【四年生・十月】 第十五話「三紙の新聞と段ボールの将棋盤」
ラジオはあるがテレビはない我が家だが、新聞だけは三紙取っている。
引っ越したときに、とりあえず新聞は取らねばいけないからと、たまたま目に付いた産経新聞の定期購読を申し込んだところ、間の悪いことに大家の坂口の婆様から「赤旗」を取ってくれと依頼がきた。
年寄りなんだから来世を願ってお念仏かお題目でも信心していればいいものを、バリバリの共産党員だから始末に負えぬ。窮乏生活といっても差し支えのない我が家で、なぜ二紙も取らねばいかんのかと思ったが、家賃を格安にしてもらった恩義もあり拒否はできない。
その後、朝日新聞の勧誘員が来た。当然断ったのだが、思い出すのも不愉快な出来事があり、結局契約した。なぜ、良心的マスコミの代名詞といえる朝日新聞が、ああいうガラの悪い勧誘を許すのか、とんと腑に落ちぬ。恐怖心を刺激してまで自社の記事を読ませたいとは恐れ入る。
新聞を止めたらテレビくらい買えるんじゃないかとも思ったが、赤旗は義理で止められぬ。
朝日は止めるとあの勧誘員がまた来るかと思えば、それも怖くてできない。
止めるなら何の義理もなく脅しもしなかった産経だが、逆に言えば義理もなく脅しもしなかったのに、みすみす購読を止めるというのも産経さんにとっては酷い話だ。
産経新聞が捏造記事を書くか、誤報を出して訂正や謝罪を渋った場合には購読を止めようと思っているのだが、なかなか尻尾を出さず、現在は三紙併読ということになっている。
勝太郎は朝起きるとお湯を沸かしてから、新聞の将棋欄を切り抜き、ノートに貼り付ける。
俺は後からまとめてそれを読み返すというわけだ。
ある日、俺が仕事から帰り、茶を飲みながらそのノートを見て「ますます藤井先生は進化しているなあ」と嘆息したところ、勝太郎が「僕も将棋を指してみたい」と言い出した。
日本人の教養として囲碁将棋くらいは嗜んでいたほうがいい。
俺は段ボールを一つ潰すことにした。勝太郎に将棋盤と駒の作り方を教えたあと、駒の動かし方を紙に書き始める。
ふと気がつくと、勝太郎が大駒も小駒と同じような大きさで紙を切り抜いているので、そこだけは注意しておいた。
しかし、紙の切れ端だと裏面に跡が写ってしまい、いかにも見にくいうえに、段ボールは厚い。
どうにもならぬことに気がつき、余計なことをしたと少し後悔した。
明日、工場の食堂に行って、駒の代わりになるものを一つ貰ってこなければいけない。
未練がましく、切れ味の鈍くなったハサミでチョキチョキと紙の切れ端を整形している勝太郎を叱り、俺は藤井猛先生へ、芸術的な棋譜への感謝をしたためるため机に向かった。




