表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
一週間後
23/88

PM6:00 九条邸

「うわ……」

 思わず声が洩れた。 ここ……本当に、日本ですかっ!?


 ものすごく広い大豪邸。リムジンで綺麗に整備された庭を抜け、玄関先まで送ってもらった。大理石の階段を和也さんと上る。ローマ彫刻の施された柱が立っていた。

盛装したきらびやかな人たちが、次々と広いホールに入っていく。ドラマでしか見たことない光景。


「……いいかげん、口閉じろ」

 和也さんの低い声。あ、ぽかんと見とれてた。

「す、すみません。こんな場所、来た事なくて……」

 じろっと見下ろされる。な、なんだか首をすくめたくなるんだけど……。


「……これは、和也様。ようこそおいで下さいました」

 黒のタキシードを着た、六十歳ぐらいの男性が、和也さんに深々とお辞儀した。

「……久しぶりだな、葉山」

 葉山さんが私にもお辞儀をした。私も慌ててお辞儀を返す。

「……私、当九条家の執事をしております、葉山、と申します。どうぞ、お見知りおきを」

「……内村 楓です。よろしくお願いいたします」

 穏やかな笑顔。おじいちゃんを思い出すなあ……。私は葉山さんに、にっこりと笑顔を返した。

 葉山さんが、じっと私の顔を見た。

「……失礼ですが、内村様はこちらに来られるのは初めて、でいらっしゃいますか?」

「はい、初めて……ですが」

「左様でございますか……」

 ……葉山さん、何か、考え込んでる……?

「葉山。何か気になるのか?」

 和也さんの言葉に、葉山さんは、少し首を振った。

「いえ、私の記憶違いでございましょう。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」

 再び一礼した後、葉山さんは別のお客様に挨拶に行った。

「……」

 和也さんは、しばらく葉山さんの方を見ていた。

「和也さん?」

 和也さんがはっとしたように、こちらを見た。

「……あちらが会場だ。行くぞ」

 足早に和也さんが歩く。私も少し大股歩きで和也さんの後を追った。


***


(ひ、人酔いしたかも……)

 私は広い廊下を、ゆっくりと歩いていた。


 ――パーティー会場はすごい賑わいだった。立食形式で、豪華な食事が所狭しと並べられていた。

 和也さんはあちらこちらから、声をかけられてた。私の事を珍しそうに見る人もいたけれど、和也さんが『秘書の美月の代理』って紹介してくれたから、皆一応は納得してくれたみたいだった。

 仕事の話で和也さんが捕まったから、ちょっと席を外させてもらって……今に至る。

(あれ……?)

 右手にギャラリーみたいな廊下が見えた。人もいないみたいだし、少しあそこで休ませてもらおうかな……。

 そう思って、ギャラリーに足を踏み入れた。


 人気のない廊下に、見たことある絵画や彫刻が所狭しと並べられていた。みんな本物……だよね?

「すごいコレクション……」

 ため息をつきながら見ていた私の目に――見慣れたものが飛び込んできた。

「え!?」

 ガラスケースに飾られた、一輪の薔薇。ドライフラワーになってるけど、これ……。


「ムーン・スター・ローズ!?」

 花芯が濃いピンクで、外に行くほど白っぽくなる品種。間違いない、これは……。

「どうして、ここに……」

「……お嬢さん、その花をご存じですかな」

 はっと振り返ると、萌葱(もえぎ)色の羽織はかまを着た、品の良いおじいさんが一人、立っていた。

「は、はい……」

 私はガラスケースを指差して、言った。 

「これは、ムーン・スター・ローズという品種です。月の光にかざすと、まるで星の煌めきのように花びらが光る事から、こう名付けられました」

「……」

「この花は……うちにしか、咲いてないはず……」

 おじいさんの瞳がきらり、と光った気がした。

「うち……とおっしゃったかの?」

「はい、これは私の祖母が品種改良した薔薇です。一株だけしかできなくて、うちにある株が唯一のはずです」

 おじいさんが私の前に、ゆっくりと歩いてきた。

「お嬢さん……もしかして、マリーさんのお孫さんか?」

 ――マリー。おばあちゃんの名前。

「おばあちゃん……祖母をご存じですか?」

 がしっとおじいさんが、私の両手を握った。

「やはり、そうか! こんなところで、マリーさんのお孫さんに会えるとは!」

 おじいさんは、嬉しそうに笑った。

「マリーさんには、若い頃、大変お世話になっての。戦時中、外国人への差別が酷くなったのが原因で、故郷に戻られたと聞いていたが……」

 おじいさんが愛おしそうに、ガラスケースを見つめた。

「これは、まだ戦争が激しくない頃、マリーさんからいただいたもの。不思議と何十年たっても色褪せない薔薇なのじゃよ」

「ムーン・スター・ローズには、月の魔力が宿る、と祖母が言ってました。きっとそのせいだと思います」

 おじいさんがおかしそうに、私を見た。

「あなたも、魔法を使えるのか?」

「え?」

 この方、おばあちゃんの事知ってるの!?

「マリーさんは、よく『魔法のスープよ』といって、美味しいスープをご馳走してくださった」

 あ、そういう意味……。私はほっとため息をついた。

「魔法のスープなら、私も作れます。おばあちゃん……祖母に教えてもらいました」

 おじいさんの手に力が入った。

「私の名は、九条 靖人(くじょう やすと)と言います。お嬢さんのお名前は?」

「内村 楓、です」

「内村……そうか……」

 九条さんは、何かぶつぶつと言っていたけれど、また私の目をじっと見た。

「初対面で不躾と思われるかもしれませんが……マリーさんの魔法のスープを、私に作っていただけませんかの」

「え……」

「あのスープの味が忘れられなくて、何度も作ろうとしたのじゃが……どうも、うまく作れなくて。死ぬまでに、もう一度、どうしても味わいたい、と思っていたのです」

 そんなにおばあちゃんの事、思っていて下さったんだ……。

「はい、喜んで。ただ、材料がうちにしかないので……」

 九条さんが涙ぐんでる……?

「もし、よければ、今すぐにでもご馳走になりたいのですがな」

「え? で、でもパーティーは……」

 九条さんは首を振った。

「もう私の出番はないのですよ。挨拶も一通り終わって、ここで休んでいた所ですから」

「あの、和……社長に聞いてみませんと……」

 口ごもる私を、九条さんはじっと見ていた。

「……楓さん、とお呼びしてもよろしいかな?」

「はい」

「楓さんは、どなたとここに?」

「S・I・コーポレーションの社長、高橋とです」

 九条さんの瞳に、光が宿った。

「ほう……彼と、な」

 九条さんがゆっくりと言った。

「いつも彼が連れて来るのは、美月さんとかいう秘書では……」

「美月が怪我をしたので、本日は私が代理で伺いました」

 九条さんは手を離し、ふむ、と腕を組んだ。

「高橋社長には、私から連絡しよう。彼もNOとは言うまいて」

「社長とお知り合いなんですか?」

「まあ、長い付き合いになりますがね」


 九条さんが手を叩いた。廊下の影からすぐに葉山さんが現れた。

「葉山。高橋社長に、わしが楓さんの家に行った、と伝えてくれるかの」

 葉山さんが頭を下げた。

「かしこまりました。お伝えいたします。車をこちらに回しておきますので」

「頼んだぞ」

 そういえば、葉山さん、ここ九条邸って言ってなかったっけ?

「あの……」

 九条さんは、にやり、といたずらっぽく笑った。あ、いじわるする時の和也さんに似てる。

「ちょっと彼には、いろいろ恨みがありましてな。驚かせてやりますわい」

「やっぱり、私から言った方が……」

 九条さんが首を振った。

「楓さんが言ったところで、結果は同じ、ですよ。まあ、彼もすぐ後を追って来るでしょう」

 九条さんが、私の右腕に自分の左腕を絡ませた。

「さっ、案内して頂けますか? マリーさんの家へ」

「は……い……」

 和也さん、大丈夫かなあ……。葉山さんが伝えてくれるって言ったから、心配ないとは思うけど……。

『見せたくない』

 和也さんの言葉が胸に浮かんだ。それだったら、あまり会場をうろちょろしてない方がいいかしら……。

 そう思いながら、九条さんを見た。瞳がうれしそうにキラキラしてる。

 こんなに楽しみにされてるんだったら……願いを叶えてあげたい。私はそう思った。


 ――少し迷いながらも、九条さんに引っ張られて、私は庭に停めたリムジンに乗り込んだ。


***


 ……楓は?

 仕事の話に捕まっている間に、すっかり見失ってしまった。白い妖精を探す。見当たらない。


 ……あいつ、どこかで誰かに言い寄られたりしてないか!?


 今日の楓は、本当に綺麗、だった。儚げな感じが、本物の妖精のようで……自分だけのものにしたくなった。

 その気持ちを抑えるために、わざと距離を置いていたら、この始末だ。


 ……会場内にはいないようだな。この屋敷、広いから迷ってるのか?

 足早に会場から出たところで、声をかけられた。

「……和也様」

 俺に向かって頭を下げる、葉山の姿があった。

「葉山。ちょうどよかった」

「……内村様の事でございますね」

「な……」

 葉山が、少しすまなさそうな顔をした。

「申し訳ございません、和也様。実は……」


「……楓の家に行った!?」

「はい……どうしても、と駄々をこねられまして……」

 あのじじい、何を……!

 葉山がこほん、と咳をした。

「その……内村様は、旦那様の初恋の女性のお孫さん、でいらっしゃって……」

「楓が!?」

「はい……内村様を、大層お気に召されたようでした」

「……」

 怒りがふつふつと沸いてきた。

「……すぐに失礼する。車を回してくれ」

「かしこまりました」

 葉山が一礼して立ち去る。俺も玄関へと早足で向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ