3.交渉の成立
暗闇の小部屋の中で、イーグルは静かに耳を澄ませていた。
上の階から、複数の足音が聞こえる。
そして――
「大勢で失礼する!」
怒鳴るような声がBARの店内に響いた。
「私はキラー曹長だ!ここに軍人が来なかったか?」
その声を聞いた瞬間、イーグルの背筋が凍る。
――キラー曹長。
かつての戦友。
そして今、自分を処刑しようとしている男。
キラー曹長は続ける。
「背は180ほど。銀と白の中間のような長髪の男だ」
数秒の沈黙。
そしてバーテンダーの声が聞こえた。
「さぁ……どうだったかな」
いつも通りの落ち着いた声だった。
「生憎こっちは閑古鳥が鳴いてるんでね。あんたらが酒でも飲んでくれれば、探してる奴も来るかもしれないが」
キラー曹長の声が低くなる。
「もし見かけたら通報してくれ。賞金も出す」
「ほう。指名手配か」
バーテンダーは皮肉っぽく笑った。
「よっぽど悪どいことした奴なんだろうな」
「それは貴様が知ることではない!」
キラー曹長が怒鳴る。
「匿ったら貴様も犯罪者だ。覚えておけ!」
バンッ!
扉が乱暴に閉まる音が響いた。
しばらくして足音が遠ざかり、店内は再び静寂に包まれる。
そして、バーテンダーが小さく呟いた。
「……テロリストが軍人の真似事とはな」
暗闇の中で、イーグルは声をかける。
「なぜ助けた?」
間髪入れず、返事が返ってきた。
「アンタ、追われてるんだろ?」
バーテンダーの声は静かだった。
「うちの組織で仕事をしないか?」
イーグルは懐から煙草を取り出し、火をつけた。
暗闇の中で小さな火が灯る。
「アンタら……どこの組織だ?」
「それは教えられない」
少しだけ笑う気配がする。
「だが、真っ当な仕事ってことは確かだ」
イーグルは煙を吐き出した。
「何を基準に真っ当かは疑問だがな」
「ハハッ、違ぇねぇ」
数秒の沈黙。
そしてイーグルは言った。
「衣食住と、少しの金があればいい」
「今は追われてる身だからな」
バーテンダーは頷いた。
「交渉成立だな」
そして名乗る。
「俺はCode Name:アリエル」
「アンタの情報はこっちにある。だが名前を聞かせてくれ」
イーグルは短く答えた。
「イーグル・メタルバレット軍曹」
一拍置く。
「……いや、元・軍曹だ」
「ようこそ、イーグル」
アリエルの声が少しだけ柔らぐ。
「それじゃあ、まずはアンタの情報を確認してもらおう」
そして続けた。
「今、上に戻す」
その瞬間。
暗闇の中で――
カチッ
と、小さな音が鳴った。
イーグルの座っている椅子が、ゆっくりと上昇を始める。
「驚くなよ」
アリエルの声が聞こえた。
「うちのBARは、ちょっとした仕掛けが多くてな」
椅子は静かに上へと運ばれていく。
やがて薄い光が差し込み――
再びBAR【プラチナ】のカウンターが見えた。




