【04】 説教と「浮遊物」の烙印
今度は係員がやってきて
爽香を叱りつけた。
係員「デビューして3節目でもうフライングか、お前は何を考えて走っているんだ! 自分のことしか考えてないんだろう! 養成所でフライング事故がどんなに重大な罪か習わなかったのか?」
しばらく沈黙が続いた。
係員「習わなかったか? と聞いているんだ」
爽香「習いました」
爽香が小さく答えた。
係員「えっ? 聞こえない!」
爽香「習いました!!!」
爽香が大声で言った。
係員「あれが見えないのか?」
係員が壁に貼ってある紙を指さした。
そこには『今日も無事故完走』と書かれていた。
係員「あれが見えないのか!!!」
係員が今度は大声で怒鳴りつけた。
爽香「見えます!!!」
爽香も大声で答えた。
係員「お前はあれも見えないぐらいだから、大時計も見えないんだよ!」
爽香の目に涙が溜まってきた。
係員「フライングしたらまずお客様に迷惑がかかる。返還金作業で事務に支障をきたす。そして何より売上がなくなったらこの仕組み、この組織が崩壊してしまうんだよ。関係者への給与、お前達の賞金、学校関係・福祉関係への寄付金、誰が払うんだ。お前がフライングするたびに、お前が1千万円2千万円出してくれるのか? はぁっ?」
爽香は下を向いたまま
涙が床へと落ちた。
係員からの説教は
その後も延々と続いた。
説教が終わり通路を歩いていると
誰かが爽香の横を通り過ぎた。
その瞬間だった。
選手「フライングしたら浮遊物なんだよ。お前なんかさっさと消えろ」
と、罵声を浴びせられた。
そう言ったのは、
爽香がフライングしたレースで
2番手を走っていた男子レーサーだった。
爽香は、そのレーサーが手に持っていた
ヘルメットの色と模様でそのことに気付いた。
爽香(あたしは浮遊物か……)
爽香は呆然となった。
返す言葉もなく、
深く、深く落ち込んで行った。
爽香(そうか、あのヘルメットの振り方は『お前はフライングしたからコースアウトしろ』って意味だったんだ。2番手レーサーにとっては、フライングしたあたしが邪魔だものね。あたしが、どかないといけなかったんだ。もっともその前に『5号艇失格』の放送に気付き、自ら航走を外へと変えなくてはいけないのに。あたし、何やってんだろう……)
爽香(3節走ってすべて最下位、賞金ゼロ、おまけに周りのみんなに迷惑をかけて……、浮遊物かぁ~、ほんと、あたしは浮遊物なのかも知れない。ボートレーサーに向いてないのかな? 誰かが『浮き草稼業』と言ってたけれど『浮き草稼業』とはよく言ったものね。ボートレーサーになっていなければ、こんな辛いことを経験しなくて済んだのに)
目に涙が浮かんできた。
思わず爽香は上を見た。
その涙がこぼれ落ちないように。




