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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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今の自分とこれからのこと(後)

 酒場『昼間の飲兵衛亭』でジェイクと昼食を共にした後、ユウは宿に戻って自伝の執筆を再開した。朝の続きからペンを走らせる。


 昼下がり頃は快調に書けていたユウだったが、五の刻より後は進み具合が少し悪くなった。指先が冷えて動かしにくくなったからだ。首筋に指を当てて温める。ちなみに、温かい息を吐きかけて手を温めるのはお勧めできない。息の湿り気が手をすぐに冷やしてしまうからだ。


 ともかく、何とかしてユウは羊皮紙1枚分の自伝を書き上げた。木窓から見る外は暗くなりつつある。ただし、1ヵ月前よりかはまだ明るい。日照時間は確実に長くなってきていることが実感できた。


 今日の作業を終えたユウはペンなどの道具を片付けて部屋を出る。今日のトリスタンは日帰りの予定で町の中に入ったので待ち合わせ場所へと向かわないといけない。冒険者ならば誰でも知っている冒険者ギルド城外支所はこういうときに便利だ。


 西端の街道に面した城外支所の建物の北の端に立ったユウは町の南門へと顔を向ける。相棒はいつもそこから町に出入りしていた。そのため、南門を眺めていればそのうち見知った姿が現われるはずなのだ。


 冷たい風に曝されながら立つユウは相棒が早く出てこないかと待ちわびる。目的があって歩いているときとは違い、一層寒さが身に沁みた。空が一面曇っているというのも気分を滅入らせる。


 往来する人々が少し羨ましくなり始めた頃、ユウは町の南門からトリスタンが出てくるのを目にした。近づいて来た相棒に声をかける。


「トリスタン、やっと出てきたね」


「今日は勝てて調子が良かったんだ。それでいつもより長居したんだよ。ユウは寒そうだな。そんなに長く待っていたのか?」


「宿を出たのはいつも通りだったから、トリスタンが遅れた分だけ長く待ったかな」


「悪い悪い。酒場で1杯奢ってやるぞ。行こうぜ」


「ちょっと待って。仕事の話があるんだ。城外支所の中に入ろう」


 貧者の道へと向かおうとしたトリスタンをユウは引き止めた。そうして城外支所の建物へと入る。夜明けの森から帰ってきた冒険者も混じっているようで混雑していた。人の熱気で幾分か外よりも暖かい室内の片隅に移る。


「それで、仕事の話ってなんだ?」


「今日の昼にジェイクから森の巡回の仕事を手伝ってくれないかという話を持ちかけられたんだ。またアーロンと一緒にやる仕事らしいよ」


「あの人って何でもやっているな」


「ジェイクも夜明けの森担当みたいな感じだって言っていたかな」


 少し笑いながらユウはジェイクから受けた説明をトリスタンに話した。森の治安は冒険者の担当で、やんちゃな新人冒険者や稼ぎの悪い冒険者が相手になり、喧嘩の仲裁や魔物の横取り、恐喝、暴行、殺人などを取り締まるというものだ。


 話を聞き終えたトリスタンが微妙な表情で感想を漏らす。


「また冒険者ギルドの仕事か。安いんだろうな。いくらか聞いているのか?」


「まだ聞いていない。契約するときに聞けば良いだろうと思って。でも、他の仕事を考えると高くはないだろうね。普通は引退直後の冒険者上がりの職員が担当するらしいから」


「だよなぁ。普通に魔物狩りをしていた方がいいんじゃないのか?」


「夜明けの森で生活費を稼ぐという意味ならそうだけれど、その額だって去年までしていた仕事に比べると大したことがないでしょ。だから多少減っても大きな違いはないと思うんだ。特にトリスタンの場合、町の中で遊ぶとなると夜明けの森での魔物狩りだけじゃどうやっても足りないんじゃない?」


「知っていたのか」


「貧民街でずっと生活している僕でも、1週間の休みの間に1日2食を酒場で済ませて、更にたまに羊皮紙をまとめて買うと魔物狩り6日間の稼ぎで足りなくなるからね。トリスタンの生活だと尚更だとすぐにわかるよ」


「そうなんだよなぁ。またレセップから仕事を回してもらわないといけないんだよ」


 ため息をついて肩を落とすトリスタンを見てユウはわずかに表情を暗くした。旅の間はたまにで済んでいた贅沢だが、アドヴェントの町に居着いてからはその出費が増えつつあったのだ。1度の出費が増えるのではなく、遊ぶ日数が長くなったからである。それでも、去年までは稼ぎが良かったので問題はなかったが、今年は収入が減ったので浪費という形で顕在化してきた。


 ユウとトリスタンが引き受けてきた依頼は元々高額だが単発あるいは不定期な仕事である。このような仕事が常にある前提で生活をすると危ない。トリスタンが陥りつつあるのはそんな状態だった。


 相棒の状態に危機感を覚えたユウは話を続ける。


「先日もレセップさんに高額な仕事がないか聞いて『ない』って言われたでしょ。たぶんしばらくはないんだよ。だから、今の収入に見合った生活をしないといけないんだ。魔物狩りにしろ、冒険者ギルドの仕事にしろね」


「む、自分では大丈夫だと思っていたが、指摘されると危ないと思えてくるな」


「まだ蓄えの多くは残っているんでしょ? だったら今のうちに生活を改めるべきだと思うんだ。町の中で遊ぶなとは言わないけれど、今までのように通うのは危険だよ」


「そうだなぁ。さすがに遊びすぎか」


「町の中に移り住みたいのなら、そのための移住費には絶対に手を付けたらいけないよ」


「うっ、それはさすがにわかっている。大丈夫だ、そっち側にはまだ手を付けていないぞ」


「まだ?」


「待て、言葉の綾だ! 大丈夫、手を付けないって!」


 珍しく焦って否定するトリスタンを見たユウは小さくため息をついた。ここから先は相棒を信じて様子を見るしかない。


 一旦間を置いてからユウは口を開く。


「話を元に戻すよ。森の巡回の仕事を引き受けるのは、僕が後輩の役に立ちたいと思ったのがきっかけだけれど、城外支所にも貢献しておいた方が良いと思ったからなんだ」


「どういうことだ?」


「僕たちがレセップさんから受けた依頼ってどれも町の中関係だったでしょ。たまに貧民街も関係したけれど」


「そういえばそうだな」


「でも、僕たちは町の外の住民なんだ。だから本部での評価よりもまずは城外支所での評価を高めるべきだと思うんだ。だって本部って貴族や偉い人の集まりだからね。そこでいくら評価を上げても僕らじゃ良いところ使い捨ての駒扱いだよ」


「つまり、足場を固めろってことか」


「その通り。特に僕なんかは正真正銘の貧民上がりだから、町の中に入れなかったときのことを考えないといけないしね」


 元々町の中で働くことを指向していたユウだったが、移住となると色々と問題があると最近思うようになっていた。最大の問題は審査だ。献金の額によっては甘くなるのは確かだが、それでも絶対ではない。トリスタンのように貴族の身分を保障できそうなものはもちろん、町の中に入って役立てられる技術もないのだ。


 そうなると今後町の外でどうやって生きていくのかということを考えないといけない。そこで冒険者ギルド城外支所なのだ。ここだとユウも実績を示しやすく、非常に強力な拠り所になってくれる可能性がある。そのための今は下準備なのだ。


 この辺りをトリスタンに伝えると大いにうなずいた。足元はしっかりとしていた方が良いのである。


 話がまとまると2人は受付カウンターへと向かった。そこで相変わらず頬杖を付いている受付係にユウが声をかける。


「レセップさん、ジェイクから話は聞いていますか? 僕たち、森の巡回の仕事に関する契約を結びに来たんです」


「なんか深刻そうな話をしてると思ってたが、あの話か」


「さっきの僕たちの話、聞こえていたんですか?」


「こんなうるさい所であんな端の声が聞こえるわけがないだろ。顔を見てたんだよ」


 渋い表情のレセップが森の巡回の仕事についての説明を始めた。それによると、犯罪取り締まりのための巡回で、今回はアーロンと組んで3人で巡回することになっている。報酬は1人1日銅貨3枚、巡回中に狩った魔物は自分たちのものにして良いとのことだ。尚、経費は冒険者ギルド負担となっている。


「明日の三の刻に城外支所の北側の原っぱでアーロンと落ち合えよ。具体的な仕事の内容はそこで聞け」


「わかりました。契約書を出してください」


「これだよ。しっかし、普通に魔物狩りをしてた方が儲かるだろうに物好きだな」


「将来を見据えての準備ですよ。今は大きな仕事もないですからね」


「そこまで考えて行動してんのなら大したもんだ。他の連中にも聞かせてやりたいね」


「書けました」


 自分の名前を記入した契約書をユウはレセップに差し出した。隣からトリスタンも同じように提出する。


 若干呆れたような顔をするレセップに後を任せたユウとトリスタンは踵を返して城外支所の建物から出て行った。

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