304.【闇の女神の破片と執念の刺突】
瓦礫の山に横たわるアリスを、イーグルは迷わず抱え上げた。その背後では、三メートルを超える怪物が再び、高圧の魔力を口内に集束させている。
「……これでお別れだ、化け物!」
イーグルは残された最後の『破裂石』の縄に火を点け、背後へと放り投げた。
――ドォォォォンッ!!
海水を巻き込んだ轟沈音が響き渡り、琥珀色の砂と石礫が濃密な煙幕となって視界を遮る。その隙にイーグルはアリスを抱え、水没した路地へと飛び込んだ。
だが、狂気に染まった女王の感覚は、煙幕ごときでは誤魔化せない。
「グォォォオオオッ!!」
咆哮と共に放たれた水圧レーザーが、退避しようとしたイーグルの左肩を無慈悲に貫いた。
「ぐ、あああぁっ……!!」
焼けるような激痛が走り、イーグルは膝を突く。その衝撃で背負っていたバックパックの紐が切れ、中から厳重に梱包されていた『闇の女神ケトリアス』の像が転がり出た。
像は石畳に叩きつけられ、無惨にも砕け散る――。
しかし、その瞬間だった。
砕け散った黒曜石の鋭利な破片が、まるで行き先を知っているかのように空中に舞い、女王の醜悪な顔面へと突き刺さったのだ。
『……ギ、ギガァァァァ!?』
あらゆる物理攻撃を弾いた絶縁の鱗が、黒曜石の飛礫によって容易く切り裂かれる。闇の女神の魔力か、あるいは異物への拒絶反応か。女王は顔面を押さえ、のたうち回りながら絶叫した。
「……ちっ、配達品が。コイツは高く付きそうだ……」
イーグルは肩の傷を押さえ、血を吐き出しながら立ち上がった。足元には、先ほど撲殺された親衛隊が落とした銀色の三叉槍が転がっている。
イーグルはそれを拾い上げ、渾身の力を込めて駆け出した。狙うは、苦悶に満ちて大きく開かれた、あの水圧レーザーの射出口――怪物の「口内」だ。
「これでも喰らって、大人しく沈んでな!」
イーグルは、肩から溢れる鮮血を厭わず、銀色の槍を女王の喉奥深奥へと突き立てた。絶縁の鱗に守られていない唯一の急所へ、鋼の切っ先が深々と吸い込まれていく。




