表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
一週間後
21/88

PM1:40 秘書室~社長室

「……美月さん!?」

「いらっしゃい、内村さん」

 ノートPCで作業している美月さん……だけど

「左手、どうされたんですか?」

 左手首からひじにかけて、白いギブスをはめていた。い、痛そう……。

「ちょっと、ね……」

 美月さんが苦笑した。

「まあ、指先は動くから、仕事は大丈夫なんだけど……」

 ほう、と優雅にため息をつく美月さん。

 あ、嫌な予感。キケンな雰囲気が美月さんからっ……!


「実はね……」


***


「えええええっ!? 美月さんの代わりにパーティーに!?」

 しっ、と美月さんが人差し指と立てる。

「まだ社長、お仕事中だから」

 私は口をつぐんだ。

「今夜の事でしょう? 代わりの人がなかなかいなくて……」

「……」

「あなたなら、社長のこともよく知ってるし、安心してまかせられるんだけど」

「で、でも、私そんな場に出席した事、一度もないんですよ!?」

「大丈夫よ、にこにこ笑って、適当に相槌打つだけだから」

 だ、大丈夫なんて、思えませんっ!

「あ、あの」

「なあに?」

「しゃ、社長のガールフレンドに頼めばいいんじゃないですか?」

「え?」

「すごい美人と連れ立って、どこかに行くの、見た事ありますよ!? そういう方だったら、パーティーとか慣れてるでしょうし……」

「……」

 美月さんがじーっと私を見た。

「内村さん。あなた、それでいいの?」

「え?」

 それで、いい……って……?

「社長が、他の女性を連れていても?」

「……」

 和也さんが、他の女性と……。


 ……あれ?

 胸の奥がちくり、とした。今まで何度も見た光景なのに。


「で、でも、私がいいとか悪いとか、言える立場じゃ……」

 はあ、と美月さんがあきれたように、ため息をついた。

「あなた、自分の立場をよくわかっていないようね……」

「……」

「……そういう女性は過去にいたけれど、今はいないわよ? それに彼女たちを連れて行っては都合が悪いのよ」

「都合が悪い……って……?」

「今回のパーティーは、社長のご親戚が主催者なの。そこに社員以外の女性連れていったら、どう思われるかしら?」

「えっと……」

「結婚を考えてる相手……って、誤解されるでしょう? わざわざ親戚に紹介するのだから」

「……」

「社員なら、『そういう相手がいないから、社員を連れて来た』って言えるのよ」

「……そ、ういうもの、でしょうか……」

 な、なんだかよく分からないけど……。

「それに、虫よけって意味もあるしね」

「虫?」

「社長を狙ってくる、女性たちの事よ」

 狙われてるんだ……。

「あんなパーティーに、社長一人で行かせたら、もう大変よ? 次から次へと蝶々が舞い寄って来るわ」

「……」

 確かに……新進気鋭のやり手社長で、背が高くて、顔も端正で、お金持ちで……ってなると、モテるんだろうなあ……。

 ……性格ドSだけど。


「あなたなら、その点安心でしょう? 社長に言い寄ったりしないでしょうし」

「し、しません、絶対に!!」

 和也さんを誘惑なんて、考えるだけでコワイ。私は首をぶんぶんと横に振った。

そんな私を見た美月さんは――微妙な笑顔になった。

「とにかく、あなたしかいないの、頼める人は」

 うっ……。

「この私が、総力挙げてあなたをサポートするから! 大丈夫よ!」

 み、美月さんの目つきが怖い……。この迫力、さすが第一秘書。

 へびに睨まれたカエル状態になった私を尻目に、美月さんは電話をかけ始めた。

 ……テキパキと電話越しに指示した後、美月さんが私を見て、にっこりと笑った。

 げ。今の肉食獣の笑顔、どこかで見た……っ。

(ひ、秘書と社長って、似るのかしら!?)

「さ、パーティーは十八時からだから、今から準備するわよ?」

「準備……って……」

「あなた、そのままの格好でパーティーに行けないでしょう?」


 こんこん。


「あ、来たみたいね」

 美月さんが立ち上がり、秘書室のドアを開ける。

「いつもありがとうございます、美月様」

 黒のスーツを着た細身の男性が、中に入ってきた。うわ~美形だなあ……思わず見とれてしまった。

「……こちらのお嬢さんでしょうか?」

 私の上から下まで、ざっと見た後、にっこりと笑った。

「……私、サロン・ド・ルージュの岡村、と申します。どうぞお見知りおきを」

「は……あ……」

「……これは、挑戦し甲斐のある、いい素材ですね」

 彼の右耳金色ピアスがきらり、と光った。

「岡村さん、よろしくお願いしますね。十七時にはこちらに戻るようにして下さい」

「はい、承知いたしました」


 がし。

「えっ!?」

 私の肩に、岡村さんの手がまわった。

「では、お店の方に参りましょうか。あなたの変身のお手伝いができて、光栄です」

「えええ!?」

 そのまま、結構強引に、秘書室のドアの方へ。あのあのあの!?

「じゃあ、頑張ってね~」

「み、美月さんっ!?」

 秘書室から連れ出された私が最後に見たのは、美月さんのにっこりほほ笑む姿、だった……。


***


「……手はず通り、内村さんは岡村さんにお任せしましたわ」

「……」

 俺は社長室に来た美月の報告に、机の上に両肘をつき、ため息をついた。

「楓に、他の女性を連れて行け、と言われるのは、結構こたえるな……」

「それは仕方ないでしょう。日頃の素行不良が問題ですから」

 美月がすました顔で言う。

「……」

 一週間一緒に暮らして、まだその程度、か。


「内村さんはいいとして……」

 ……伶子の口調が急に変わった。


「……あなたの方は、彼女を連れて行って本当に大丈夫なの、和也?」


 ……俺?


「大丈夫……って、何のことだ?」

 はあ、と伶子がため息をついた。

「わかってないのね……」

 内村さんに声をかけたのは、良かったんだか、悪かったんだか、と伶子が呟く。

「……今日、主催者じゃなくても、あの方来られるんでしょう?」

「……多分、な」

「もめ事にならないの? あなたの連れだって判ったら」

「……お前の代わり、として紹介するから、大丈夫だ」

 再び、伶子がため息をつく。

「本当にわかっていないわね……。あなたの私に対する態度と内村さんに対する態度、全然違うでしょうが」

「……」

「目が離せないって感じで見てたら、すぐバレるわよ? あの方、鋭いんだから」

「……そんなに態度に出てるのか」

「内村さんは鈍いようだから、気がついてないけれど……ね」

「楓は鋭いところもあるんだが……」

 ものの見方が『魔女として』だから、ちょっとズレている、というか……。

「……俺が気を付ければいいだけの話だ。顔だけ出したら、すぐに退散する」

 伶子が微妙な顔をした。

「そう、うまくいくかしら……ねえ……」


 伶子の言葉を断ち切るように、俺は言った。

「……仕事の続きだ。例の書類、持ってきてくれ」

 伶子ははいはい、と言って、秘書室に戻った。

 ……とにかく、残りの仕事を仕上げるのが先だ。

 俺はパーティーの事を頭の隅に追いやり、目の前の書類に集中した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ