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Dad Told Me  作者: 司馬少少
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第十二話「格子窓の衝撃と畳の上の試練」

減価償却がとっくに過ぎているポンコツの整備をしていた俺は、自分の作業着がオイルでぐしゃぐしゃになっていることに気がつき、昼食を取らずに自宅へ着替えに帰った。


勝太郎は図書館にでも出かけているか、友達と遊んでいるか、さもなくば坂口の婆様の相手でもしているのかと、何の気もなしに格子窓から部屋を覗くと、血も凍る情景に出くわした。


あまりの恐ろしさに目を疑ったが、勝太郎は猫の両手両足を持って上に持ち上げては落とす、という遊びを繰り返していた。

しかも冷酷極まりないことに、その様子を逐一ノートに記入している。


部屋に入っても「あっ、父さん、どうしたの?」と、まったく悪びれた様子がない。その姿に、俺は初めて息子が恐ろしくなった。

これが我が子でなかったら正直近寄りたくもないが、勝太郎は俺の息子だ。

生来のものかもしれず、矯正できないかもしれんが、やらねばならぬ。


ここでいつものように怒鳴らなかったのは、その猫が坂口の婆様の愛猫、タマだったからだ。

人の顔を見るといつも「フー」と威嚇するので、勝太郎の行為もわからなくはないが、それとこれとは話が別だ。


俺は黙って作業着を着替え、低い声で「言い訳は聞かん。そこに寝ろ」と言って、怪訝そうな勝太郎を畳の上に寝かせた。そこで勝太郎の片手・片足を持って「お前、猫の気持ちがどんなものか味わってみろ」と言い、腰の高さまで持ち上げて落とした。


半身になって落ちた勝太郎は、もう泣きそうな顔になっていたが、ここは心を鬼にしないといかん。世間様に顔向けできない男に育ててはならぬ。

俺は「さっさと寝ろ」と言ってまた持ち上げ、嫌がって体を捻る勝太郎に「大人しくしてないと叩き落とすぞ」と脅したあと、また落とした。涙が出そうだったのでもうよそうかと思ったが、念のためさらにもう一度、勝太郎を持ち上げて落とした。


「今日は俺は懐石料理だ。情けない。反省しろ。何が悪かったのか反省文を俺に出せ」と言ってから外に出た。

金が無いときは飯を抜かざるを得ないが、それではあんまり貧乏くさいので「懐石料理」と自分で呼んでいる。だが、今日は本当に飯が食える気分ではなかった。


暗い気持ちで働き、暗い気持ちで家に戻り、暗い気持ちで暗い顔の勝太郎から手渡された反省文を見たとき、俺の胸の中の暗い気持ちが、やや晴れた。


【夏休み自由研究】

「7歳雑種雌猫反転可能高度について」


俺は一息ついて落ち着き、ようやくせがれに話した。

「タマはお前が嫌いになったと思うぞ」

勝太郎の俺の口調の変化を感じ取ったのか、ほっとした感じで答える。


「それは大丈夫だよ、所詮しょせん猫だし。僕には『ハーメルンの笛吹き』があるから」

ハーメルンの笛吹きとは、煮干しを入れた茶筒のことで、それを振るとタマは尻尾を立てて飛びついてくる。散々両手両足をつかまれて落とされても、そこが畜生の悲しさなのだろう。


「ところで、タマは何回着地に失敗した?」

「二回だね」

まあ、その高さでその回数だったら、背中から落ちても大したことにはなるまい。


「しかし、これではお前が体を張った意味がないだろう。人間の10歳児だとどうなのか、それも記入しておけ」

心の暗雲が晴れたといえども、甘い顔は見せられぬ俺だったが、勝太郎は俺の語調の変化を感じ取ったのか、

「じゃあ、布団を敷いてからやってもらっていい?」

と、甘えたように言ってきた。


「うむ、何十回でもやってやるぞ」と言ったが、三、四回もしないうちに変なタイミングで坂口の婆様から電話がきた。

「あんた、五十にも手が届く男が何をやってるんだい! 餅つきでもしてるのかい!」

受話器から漏れる婆様の甲高い声が、高揚した部屋の空気を一瞬で冷やした。


この日は懐石料理を返上し、久しぶりに外食をした。

クーラーの効いたファミリーレストランで、勝太郎はドリンクバーとドリアを、俺はコーヒーを飲み、夜道を歩いて帰った。


勝太郎の体温は平熱で36度に達せず、俺は逆に平熱が37度近い男だから、一緒に寝るのは暑くてたまらんはずだが、勝太郎は俺の布団のなかに入ってきた。


「父さん」と言って胸に顔を埋める息子に、「暑いから入ってくるな」と怒鳴るのも今日はなんとなく躊躇ためらわれたので、俺は背中を向けて寝た。

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