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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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今の自分とこれからのこと(前)

 2月も末日になった。明日から3月に変わるが、今の気候を考えると明日も大きな変化はなさそうである。つまり、当面の朝は寒いということだ。


 この日も寒さで目覚めたユウは用を済ませると朝食を食べて鍛錬をした。体を鍛えることはもちろんだが、冬場だと体を温めることも重要な要素となる。芯から温かくなるまで動かした。


 日の出を迎えるとユウは自伝の執筆に入る。このときトリスタンは宿を出て賭場へと向かった。休日の2人は個別に行動することが多い。


 最近は日の出の時間が早くなってきたので朝の執筆時間が長くなった。その分たくさん書けるのでユウは満足である。ただ、それでもまだ書くべきことが大量にあるので当面は終わりそうにないが。


 四の刻を迎えるとユウは執筆に区切りをつけて部屋を出た。昼食は酒場で取るのだ。


 安酒場街に向かったユウは冷たい風に曝されながら歩き、ある酒場『昼間の飲兵衛亭』へと入る。店内はほぼ満席ですっかり出遅れた感があった。


 それでも1席確保できれば良いと軽い気持ちでユウはカウンターへと向かう。数少ない席のどこに座ろうか迷った。


 視線をさまよわせたユウはそれならばと目を向けた先の隣に見知った背中を見つける。今回は1人だ。近づいて声をかける。


「ジェイクじゃない。珍しいね、ここで会えるなんて」


「おお、ユウか。確かに珍しいね。たまには店を変えるのも悪くないと思ってたけれど、その通りだったみたいだ」


 お互いに出会えたことを喜んだところでユウは隣の席に座った。通りがかった給仕女に料理と酒を注文するとジェイクに顔を向ける。


古鉄槌(オールドハンマー)のときはいつもここで飲み食いしてなかった?」


「パーティとしてはここだったんだが、自分の行きつけの店もあるんだよ」


「ああなるほど」


「ユウはパーティと個人で店は分けてないのかな?」


「そう言う形で分けてることはないかなぁ。昼間はここ、夜は別の店っていう分け方かな」


「昼飯と晩飯で分けてるのか。それもひとつのやり方だね。そうなるとトリスタンはどうしてるんだろう?」


「トリスタンの場合は町の中と外になると思う」


「はは、それはまた珍しい分け方だな。成功してる冒険者でないとできないよ」


「今年に入ってからは赤字になるから大変だって言ってたかな。町の中に行く頻度は下がったらそこまでじゃないらしいけれど」


「カネがなくて控えたというところか」


「貧乏暇なしみたいになったかららしいよ」


「なるほど、理由はそっちか」


 2人が話し込んでいると給仕女がユウの料理と酒を運んできた。ユウは木製のジョッキを持って口を付け、食事を始める。


 互いの近況から話を始めた2人は食事をしながら雑談を進めた。ジェイクが昼間に酒場へ通えるのは冒険者ギルド城外支所で講習をしているからだという。アーロンのように普段から夜明けの森へと入っているとこうはいかないとのことだった。


 摘まんだ肉を飲み込んだジェイクがユウに語る。


「毎日のように昼間から酒場に行けるなんて、現役の頃は想像もしていなかったな。安定した働き方があることは知っていたけど、実際にやってみるまでは実感できなかったよ」


「まとめて何日か休むことは僕もあるけれど、毎日がそんな感じなのかな?」


「その休んでる時間を働いてる時間に置き換えたら近いかな。ああでも、組織に直接所属してる安心感は冒険者にないから、やっぱり違うか」


「もうあんまり覚えていないですけれど、町の中の商店で働いていたときの方が近いよね」


「そうそう、そっちの方が近いよ」


 出した例えを肯定されたユウは当時のことを思い返そうとした。しかし、ぼんやりとしたことは思い出せても細かくはもう何も浮かんでこない。すっかり過去のことになったことを実感した。


 かすかに感傷にひたりながらもユウはジェイクに気になったことを尋ねる。


「ということは、ジェイクはもう冒険者に戻りたいとは思わないのかな」


「そもそも体がもう言うことを聞いてくれないというのもあるけど、心情的にもそうかな。結局オレは町の中に行けるほど稼げたわけじゃないけど、貧民街に逆戻りしたわけでもない。中途半端だけど冒険者ギルドの職員は今の状況を保証してくれるんだ。でも、冒険者に戻ると、またいつ貧民に戻ってしまうかわからない状況になってしまう。それが嫌なんだよ」


 話を聞いたユウは何とも言えない表情を浮かべた。貧民に戻りたくはないという気持ちはよくわかる。組織に所属することが安定することもだ。しかし、なぜか首を傾げてしまう。その理由がわからない。


 反応の薄いユウを見たジェイクが小さく笑う。


「今のユウがオレの気持ちをよくわからないと思うのは無理もない。今の意見はもう人生の先が見えた人間の言葉だからな。お前はまだ若いということもあるが、何よりまだ不安定な未来に希望が持てるだろう。そういうヤツは安定を好まない。より良い結果を掴むためには変化した方がいいからな」


「え、ああ、はい」


「歳を取って冒険者を引退することを考え始めたときにわかるようになるよ。それまで生き残れたらだけどね」


 にやりと笑ったジェイクが木製のジョッキを傾けた。暗くなりかけた雰囲気が元に戻る。


 話を聞いたユウは自分とジェイクの考えの違いを理解した。どうりで納得できなかったわけだ。今のうちにとエールを飲んでその違いを腑に落とす。


 すっきりとしたところでユウは話題を変えることにした。今気になっていることを口にする。


「2週間程前まで僕とトリスタンは実戦実習の教官をしていたけれど、今はその仕事は募集していないんだよね。冒険者ギルドの仕事で他に何かある?」


「他の仕事か。そうだなぁ、ひとつあったな。人手不足で困っているっていう話だけど」


「構わないよ」


「これは森の巡回という仕事なんだ。森の中で素行の悪い冒険者を取り締まったり諍いの仲裁をしたりするんだよ」


「それって冒険者がするんだ。代行役人じゃ、ってそっちは違うか」


「違うんだ。何しろ代行役人は貧民街の担当だからね。森の治安は冒険者が担当することになっているんだ」


「同じ冒険者ギルドでも担当する人が違うんだね」


「代行役人はその名の通り、町の中の役人の代わりに貧民街を治めるのが仕事だからね。森は管轄外なんだ。獣の森であってもね」


「そっか、そうだね。ということは、森番に近いのかな」


「あれとも違うんだ。森番は森を監視するのが目的だから。それに、夜明けの森には今はいないはずだよ。昔はいたそうだけど、魔物や冒険者に襲われて被害が続出したらしい」


「冒険者!? 森番が襲われたんですか」


「大体取り締まりの対象になる連中なんてろくでもないヤツばかりだから、自分の都合に悪いとなると相手を殺してもみ消すこともあるんだよ。森の中だと誰が殺したかなんてわからないしね」


「うわぁ」


 予想外の説明にユウは絶句した。そんなユウを見て面白そうにジェイクが続きを語る。


「だから、同じ荒事が得意な引退直後の冒険者上がりの職員が大抵は担当するんだよ」


「引退直後なんだ」


「体がまだ動かせて、なおかつ現役とやり合えるヤツでないと務まらないからさ」


「確かに。取り締まる側が弱かったら森番と変わらないですもんね」


「そういうことだ。で、この森の巡回の主な相手はやんちゃな新人冒険者や稼ぎの悪い冒険者が大抵だね」


「あー、何となく想像できる人たちだなぁ」


「そうだろう。で、その内容なんだけど、喧嘩、魔物の横取り、恐喝、暴行、殺人なんかだね。魔物の横取り以外は町の中でも起きるものばかりかな」


「嫌だなぁ」


「誰も見ていないとやらかすヤツがいるんだ。頭に血が上って手が出るヤツもいるけどね。しかも、困ったことに手元には武器がある」


 かつて貧民だったときに襲われたことのあるユウは顔をしかめた。しかし、森でなくても色々な犯罪者がいることを知っているので反応はその程度に留める。


「でだ、最近は魔物の数が増えて景気が良くなったから犯罪は減ったんだけど、同時に小遣い稼ぎで協力者してくれる冒険者の数も減ってしまったらしいんだ。魔物狩りができるならそちらの方が稼げるからね」


「それは良いですけれど、ジェイクは僕の体質は知っているよね」


「もちろんだとも。今年の初めに森へ一緒に行って確認したからね。ユウの場合は森の浅い場所を担当させてもらえば良いと思うよ」


「それだったら良いですけれど」


「城外支所に戻ったら手続きをしておくから、またあそこで契約を結んでおいてくれないか。今回も当面はアーロンと一緒に回ると思う」


「アーロンって何でもやっているよね」


「あいつは夜明けの森担当みたな感じになってるからな」


 ジェイクの話を聞いたユウは納得してうなずいた。

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― 新着の感想 ―
ユウの体質的にはわざわざ紹介してもらってまでギルドの見回りの仕事なんてする必要がなさそうだけど 不自然なくらいモンスター呼び寄せ体質を周りの冒険者に知らせようとしてますね 春になったら事件発生して街に…
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