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Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
一週間後
22/88

PM5:00 秘書室~リムジンの中

「……内村さん!?」

 美月さんが驚いたように声を上げた。

「は……い……」

 思わず小声になってしまう。

「いやもう、久々に腕が鳴りましたよ」

 岡村さんがにっこりと笑って言った。

「本当は、髪ももう少し短く切った方がと申し上げたのですが、それは嫌だ、とのことでしたので……」

「お肌もなめらかで、きめ細かく、ほとんど調整の必要ありませんでしたよ」

 は、恥ずかしい……。


 秘書室にある姿見に映る自分の姿。普段と全然違う。


 ――髪のすそに少しカールを入れ、トップからサイドにかけて、細かい編み込み。シフォン生地の白い薔薇がついた髪留めで、左サイドを留めてる。

 ドレスは、白に近いアイボリーのサテン生地に、ふんわりしたシフォン生地を合わせたもの。丈はちょうと膝下ぐらい。

肩を覆うシフォン生地のストールを、白い薔薇のスカーフ留めで胸元に留めている。履きなれないヒールがちょっと痛い。

「イメージは妖精ですよ。オードリー・ヘップバーンのような」

「本当、妖精みたいだわ」

 美月さんが感心したように言った。

「あ……りがとう、ございます……」

 メイクも普段あまりしないから……鏡に映る自分の顔が見慣れない……。

「……あら? 変わったメダルね」

 美月さんが私の胸元を見て言った。


 ――楕円形をした、銀のメダル。周囲は蔦の様な模様、中央に薔薇、その周りに古代文字らしき文様が刻まれていた。


「真珠を合わせようかとご提案したのですが、こちらのメダルがいいとおっしゃって……」

「これ、祖母のものだったんです。お守り代わりなので、つけてないと落ち着かなくて……」

「よく似合ってるわよ。雰囲気があって素敵だわ」


 その時、社長室の扉が開いて、和也さんが出てきた。

「……美月。用意でき……」

 私を見て、ぴたり、と足を止めた。


「……楓?」

「は……はい……」

 私は目を見張った。和也さん……ゴージャスとしか、言いようがない……。

 黒の礼服に白のドレスシャツ、派手な格好じゃないのに……目が離せない。和也さんも……私の事じっと見てる……。


「はいはい、お互い見とれてないで、準備準備」

 美月さんの声に、あわてて視線を逸らす。


「……ありがとう、岡村。相変わらず、いい腕だな」

 ふふっと岡村さんが笑う。

「いえいえ、内村様が素敵だからですよ。私はあくまで、彼女の魅力が引き立つように、お手伝いさせていただいただけのこと」

 岡村さんが私の方に来て、右手をとった。

「また、いつでもいらして下さいね。お待ちしています」

「ありがとう……ございます……」

 岡村さんも、スマートで素敵な人だなあ……さすが、ファッションの専門家は違う。深々とお辞儀をした後、岡村さんは帰っていった。

「……社長。お迎えが来たようですよ?」

 美月さんの声に、和也さんは「わかった」と頷き……荷物を持った。

「ほら、行くぞ」

 和也さんは……そのまま、すたすたと歩いて行った。私はぺこり、とお辞儀をして、慌ててその後を追った。


***


「……私、リムジンって初めて乗りました……」

 座席ふかふか。腰を下ろしたら、沈み込みそうな感じ。こんな高級車で迎えに来るって……和也さんのご親戚って、かなりの富豪、なのかなあ……。

 めずらしくて、きょろきょろしてたら、和也さんと目があった。

 和也さん、さっきから口数少ないけど……疲れてるのかなあ。ここ数日ずっと夜遅かったし。

 

 すっと和也さんの右手が伸びる。私がつけてる、銀のメダルを手に取った。

「……和也さん?」

「これ……は……」

「おばあちゃんからもらったメダル、です」

「……」

「私が生まれた時に、おばあちゃんが私にくれたもので……」

「……」

「ずっと身につけてる、お守りみたいなものです」

「……ずっと?」

「はい。肌身離さず」

「……」

 和也さんは何か、考え込んでる。

「……これと同じ物はあるのか?」

「いいえ。魔女の家系に代々伝わるもので、それぞれの家によって紋章が違うって聞きました。この模様はおばあちゃんの家系のものです」


 和也さんが手を離した。そのまま、窓の外を見てる。


「……今日、お前を連れて来るんじゃなかった」

 独り言みたいに和也さんが言った。

「え?」

 連れて来ない方がよかった……てこと? 私は、ちょっと俯いた。

「わ、私……じゃ、やっぱり見劣りするでしょうか。美月さんみたいに、美人じゃないし……」

「違う!」

 え?

 顔を上げると、和也さんが睨みつけるように、こちらを見ていた。

「……見せたくないんだ」

「え……」

「……今のお前。他の男に」

 ぽかん、と口を開けた私を、和也さんがまた睨みつけた。

(な、なに……っ……) 

 何だか、すごく不機嫌なんですけど……っ!

 和也さんは、ぷい、とまた窓の方を向いた。

  

 ……沈黙が続く。


 ちら、と和也さんの方を見た。街の明かりが彼の横顔を照らしてる。

 綺麗な横顔……。この人の横には、やっぱり美月さんの方が似合うよね……。


 ちり……ん


 ……鈴の音?


 メダルを手に取る。なんだか熱い。

(今、鳴った……よね……?)

 こんなこと、初めて。何か……の警告?


 和也さんは機嫌悪いし、何だか波乱含みな夜になりそう……。私は首をすくめながら、リムジンの窓の外を見ていた。

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