第二話「簡素な八畳間と勘のいい人間」
人から見れば物置と変わらん部屋かもしれんが、1DKの八畳だから二人で住むには十分だ。さらに、明日夜逃げすると決まっても30分で身支度ができるくらい簡素に整っている。
ただ、勝太郎の衣服が少し多いのが難点だ。
去年買った服が今年着られるとは限らない年頃だから、これはやむを得ないか。
そんな部屋で、勝太郎は毎日、4時か5時には帰ってきて、俺が帰るまで一人でいる。
ラジオはあるがテレビもゲーム機もない。
さぞつまらんだろうと思い、勉強のやり方だけは教えておいた。
帰宅すると、ちゃぶ台にノートを広げて何やら書いていることがある。
やっているのかと思えば、鉛筆を持ったままぼんやりしていることもある。
「やるならやれ、やらんのなら寝ろ」
と言うと、慌てて手を動かし始める。
読み書きや九九、加減乗除は祖父母に叩き込まれていたらしく、授業にはついていっているようだ。
もっとも、四年生で授業についていけなければ、それはもう完全に落ちこぼれだ。
そういうのは無理に机に縛りつけるより、大工にでも預けて手に職をつけさせたほうがいい。
本当の馬鹿に勉強をやらせるのは、本人にとっても周りにとっても不幸だ。
俺は教習所で、本物の馬鹿というのを見たことがある。
漢字が読めないのに、なぜかテストで90点以上を取る。
「勘がいいんでしょうかね」と教官も首をひねっていた。
勘だけで人生を渡れる人間というのは、世の中には案外いるものらしい。
そんな人間でも一票を持ち、仕事がある。つくづくありがたい国だと思う。




