第七話「勝太郎だけ例外」
我が家は代々、固太りの体質で、特別な鍛錬をせずとも力だけは人並み以上に備わっている。
かといってオリンピックに出るほどでもないからたいした自慢でもない。
俺の祖父、金之助は中国大陸での転戦中、三十キロを超す弾薬を背負って六十キロを歩き抜いたという。
歩みを止めれば、その場に捨てられるからやるしかないんだろうが、たいしたもんだ。
百姓だったので、さぞかし村でも頼りにされたことだろう。
叔父も負けていない。
両手に半俵ずつ、さらに口で小俵 を咥え、計三俵もの米俵を担いで校庭を一周したという伝説を持つ。
もはや馬といい勝負ができるレベルだ。
配管工だったのだが、その怪力も仕事にはあまり役立たなかったようだ。
親父も百六十センチと小柄ながら、腕相撲ではその叔父以外に負けたことがないと豪語していた。
兄貴も胸囲百三十センチを優に超える巨躯だ。
俺も一族として恥ずかしいというほどではない。
だが、勝太郎だけは例外だ。
低学年の頃、奴は毎日のように女の子に泣かされて帰ってきた。
その不甲斐なさに、たまに会う俺は「一体どういう根性だ」と呆れたものだが、お袋は「勝っちゃんは頭で勝負する子なんだからね」と、叱るどころか甘やかして育てた。
あの暴君そのものだった親父も、脳梗塞を患ってからは毒気が抜け、勝太郎をひたすら可愛がった。
かつての俺にとって恐怖の対象でしかなかったその背中に孫を乗せ、「ハイドー、ハイドー」と馬になっているのだから、世話はない。
もっとも、本当に丸くなったのかは疑わしいものだ。
勝太郎が爺様の背中で得意になっているのを見た時、俺は倅の内弁慶さに無性に腹が立った。
「手前、お爺様の背中で何をやってるんだ!」
引きずり降ろすと、小学生にもなって奴は泣き出した。
すると、それまで馬に甘んじていた親父が激怒した。
勝太郎が持っていた新聞紙の剣を奪い取り、凄まじい勢いで俺の頭を叩いた。
「俺が好きでやってるんだ、この馬鹿野郎!」
理不尽であった。
呆然とする俺を尻目に、親父は「勝っちゃん、あっちで遊ぼう」と泣く孫の手を引き、意気揚々と部屋を出ていった。
「親の面子も考えてほしい」とお袋に愚痴をこぼせば、
「孫はただ可愛がるだけでいいの。後の責任はお前が負え」
あまりに冷たい返事であった。




