【四年生・十一月】 第十八話「探検外食と粋な蕎麦湯」
三週間連続で休日出勤だ。納期が間に合わないという理由はわかるが、その忙しい工場を平気で無断欠勤する馬鹿がいるからたまらん。
ああいう馬鹿が来ていれば、俺が駆り出されることもなかったんじゃないか。
工具セットを手入れしようとして、そのまま家に忘れてきたことに気がつき、勝太郎に連絡して工場まで届けさせた。
そのまま帰ったものとばかり思っていたが、工場の休憩室でテレビを見ながら俺を待っていやがった。
まあ、「帰れ」と言わなかった俺にも非があったので何も言わなかったが、同僚がいちいち勝太郎に構うのが煩わしい。
早々に工場を出て帰ろうとしたが、仕事が終わって晴れ晴れとした気持ちになったので、「ちょっと今日は外で飯を食べていくか」と聞くと、勝太郎は顔を輝かせた。
「よし、今日は探検外食といこうや!」
勝太郎を後ろに乗せて、自転車を漕ぎ出した。
11月の冷たい夜風が作業着の袖から入り込み、工場の熱を帯びた脇腹を急速に冷やしていく。
最寄りの駅前繁華街も通り過ぎ、30分も自転車を漕ぐと、なかなかの街並みを見つけた。
「うーん、こんなところにも町があったんだなあ」
「お父さん、ここは本町だと思うよ」
勝太郎も当然訪れたことはないが、社会科の地図の授業で習った位置感覚だけでわかるらしい。
ここに引っ越してからもう1年も経つのに、知らなかった。
高級そうな家も並んでいるから、飯屋も悪くないはずだ。
「勝太郎、蕎麦でも手繰るか」
チェーン店ではない蕎麦屋に入り、天ざると、もりを頼んだ。
「休日手当が入ったから、いっちょ豪勢にいこうや」
「お父さんは天ぷら食べないの?」
「さっき煙草を買ったからな。それに、通は『もり』を頼むものよ」
1分足らずで蕎麦を食べ終えた俺は、勝太郎に「蕎麦だけは音を立てて食べていいこと」や「汁はどっぷりと浸けないのが粋であること」など講釈を垂れた。
もっとも、個人的な本音を言えば汁はどっぷり浸けたほうが美味いし、ズルズル音を立てて食べるのは耳障りだ。やや前かがみになって蕎麦を手繰っている勝太郎を見ながら、俺は蕎麦湯を飲んだ。
「美味いか?」
「天ぷらの脂っこさが、あっさりとした蕎麦と調和して美味しい」
「そいつは良かった。味がわかるのは婆ちゃん譲りなんだろうな。あの人は本当の美食家だった」
お袋は糖尿と痛風を患うところまで美食を極めにいったのだから、本物だったのだろう。俺個人としては「美食」に対し、ある種の偏見を持っているが、味覚がある以上、美味いものを食べたいと思うのは当然だ。
俺は自分の味盲に近い舌を「仏の舌」だと思っているので別に恥じてもいないが、「味のわからない人間と食事をするのは嫌なものだ」とお袋から言われたのが、今でも少しだけ引っかかっている。




