第八話『贅沢の基準と10キロの米』
家計簿をつけていて頭が痛くなった。
家賃2万5千円、水道ガス光熱費1万円、食費2万5千円で、合わせて6万円もかかっている。
これに税金と各種保険代を引かれると、金が貯まるわけはない。
富の偏在が文明を開花させると信じてこの清貧生活に耐え抜いていかなければなるまい。
食費を浮かそうと思っても、米を大家の坂口の婆さんから買っているからそうもいかぬ。
10キロ5000円は高いのか安いのかわからんが、断れない。
それなのに、勝太郎の衣服代は年間3万〜4万円くらいかかっている。
俺の衣服代はこの2年間で1万円くらいだからちょうどいいと思うが、倅に対して少々、金をかけすぎているような気がしないでもない。
俺の母親は、子供の服にはまったく無頓着な人で、俺は小学校時代、一年中半袖短パンだった。
俺は当時、相当お洒落な子供だったので、それが少し苦痛だった。
ただ、周囲もそんな奴が多かったのと、少しでも意見をすると「色気づきやがって」と嫌味を言われるので、我慢していた。
そこで、勝太郎には自分で着る服を自分で選ばせている。
勝太郎も普段は金を使わない生活をしているが、このときは自分の好きな服をいろいろ時間をかけて選ぶ。
俺は大概、喫茶店でコーヒーを飲みながら読書をして、勝太郎が帰ってくるまで待っている。
この間、買い物に出かけたとき、「遠慮しないで好きなものを買え」と2万円を渡したが、本当に全額近く買ってきやがった。親の金だと思って本当に遠慮しない。
それでも、俺には分からぬ洋服のジャンルを楽しそうに語る勝太郎の話を、コーヒーを飲みながら聞くのは悪くない。
また、俺にはランニングシャツ一枚贈ってくれない坂口の婆さんだが、勝太郎が身なりを飾るのが好きなことを知っているので、服を買ってきてやったりお洒落な古着を貰ってきては自分なりにアレンジして勝太郎に着せている。
布の切れ端を縫い上げたズボンとかは正直、浮浪者にしか見えないが、こういうジャンルもあるらしい。
自分の孫にそれだけやってやればいいのにと思うが、嫁と息子に相手にされないのでしかたない。
婆様は生来、子供好きなのだろう。
勝太郎を喜ばせるために児童服の雑誌などを買って、勝太郎とあれこれ話している。
しかし、我が家は狭く、また勝太郎も成長期なので、着ない服や着られない服が溜まってくる。
そのため、それらを二次利用することになる。
あまり物惜しみをしないように見える勝太郎だが、自分の服に対する執着はあると見えてなかなか選ぼうとしない。
だが、染みが落ちない服、着られなくなった服、あまり気に入らない服は容赦なく裁断し、雑巾やフキンに縫い上げてしまう。
俺は破れたところを繕うのと、雑巾を縫い上げる技術だけは持っているが、最近は勝太郎のほうが縫い上げるスピードも質も早くなってきた。
年を取るとどうしても目が悪くなるので、これはやむを得ないのかもしれない。
ただ、あまり雑巾やフキンばかり作っても仕方がないので、Tシャツやシャツを裁断し、縦に縫い合わせて俺の褌を縫うときもある。
当然、尺が足りないので、途中から色違い、材質違いのカラフルな褌が出来上がる。
人に見せられるものではないが、下着は人に見えないので差し支えない。
夏は裸に褌一丁で執筆に励んでいるが、ノックもせずにドアを開けるのは坂口の婆さんくらいなので、これも差し支えない。
とくに梅雨の時期には洗濯物が乾かず難儀するが、そういうとき、褌は誠に重宝する。だからここに引っ越してから、下着を買ったことがない。
『Dad Told Me:世界がズレる親子の正しくておかしい日常』
小学四年生 終了




