305.【深淵の増殖と蒼穹の咆哮】
喉元を貫かれた女王の巨躯が、断末魔のような悲鳴を上げてのたうち回る。だが、その苦悶は再生への予兆に過ぎなかった。
――メリメリ、ブチャッ!!
三叉槍が突き刺さったままの口とは別に、女王の膨れ上がった腹部が縦一文字に裂け、第二の巨大な「口」が形成された。その粘つく暗黒の空洞から、小さな手足の生えた無数の「ヒル」が溢れ出し、水没した街へと解き放たれる。
「ギ、ギガァァ……ッ!!」
吐き出された無数のヒルたちは、意思を持つかのようにイーグルへと群がった。
「全く、異世界ってのは厄介極まりないな……。次から次へと気色悪いもんを出しやがって」
イーグルは肩の激痛に顔を歪めながらも、残った右腕でリボルバーのシリンダーをスイングアウトさせ、流れるような動作で予備の弾丸を装填した。
――ダンッ! ダンッ! ダンッ!
正確な射撃が、迫り来るヒルの群れを次々と撃ち抜いていく。弾け飛ぶ体液が海水を濁らせるが、女王本体は強引に喉の槍を引き抜くと、腹部の「口」に凄まじい密度の藍色の魔力を集束させ始めた。先ほどの水圧レーザーを凌ぐ、全てを飲み込むための奔流。
イーグルの残弾は尽きかけ、アリスは未だ瓦礫の中。絶対絶命の射線が固定された、その刹那だった。
――グォォォォォオオオオンッ!!
シーバブルの厚い雲を割って、鼓膜を震わせる壮絶な咆哮が降り注いだ。
「イーグルさん! アリスさん! お待たせしました!!」
上空。藍色の鱗を夕闇に輝かせたドラゴンが、その背に必死に角を掴むシルクを乗せて、弾丸のような速度で急降下してくる。
「フッ……、モテる男は辛いな」
イーグルが不敵に口角を上げた。
天を駆ける藍の守護者と、地に這う深淵の怪物。二つの「藍」が、今まさに真っ向から激突しようとしていた。




