第二十三話「脇の下のぬくもりと不思議な体臭」
大晦日は半ドンだ。金さんも日下部さんも参加しない忘年会など出る気にもならず、早々に引き上げてきた。
俺の意見具申を一向に取り上げようとしない職場に、忘年会まで精励恪勤なんてしてられん。
さぶいさぶいとドアをあけると、暖房の効いたなかで勝太郎が刺繍をしていた。
「お前、一日中そんなことばっかりしてるのか?」
「い、いや、ちょっと疲れたから気分転換」
「気分転換のほうが長すぎるんじゃないのか。少しは勉強しているのか。新しい日本のために、ちったあ学生の本分を尽くさんかい。日教組の先生方なんて年末年始抜きで会合、会合、勉強会の嵐だぞ。学生が勉強しないでどうする」
着替えながら、気持ちよく説教を垂れる。
親冥利に尽きる瞬間というのは、こういうときのことを言うのだろう。
「だから気分転換って言ってるじゃないか、うるさいじじい!」
小倅も、俺が早く帰ってきて嬉しいのか、笑いながら悪態をつく。
「お前、親に向かってじじいとは何事だ! 折檻してやるからこっちにこい!」
「叩かれるためにわざわざ行くもんか。馬鹿じゃないの?」
「お年玉やらんぞ」と脅すと、恐る恐る近づいてきた。
そこで冷えた手を服のなかに突っ込んでやると、「冷たい!」と言いながら笑う。
あちこち触っているうちに、脇の下が一番暖かいことを発見した。
上気した顔を見て、これで十分だろうと思い、「さあ、大掃除だ」と声をかけた。
子供は汗臭いものだと思っていたが、勝太郎からは妙に甘いというほどではないが、なんとなくかすかな匂いがするような気がする。食生活が変わると体臭まで変わるのかもしれない。
もっともタバコを吸っている俺の鼻だから当てにはならない。
普段から片付いている部屋だ。
雑巾で窓の桟やドアの隙間を拭うと、1時間もかからず終わった。
そのあと愛車で街に出て、少し早い年越しそばを食べ、坂口の婆さんの部屋へ向かった。
そこで緊張しながら「紅白歌合戦」を見た。演歌に入ると、勝太郎がうとうとし始めた。
礼を言って、家に戻った。




