303.【水圧の断頭台と沈黙の銃弾】
変貌を遂げた女王の、アンコウのような巨大な口が不自然なほど大きく開かれた。その喉の奥で、取り込んだ藍色の輝石が、収束する膨大な魔力によって白銀に発光する。
「……逃げろ、アリスッ!」
イーグルの警告と同時に、怪物の口から超高圧の水圧レーザーが放たれた。
――キィィィィンッ!!
空気を切り裂く高周波の音と共に放たれた水の奔流は、触れるもの全てを両断する「断頭台」と化していた。2メートル級の巨躯となったアリスは、反射的に腕を交差させ、オーガ特有の濃密な魔力を全身に纏って防御姿勢を取る。
だが、輝石の暴走によって増幅された一撃は、その強靭な防御すら容易く貫通した。
「が、はっ……!?」
衝撃波がアリスの胸元を直撃し、彼女の体は背後の民家を二軒突き破るほどの勢いで吹き飛ばされた。瓦礫の山に埋もれた彼女の体から、怒濤の魔力が霧散していく。膨れ上がっていた筋肉は急速に萎み、額の角も元の大きさに戻った。本来の小柄な姿に戻ったアリスは、そのまま深い意識の闇へと沈み、ピクリとも動かなくなった。
「アリスッ!」
イーグルが叫びながら、即座にリボルバーの銃口を怪物へと向ける。間髪入れずに引き金を絞り、強化鋼弾を連射した。
――ガキィィンッ! ガキィィンッ!
だが、着弾の音は肉を穿つ音ではなく、硬質な岩を叩いたような金属音だった。深海魚の如き湿った鱗に覆われた皮膚は、輝石の魔力によってダイヤモンドに近い硬度へと変質していた。渾身の強化鋼弾は、怪物の皮膚に傷一つ付けることなく、火花を散らして虚しく弾き飛ばされる。
「……冗談だろ。こいつの皮、戦車の装甲より硬ぇぞ」
イーグルは吐き捨て、空になったシリンダーを弾いた。
頼みの綱だったアリスは脱落。愛銃の弾丸は通用しない。
咆哮を上げる3メートル超の怪物の前で、イーグルはかつてない窮地に立たされていた。




