【07】 「二度あることは……」
車は東名高速道路を浜名湖方面へと走っていた。
千鶴「こんな話があるのよ。ある女子レーサーの話なんだけれどね」
爽香「はい」
千鶴「そのレーサー、デビューして最初に(ボートレース)蒲郡に来たときは、デビューしたてで慎重にスタートしていたせいか、フライングをしなかったんだけれど、二度目に蒲郡に来たときは『06』のフライングをしてしまったの」
爽香「えーっ、即日帰郷じゃないですか?」
千鶴「確か、『05以上で即日帰郷制度』が始まる前年のことだったと思うわ」
爽香「じゃぁセーフですね」
千鶴「ええ、その選手は最終日まで走ったはずよ。そして、3度目で蒲郡に来た時、初日いきなり、また『04』のフライングをしてしまったの」
爽香「初日とは、つらいですね」
千鶴「あとは、もう散々だったわ。『30前後』のスタートを繰り返すだけで、5着、6着の繰り返し」
爽香「あたしも気を付けなくちゃ」
千鶴「そして4度目の蒲郡、その選手どうなったと思う? フライングをしたか、しないか?」
爽香「まさか、またフライングなんて、しないですよね」
千鶴「ファイナルアンサー?」
爽香「ファイナルアンサー! フライングしてません!」
千鶴「こんな言葉を知っている? 『二度あることは』?」
爽香「『二度あることは、誰のせい』?」
拓也がコケて、思わずハンドルを右に回してしまい車が寄れた。
爽香「きゃっ! 危ない」
拓也「ごめん、ごめん」
爽香「運転、大丈夫ですか?」
拓也「うん、大丈夫」
千鶴「それこそ、誰のせいで車がこけたのよ」
爽香「あたしのせい?」
千鶴「多分?」
拓也「ははははは」
爽香「『二度あることは、やみつきになる』?」
千鶴「それも違うわ。『2』の次は?」
爽香「『3』。あっ、思い出した! 『二度あることは三度ある』」
千鶴「正解!」
爽香「あたし、勉強が大嫌いだったからなぁ」
千鶴「あたしもよ。だからボートレーサーになったの」
爽香「あたしなんか、勉強が嫌いを通り越えて、まったくしませんでした。今のと同じように、先生に、『犬も歩けば?』と、聞かれて、」
千鶴「『犬も歩けば?』と、聞かれて?」
爽香「『猫も歩く』と答えたんです」
拓也「ははははは」
千鶴「ははははは。うまい! 最高!」
爽香「みんなに笑われました」
千鶴「いいのよ、勉強以外で頑張ればいいんだから」
爽香「『犬も歩けば、猫も歩く』の方が言い易いし、自然だと思いません?」
千鶴「そうね。誰かがマンションのベランダから通りを見ていて、有りそうな風景だわ。平和でのんびりとした雰囲気が出ていて素敵なフレーズだわ。心が癒される」




