の髪、蒼い瞳。前一度見た時よりも、若くなっている……気がした。

「和也さん、よく来てくれました。あなたに会えるのを楽しみにしていましたよ」

 優しい声。

「……初めまして、お祖母様」

 俺は頭を下げた。結構肌寒いのに、薄手のドレス一枚?

「さあ、こちらにいらっしゃい。私の家へ案内するわ」

 彼女が楓の手を取り、歩き始める。そのすぐ後を俺は歩いた。


 え……!?


 ――一瞬、ぐらり、と地面が揺れた気がした。


「え……っ……」

 思わず目が点、になった。目の前に広がっていたのは、綺麗に整備された石畳の広場。真ん中に噴水がある。

 その周りを囲むように建っている、中世風の建物。


 さっきまで、人気のない丘にいなかったか!?

 ふふふっと彼女が笑う。

「ここはね、ちょっと外の世界とは違うのよ」

 ……確かに。雰囲気がどことなく違う。

 まるで時間が止まってしまったか、のような……


 広場にいる人が、彼女に挨拶をし、俺と楓を物珍しそうに見た。


「まあ、許してあげてね? この村を訪れる人って滅多にいないから、珍しいのよ」


 彼女が広場から放射線状に延びる小道を進む。しばらく歩いた俺の目の前に、小さなレンガ造りの家が見えて来た。

「……あそこよ。さあ、魔女の館へようこそ?」

 そういって、ふふふっと優しげに彼女は笑った。

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