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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
MoonLight*HoneyMoon
81/88

PM2:00 玄関ホール

「じゃ、お大事にね、楓ちゃん」

「ありがとうございます、晴人さん、美月さん」

「楓さん、和也のワガママばっかり聞いてちゃ、だめよ?」

「え?」

 目を丸くした私を見て、はあ、と美月さんがため息をついた。

「ちょっと、和也っ」

 ……和也さんを隅っこに連れて行って、何かお説教してる……みたい……?

「……楓ちゃん」

「晴人さん?」

 晴人さんが、真剣な目をして言った。

「いつか……俺が店を持てたらさ……


 ……『楓』っていう、名前にしていい?」

「晴人……さん……」

 晴人さんの気持ちが……うれしかった。

「ありがとうございます、晴人さん」

 私はにっこり笑って言った。

「でも……」

 晴人さんに、ひそひそと話しかける。


 ――あ、晴人さん、赤くなった。


「……ったく……」

 ふんわりウェーブに、右手を突っ込んで、がしがし回してる。

「……和也が楓ちゃんに頭上がらないの、判る気がするよ」

「え?」

 頭上がらない……って……。

 ふふふっと晴人さんが笑った。

「ありがと、楓ちゃん。そうなるように、努力するよ、俺」

 そう言った晴人さんが、ちらり、と横を見た。

「そろそろ帰るぞ~、伶子」

 あれ? 和也さんと美月さんが、こっちを睨んでる……?

 けらけらと晴人さんが笑う。

「……本当、楓ちゃんの事になると、余裕ないのな、お前」

 和也さんの表情が……氷点下……!?

「……えっと……?」

 ぽん、と晴人さんの右手が、私の頭に置かれた。

「じゃあ、また来るね。あ、そうそう、ケーキ冷蔵庫に入れてあるから、また食べておいて」

「はい」

 じゃね、と手を振って、晴人さんは出ていった。美月さんも「じゃあ、また」と言って、晴人さんの後を追った。


***


 ……晴人のヤツ、すっきりした笑顔だったな。

(……楓と親しげに話してたのは、気に入らないが)


「……楓」

 楓が俺を見上げた。まだちょっと頬が赤い。

「……晴人に何て言ったんだ?」

 楓が目を丸くした。


 ……あいつ、自分の店の名前、『楓』にしたいとか、言いやがって……。


 楓が俺の顔を見て、吹き出した。

「……和也さん、ちょっと拗ねてる」

「……悪いか」

 ぼそっと呟く。

 晴人の言う通り、楓に関して余裕なんて、これっぽっちも、ない。


 ふふふっと楓が笑った。

「……内緒ですよ?」

 楓は背伸びして、俺の耳元で囁いた。

「……『美月』にしたら、どうですか?って、言ったんです」


「え……?」

 俺の思考が一瞬、止まった。

「美月……!?」

「……はい。晴人さん、美月さんが好きなんだ、と思います」

 ……顔を合わせたら、口喧嘩ばっかりしてるようなやつら、だぞ!?

「……晴人が伶子に優しくしてるところなんて、見た事ないぞ……」

 楓がちょっと微妙な顔をした。

「……それは、和也さんがいつも美月さんの隣、にいたから」

「……俺!?」

 秘書の伶子は、いつも俺の傍にいた。それが当たり前、だったから。

「晴人さん、和也さんに遠慮してた、というか……意識してた、というか……」

 俺は目を見張った。

「……もしかして、あいつ、俺と伶子が……?」

 こくん、と楓が頷く。だって、私もそう思ってたし、と楓が付け加えた。


 ……何とも言えない、複雑な心境……。


「……俺にとって伶子は、秘書で、大切な友人で……」

 にっこりと楓が笑う。

「……今はもう、わかってると思いますよ、晴人さん。頑張るっておっしゃってましたから」

「……」

 晴人と伶子が……ねえ。俺の口からため息が洩れた。


「和也さんこそ、美月さんに何をお説教されてたんです?」


 うっ……一瞬、言葉に詰まった。


「その……、もう少しお前を大事にしろって」

「え?」

 楓がびっくりしたような顔をする。

「和也さん、私の事、大事にしてくれてるじゃないですか」

「……」


『……和也。昨日まで元気だった楓さんに風邪ひかせたの、あなたでしょ? 汗拭いた時に気が付いたんだけど、楓さんの体中に印あるし、背中にこすれたような痕まであるし……可愛いのは判るけど、もうちょっと、考えなさいよ』


 ……返す言葉がなかったな……。


「和也さん?」

 不思議そうに楓が言う。俺は頭を振って、楓の肩に手を回した。

「お前はまた、休んでおけ。片付けは俺がやるから」

「え……でも……」

 元気になった、と抗議する楓の唇を塞いだ。

「……いいから、休め」

 唇を離しながら、囁いた。

「……は……い……」

 潤んだ瞳。上気した頬。熱のせいだ、と判ってても、あまり目の前をうろちょろして欲しくない……。

(また、理性が飛びそうだ……)


 自分の制御が効くうちに、と俺は楓を抱きあげて、ニ階へと連れて行った。

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