表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fly*Flying*MoonLight  作者: あかし瑞穂
一週間後
24/88

PM8:00 食堂

「この味……昔食べた通り……!」

 九条さんは、食堂のテーブルに座って、おばあちゃんの『魔法のスープ』を一口食べて、こう叫んだ。

 よかった、喜んでもらえて……。すぐに食べたい、とおっしゃったから、朝ごはんの残りでよければ……とお出ししたけど。

「本当に、心の底まで沁み渡るような……」

 九条さんが目頭を押さえた。

「マリーさんにお会い出来なかったのは残念じゃが……こうしてこのスープを再び飲めて、本当に良かった……」

「祖母もきっと喜んでいる、と思います」

 九条さんが、笑いながら私を見た。

「楓さんは、マリーさんに良く似ておられるな」

「本当ですか!?」

「ええ。雰囲気や優しい笑顔がそっくりですよ」

 すごく嬉しい。私は思わず満面の笑みになった。

「ありがとうございます。そう言って頂けて、とても嬉しいです」

「マリーさんも、妖精のように美しい方じゃったが……」

 九条さんも優しく微笑んだ。

「楓さんもとてもお美しい。きっと高橋社長も見とれていたでしょうな」

「え……」

 言葉に詰まる。

「和……社長は……」


 ――その時、玄関の扉が乱暴に開く音がした。つかつかという足早に近づいて来る、音。

食堂の両開きの扉も、音を立てて開かれた。

「……楓っ!」


 振り向くと、全身から怒りが滲み出ているような和也さんの姿、が。

「か、和也さん……おかえりなさい」

 怒ってる!? すごい目で九条さんを睨んでるけど!?

 ……九条さんの方を見ると、今にも吹きだしそうな顔、をしていた。


 和也さんが九条さんの席の横まで歩いてきた。九条さんは、和也さんの視線もどこ吹く風、といった感じで、悠々とスープを口にした。

「……一体、どういうつもりです?」

「どういうも何も……わしはただ、楓さんに『魔法のスープ』をご馳走していただいた、だけじゃよ」

 うわ……和也さんの雰囲気、悪魔みたいになってる……。

「パーティーの主賓が途中で抜け出して、どうするんです」

 主賓!?

「わしの挨拶はもう済んだぞ。ちょうど息抜きしていたところに……」

 九条さんが笑みを含んだ目で、私を見た。

「この美しいお嬢さんと出会ってな。お話ししてみたら、何と、わしの初恋の女性のお孫さんじゃないか」

「……」

「楓さんはわしの我がままをきいてくれただけじゃぞ。彼女を責めないでやってくれ」

「楓を責める気はありません。あなたみたいに手の早い人が参加してる、とわかってて、彼女を放っておいた俺が悪い」

 て、手が早い……って。

「いや~わしが、あと三十歳若かったら、是非結婚して下さい、とプロポーズするところじゃが」

 九条さんが私にウィンクした。

「あ……の?」

「ずうずうしいこと言ってないで、とっとと食べて下さい」

 ぴしゃり、と和也さんが言った。

「……ったく、相変わらずケチくさい男よのう……」

 ぶつくさ文句を言いながら、九条さんがスープを食べる。

「楓」

「は、はい……」

 不機嫌MAXの声……。

「お前も着替えて来い。パーティーにはもう行かなくていい」

 有無を言わせない口調。これは……逆らわない方がいいよね……。

「わ、わかりました……」

 九条さんにぺこり、とお辞儀をして、私は着替えるために2階へと上がった。


***


 楓が席を外した後、俺は尋ねた。

「楓に余計な事、言ってないでしょうね!?」

 ふっふっふ、と不気味な笑い声が響いた。

「……楓さん、さっきお前が来た時、『おかえりなさい』と言っておったな?」

「……」

 相変わらず頭の回転がやたらと早いな、このじーさんは。

「最近、お前があのマンションに戻ってない、と報告を受けていたが……こんな所に隠れておったとは」

「別に隠れていません」

 じーさんがけらけらと高笑いした。

「その様子じゃと、全然うまくいってない、ようじゃな」

「……」

「楓さんは、気立てのよい、いい娘さんじゃな。わしは気にいったぞ」

「別にあなたに気に入られなくても、いいんです」

 じーさんの瞳が光った。

「お前がさっさと何とかしないなら、わしが楓さんに後妻に入ってくれと頼むかも知れんぞ?」

「ずうずうしいにも程があるでしょう!? いくつ年が離れてると思ってるんですか、あなたはっ!!」

 じーさんが澄ました顔で言った。

「愛があれば歳の差など、関係ないものじゃて。そうなれば、楓さんはお前の『おばあさま』になるがな」

 誰がだ!!

 こぶしを握りしめる。思わずぶん殴りそうだ。そんな俺の様子を横目に見ながら、じいさんは悠々とスープを飲んでいた。

「いずれにせよ……」

 もうすぐ飲み終わり、というところで、じーさんが言った。

「いずれ決着はつけねばならん。お前も覚悟はしておくようにな」

「……俺が、そんなものを望んでなくても?」

 最後の一口を食べた後、じーさんが「ご馳走様でした」と手を合わせた。

 美味かった、と満足げな感想を言った後、じーさんが言った。

「望むも望まないも関係ない。お前にはその能力がある、その事実が大切じゃからな」

「……」

「楓さんには、何も言ってない、そうじゃな?」

「……楓と俺は、そんな関係じゃありません」

 ……今は、まだ。

「いずれそうなりたい、と思ってるくせに、もどかしい奴じゃのう。わしの孫とも思えんわ」

「いい加減に……」

 そう、言いかけた時、楓が食堂に戻ってきた。


***


「すみません、遅くなって……」

 あ、九条さん、食べ終わってる。

「ご馳走様でした、楓さん。本当に美味しかった」

 思わず笑みがこぼれる。

「ありがとうございます。またいつでも、食べに来て下さいね」

 九条さんも、嬉しそうに笑った。薄手のセーターにスカート、という私の姿を見て、九条さんの目が輝いた。

「先程もお美しかったが、普段着姿も可愛らしいですな、楓さんは」

「は、はい……ありがとうございま……?」


 え……なんだか、どす黒い気配……が……。

 恐る恐る和也さんを見ると……すごく怒ってる!? 目が……コワイ……。


 九条さんが、よっこらせ、と席を立った。

「ぜひ、このスープのお礼をさせて下さい」

「いえ、お礼なんて……」

「それでは、わしの気が済みません。何でも結構ですぞ。わしに出来る事があったら、ぜひおっしゃって下され」

「あの……」

 特にないです、とも言いにくい雰囲気……。

 ……あ。一つだけあった。

「じゃあ……」

「……また祖母の話を聞かせて下さい。おばあちゃんは、その時代の事、あまり教えてくれなかったんです」

 九条さんが笑う。

「承知しました。では、今日はこれで失礼させてもらいます」

 和也さんが九条さんに手を貸した……というか、腕を掴んで拘束してません!? 和也さん……。

「俺が送って来る。お前はもういいから」

「はい……」

 とりあえず玄関まで出て、和也さんと九条さんを乗せたリムジンが出て行くのを、手を振って見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ