【四年生・六月】 第四話「雨の夜の感受性と白い烏」
「毎日毎日、雨がよく降るねえ」
「まあ、梅雨だからな。それに雨が降らねえと豊作にならねえ。日本の農業のためには喜ぶべきことだろうな」
「でも、洗濯物が乾かないのは困るね」
そりゃ、たしかに困る。
駅前のコインランドリーへ乾燥機にかけに行くため、勝太郎と二人で、洗濯物を詰めた黒いビニール袋を背負って外に出た。
「お前にも長靴を買わないといかんな」
「ううん、僕はあまり好きじゃない。動きづらいから」
普通のズックだと雨が入り込んで気持ち悪いと思うが、本人がそう言うなら別に構うまい。
「雨の夜に外出するのは乙なものだな」
「風流だね」
俺はさすがに、風流とまで感じる詩的な感受性は持ち合わせていない。
しかし風流が分からぬと思われるのも耐えがたい。
思わず倅の顔を見ると、傘を叩く雨音に合わせて鼻歌かなんか歌っていて、結構楽しそうだ。
缶コーヒーを飲みながら、ガタガタと震える乾燥機の前で洗濯物が乾くのを待っていると、
「ねえ、お父さん。どうして烏は黒いか知っている?」
と、馬鹿なことを聞いてきた。
「烏が白ければ鷺じゃねえか。黒いから烏なんだよ」
「烏が白くても鷺にはならないよ。『白い烏』と言うべきだね」
白い烏なんて生まれてから一度も見たことねえ。
そんな烏、本当に飛んでいるのか。
「烏はね、環境に適応して徐々に黒くなっていったんだよ。黒い方が生き延びやすかったんだ」
「なんでお前にそんなことが分かるんだ? 自分で見てもいないのに適当なことを言っちゃいかんぞ」
進化論から推測したんだと力説する倅を見て、学校で真面目に勉強しているんだなと感心した。
しかし、白い烏が徐々に黒くなっていくことなんて本当にあるのかな。




