第五話「父の日のチケットと一日外出券」
「お父さん、これ父の日の感謝の気持ち」
差し出された白い封筒を受け取ると、なかに厚みのある平たい感触があった。
金か、商品券でも入っているのかとちょっと期待して開けたら、厚紙で作った「肩叩き券」だったので正直がっかりした。
別にこんなチケットを貰わずとも、肩が凝ったときは叩かせているんだから、有効期限があるこのチケットを貰った方がむしろ損なんじゃないか。
何枚作ったんだと思ってペラペラめくると、「腰揉み券」が見つかった。
「ほう、これはまた別なんだな?」
「色々あるよ」
脇腹、頭まで揉み券があるので、よっぽど揉むのが好きなのだろう。
最後の一枚が「玉揉み券」だったので、
「阿呆! 子供に己の一物揉ませる親がいるか!」
俺は反射的に厚紙を放り投げた。
勝太郎は俺の狼狽ぶりを予期していたかのように、手を叩いて笑い転げている。
子供は親に似るというが、女房はこんな愛嬌のある性格はしていなかったし、俺はそもそも親に近づかなかった。
親に似るといっても、性格は似ないのだろう。
恐らく使わんと思うが一応礼を言って、机の上に置いた。
父の日で連想したが、この子は母の日、どこにいるかも分からん母親を想って、カーネーションの一本でも欲していたのだろうか。
急に不憫になり、「玉揉み券」を取り出し、裏に「外出券」と書いて渡した。
「何これ?」
「俺が暇なときに一日一緒に外に出る券だ。どこでも、行けるところへは行ってやる」
「東京でも?」
「ああ」
「遊園地でも?」
「ああ」
「外国でも?」
「一日で帰ってこれるか! ちったあ常識をわきまえんかい!」
チケットを持ったまま、後ろにひっくり返って楽しそうに笑っている倅を見て、俺は『灰色の美学』を執筆するため机に向かった。




