2.BAR【プラチナ】の秘密
「バーボンをロックで」
イーグルは低くそう言い、カウンターの椅子に腰を下ろした。
バーテンダーは無言でグラスを取り出し、氷を落とす。
カラン、と静かな音が店内に響いた。
差し出されたグラスを受け取り、イーグルは一口飲む。
喉を焼くアルコールの刺激が、張り詰めていた神経をわずかに緩めた。
その時だった。
「アンタ――追われてるだろ。軍曹さんよ」
低い声がカウンター越しに飛んできた。
イーグルの手が止まる。
グラスの琥珀色の液体に、自分の顔が揺れていた。
「……さぁな」
煙草を取り出し、火をつける。
紫煙がゆっくりと天井へ昇っていく。
バーテンダーはため息をつき、灰皿を置いた。
「警戒するのは分かる。だが、厄介事を持ち込まれるのは困るんでね」
「酒を飲んだら出ていく」
イーグルは短く答え、バーボンを煽った。
その瞬間――
外から、けたたましい警報が鳴り響いた。
ドドドドドッ!
複数の足音。
怒鳴り声。
「この辺だ!逃がすな!」
イーグルの目が細くなる。
追手だ。
バーテンダーは肩をすくめた。
「……やれやれ。どうやら手遅れらしい」
そう言うと、イーグルを見た。
「貸し一つで匿ってやれるが?」
イーグルは煙を吐き出す。
「高くつきそうだな」
「命よりは安いさ」
数秒の沈黙。
そしてイーグルは言った。
「頼む」
バーテンダーは頷いた。
「そのまま座ってな」
カチッ。
どこかで小さな音がした。
次の瞬間――
イーグルの椅子がゆっくりと沈み始めた。
「……!」
床が開き、椅子ごと下へ降りていく。
暗闇の小部屋。
そして上では――
何事もなかったかのように、空の椅子がせり上がってきた。
「しばらく我慢してくれ」
バーテンダーの声が遠くで聞こえる。
その直後。
バンッ!!
BARの扉が勢いよく開いた。
「軍人が来なかったか!」
怒号が店内に響く。
暗闇の中で、イーグルは静かに煙草を吸った。
――このBAR。
ただの酒場じゃない。
いったい、何者なんだ?




