第六話「針の感覚と彫師の誤解」
背中に沸いた腫れ物が、いよいよ熱を持って脈打ち始めた。
焼酎の小瓶を買って帰った俺を見て、勝太郎が瞬きをする。
酒を飲んだのは、勝太郎が作ったあの忌まわしい濁酒と工場の金さんに誘われたあの日以来だ。
あの夜、酩酊して帰った俺は、すぐに布団にもぐりこんだ。
そのまま気持ちよく寝ていたのだが、夜間に「お父さん、痛いよ」と勝太郎が笑いながら押し返したので目が覚めた。
勝太郎と、まだ帰らぬ女房を寝ぼけて見間違えて、顔に髭を擦り付けたらしい。
外に出て、冷たい缶コーヒーで酔いを冷ました。それ以来、酒は避けていた。
だが、今夜はそうもいかない。
「上着を脱いで、手を洗ってこい」
マジックで、患部に切開の線を引かせる。
シャツを切り裂きガーゼを作り、焼酎を浸して背中を拭かせた。
「いいか。痛いのは俺だ。お前は迷うな、一気にやれ。途中で止めたら、さすがの俺も悶絶しかねんからな」
勝太郎は青ざめていたが、黙って頷いた。それを見たあと、俺はタオルを噛んだ。
針の先が皮を破り、身を裂く。
鋭い鉄の感覚が背中を走り、続いて重苦しい激痛が襲ってきた。
「切れたか!」
「……切れた。血と膿が出てる」
勝太郎の声が、指先とともに震えている。そのとき、ドアが叩かれた。
「誰だ! 入れ!」
隣の遠山が顔を出したが、そのまま硬直した。
褌一枚でタオルを噛む俺と、血に染まった針を握る裸の少年。遠山は一瞬で顔色を変え、「失礼しました」と逃げるように去っていった。馬鹿にかまっている暇はない。
「全部出せ。残すな」
タオルを噛み締め、発狂しそうな激痛に耐える。
背中をドロリと、熱い粘液が移動していく感触が走った。
5枚のガーゼが瞬く間に汚れていく。
「も、もう大丈夫だと思う。出てこない」
「焼酎を、そのままぶっかけろ」
傷口に炎を押し当てられたような衝撃が走る。小便を漏らしそうになったが、勝太郎を置いてあの世へ行くにはまだ早すぎる。
世の親ならこれくらいは耐えるものだ。自分にそう言い聞かせ、意識を繋ぎ止めた。
翌朝、玄関先で会った遠山が、怯えた目で聞いてきた。
「昨日の……あれ、刺青を彫ってたんですか?」
否定する気力もなかった。
傷口が疼き、声が出ない。
遠山は勝手に納得して、深々と頭を下げて去っていった。
以来、遠山は俺を見るたび、軽く会釈するようになった。




