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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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変わらない様子と調子

 1週間ほど休んだユウとトリスタンは夜明けの森で魔物狩りをすることにした。前日に冒険者ギルド城外支所で仕事がないかレセップに尋ねたところ、ないと即答されたからだ。


 更に1週間ほど待つということも2人は考えた。しかし、それで新しい仕事を得られる保証がどこにもないこと、そして既に遊び飽きていたことからの判断である。


 日の出前の二の刻に目を覚ました2人は出発の準備を整えた。いつものことなので既にそれほど時間はかからない。余った時間は室内で待つのが普通だが、真冬に室内でじっとするのは寒すぎる。そのため、軽く体を動かして温めた。


 うっすらと周囲が明るくなると2人は武具を身につけて出発する。適度に温まった体に寒風が気持ち良い。


 宿屋街の路地から貧者の道、そこから冒険者ギルド城外支所の北側を抜けて町の西側に広がる原っぱへと進む。周囲にはこれから魔物狩りを始める冒険者パーティが同じく森へと歩いていた。


 森の際にたどり着くと2人は虫除けの水薬を顔と手に塗り始める。


「森の中に入るときって、これが面倒なんだよなぁ。臭いし」


「これで虫にたかられないんだから我慢するしかないよ」


「コミニアヌスの虫除けのまじない、結局してもらえなかったな」


「そんなのあったね。おまじないって、何かの魔法かな?」


「たぶんそうなんじゃないのか? 魔法の道具なんかだったりするとまじないだなんて言わないもんな」


「そのうちまた戻ってくるだろうから、そのときに聞いてみよう」


「できればかけてもらおうぜ」


 虫除けの水薬を塗り終えたユウとトリスタンは森へと入った。2人だけなので特に隊形も陣形もなく、ユウが前、トリスタンが後ろに並んで歩く。


 2人は周囲を警戒しつつも慣れた様子で奥へと向かった。日帰りできる範囲ならば対処できるのはこれまでの経験で知っているのでためらいがいない。


 そのうち魔物が現われた。今日最初に遭遇したのは巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーだ。2匹がユウめがけて近づいて来る。


 足先から足先までの全身が大の大人以上もある蜘蛛の魔物に対して2人は1対1で挑んだ。ユウは槌矛(メイス)で、トリスタンは剣で戦う。


 勝負は短時間でついた。2匹の巨大蜘蛛ジャイアントスパイダーの死骸が地面に転がっている。討伐証明部位を切り取ると2人は再び歩き始めた。


 襲ってくる魔物を撃退しながら2人は森の奥へと進んでいたが、途中で北に方向転換をする。それから更に東へと向きを変えて進んだ。


 昼休みになると2人は食事を始めるが、長時間同じ場所にいると魔物に襲撃されるので長居はできない。手早く食事を済ませて次に移る。


 この後もやることは変わらなかった。歩いていて魔物に襲われたら倒し、討伐証明部位をそぎ取る。時々休憩が入る以外はひたすらこの作業の繰り返しだ。


 途中、休憩のときにトリスタンがユウに話しかける。


「ユウ、魔物の数だが、前からあんまり変わっていないように思えるんだが」


「僕の体感でも同じだね。魔物の部位を入れた袋の重さも以前と変わらないかな」


「ということは、少なくとも春まではこのままなんだろうな」


「結局魔物の数は減らなかったね。これ、来月から増えるのかなぁ」


 知り合いの冒険者たちに話を聞いてもこれ以上魔物が増えるのは好ましい状態ではないという返事だった。中堅以上のパーティはかろうじて耐えられても、新人たちが耐えられそうにない。先日まで実戦実習で手伝いをしていたが、果たしてあれだけで足りるのか2人にはわからなかった。


 予定通り2人はそのまま町に帰る。換金額はやはり結構な額になった。個人的には嬉しいことだが、夜明けの森の今の状態を考えると不安になる。


 胸の内にもやもやとしたものを抱えながら2人はその日の魔物狩りを終えた。




 翌日以降もユウとトリスタンは同じように魔物狩りを繰り返した。結果は初日と変わらず、夜明けの森での稼ぎとしては良い方である。


 アドヴェントの町の冒険者としては一般的な活動をしている2人だが、先の不安が頭にちらつくために表情は冴えなかった。これ以上は個人で考えても仕方がないことであるものの、心に何となく引っかかる。


 稼ぎつつも面白くないという困った状態の2人は、あるとき森の中で他の冒険者パーティと出会った。黒鹿(ブラックディア)である。


「ユウとトリスタンか。今日も実戦実習か?」


「違うよ。今日は2人で魔物狩りをしているんだ。新人たちはいないでしょ?」


 声をかけてきたエディにユウが返事をした。確かに2人の周囲には他に誰もいない。


 少し不思議そうな顔をしたマイルズが尋ねてくる。


「この前一緒にメシを食ったときはまだ実戦実習をやってたよな?」


「10日ほど前にその仕事は終わったんだ。希望者が減ったからね。言わなかったっけ?」


「あー聞いたことがあるような気がする」


 ユウとマイルズが互いに首を傾げた。ユウはもう誰に言って誰に言っていないかはっきりせずに混乱している。一方、マイルズの方は聞いたかどうかで悩んでいた。


 その隣でテリーがトリスタンに話しかける。


「2人はこの辺りまで来ていいのかい? ユウの体質だと危なくないのかな?」


「この辺りまでならまだ平気だぞ。1度に襲ってくる数も知れているからな」


「だったらどの辺りまで入れるのかな」


「どの辺りというよりも、一晩過ごすのが大変なんだ。必ず何度か襲われるから、結局ほとんど眠れなくなるから」


「そういうことか。それはきついね」


 魔物に頻繁に襲われるということがどういうことなのかを理解したテリーが顔をしかめた。ただでさえ夜の見張り番で睡眠がぶつ切りになる上に、魔物の襲撃で寝ること自体ができなくなってしまうのは危険なことである。ほとんど徹夜したのと変わらなくなってしまうからだ。


 そんな話を聞いていたエディがユウに声をかける。


「そうか、お前って魔物を引き寄せる体質だったな。それを1回見せてくれないか?」


「構わないよ。一番わかりやすく見ることができる隊形があるから指示に従って」


「そんなのがあるのか。いいぞ」


 好奇心から相談してきたエディに対してユウはあっさりと承知した。既に他の冒険者たちにも見られていることなので今更エディたちに隠す理由などないのだ。


 興味ありげなエディ一行にユウが指示を出し、トリスタンに率いられて歩き始める。ユウはその少し後ろに続いた。


 その様子を見たエディがトリスタンに話しかける。


「これでユウの体質がわかるのか?」


「そうだぞ。魔物が突っ込んで来たら道を譲ってやってくれ。それでわかるから」


「話には聞いていたが、実際にやってみると嘘くさく思えるよなぁ」


 何とも言えない表情のエディが何度も首をひねった。それは他の面々も似たようなもので、最も信じてくれていそうなテリーでさえ苦笑いしている。


 それでも興味が勝ったエディたちは言われたとおりに歩いた。そして、すぐにそのときがやって来る。正面から小鬼(ゴブリン)がやって来たのだ。


 叫びながら走ってくる3匹にエディたち全員がすぐに気づき、トリスタンへと目を向ける。すると、そろそろ交戦距離というところで退避の合図を出した。


 さすがに熟練の冒険者パーティなだけあって誰もがすぐに行動する。トリスタンを含め7人が一斉にユウへの道を譲った。すると、小鬼(ゴブリン)は一目散に駆け抜けてゆく。すぐ近くにいるはずのエディたちにはまったく目もくれない。


 事実を目の当たりにしたエディたちは目を剥いた。通り過ぎて行った魔物を呆然と見送る。今までの常識からだと絶対にありえないことだ。


 ユウが戦っているのを見ながらマイルズがつぶやく。


「マジだったんだ、あれ」


「こんなことってあるんだ」


 手早く魔物を倒したユウを見つめながらテリーもつぶやいた。他の面々は言葉が出てこないようで、中には口を開けたままの者もいる。


 討伐証明部位をそぎ取っているユウに他の全員が近寄った。そうしてエディが声をかける。


「その体質、本当だったんだな」


「初めて見る人はみんなそんな感想になるみたいだね。僕も信じたくはないけれど」


「確かにこれじゃ森の奥には入れそうにないな。夜もひっきりなしに襲われるんだろ?」


「そうだよ。あれが一番きついんだ。寝られないからね」


「だよなぁ。駆け出しの頃はそんなことなかったのにな」


 袋の中に部位を入れたユウが立ち上がった。そこへマイルズが少し遠慮がちに疑問を投げてくる。


「その体質って治るのか?」


「原因がわからないから今のところはこのままみたいなんだ」


「それは、大変だな」


「誰かに変わってほしいくらいだよ」


 力なく笑うユウにマイルズはそれ以上何も言えなかった。森の中で稼ぐことが仕事なだけに、この致命的な体質での苦労を察したからだ。


 この後ユウたちは一緒になって帰ったが、いつもより言葉は少なかった。

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