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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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今何をしているのか

 新人冒険者を指導する日々は1ヵ月程続いたが、その間ユウもトリスタンも働き続けていたわけではない。たまに休みも挟んでいる。


 その休みの日にやることはどちらも相変わらずだ。ユウは自伝を書き、トリスタンは賭場と娼館に通っている。これで日々安定していた。


 休日は大半を宿の部屋で過ごしているユウの気晴らしと言えば食事だ。朝食はともかく、昼食と夕食は酒場に赴いていた。昼は酒場『昼間の飲兵衛亭』、夕方は安酒場『泥酔亭』である。結局、慣れた店が最も落ち着くというわけだ。


 この日、ユウは朝の執筆に区切りを付けて宿を出た。いつもと違って四の刻の鐘が鳴る前である。比較的珍しい行動だ。宿屋街の路地を抜け、貧者の道を東へと歩き、安酒場街へと入る。目的の店までやって来た。


 すると、その店の入口でローマンとマイルズの2人とばったり出くわす。


「あれ、2人とも、今食べに来たんだ」


「そうだぞ。工房街の武器屋を見て回ってたんだ。マイルズとはそこで会ったんだぜ」


「こいつは冷やかしで、オレはナイフを探してたんだ。この前1本欠けたんでな」


「だったら3人で一緒に食べる?」


「いいぞ! 入ろうぜ!」


 提案したユウにすぐ反応したローマンが真っ先に店内へと入った。ユウとマイルズが続く。中はそろそろ混み始めてきたという具合だ。空いているテーブル席に座る。


 注文を取りに来た給仕女に3人は自分の料理と酒を次々と告げた。それからテーブル越しに向き合う。


「2人と会うのは久しぶりだね。いつ以来だったかな?」


「会うだけなら森の出口辺りでたまに会ってるじゃねーか。店でメシを食うのは年が明けてからすぐのとき以来だろ」


「確かそんなくらいだね。昼飯となると休みの日が合わないと一緒に行けないからな」


 3人がいつぶりの食事なのかと思い出していると給仕女が料理と酒を持ってきた。ローマンは酒とつまみの肉と極端な品揃えだ。


 ユウとマイルズが食事を始めると、木製のジョッキを1度傾けたローマンがユウに向かって話しかける。


「この前会ったとき、お前って実戦実習の教官をやってただろ。いつからやってんだ?」


「おいちょっと待て、ユウはそんなことやってたのか?」


「そーなんだ。オレもあのとき初めて見て驚いたぜ。あんときはユウ1人だったが、トリスタンも別の駆け出しを教えてるらしいぞ」


「なんでまた実戦実習の教官なんて始めたんだ?」


「アーロンに人手不足だから手伝ってほしいって頼まれたんだ。それで1月の半ばくらいから始めたんだよ。トリスタンもね」


 何も知らなかったマイルズが驚いて話に混ざってきたことから、ユウはローマンの質問共々答えた。稼げている冒険者からすると不思議らしいことが2人の態度からわかる。


「アーロンに頼まれたのか。それは断れないな。それで、いつまでするんだ?」


「今月の半ばくらいまでかな。参加希望者が減ってきているから、臨時雇いの僕とトリスタンはお役御免になるんだ」


「なるほどな。でも、よく教官なんてするよな。大変じゃないのか?」


「面倒なときはあるよね。自分で担当するパーティを選べるわけじゃないから、合う合わないっていうのがたまにあるし」


「そうだろう。オレも後輩に教えることがたまにあるが、あれをいちからっていうのは大変だぞ。なぁローマン」


「そうだな。オレだったら見て覚えろって言っちまいそうだ。いや、言うな、絶対」


 マイルズから話を振られたローマンがうなずきながら回答した。そうしてすぐに木製のジョッキを傾ける。食事が始まってからペースが落ちない。


 ここしばらく、肉、黒パン、スープという順番を繰り返していたユウがローマンに疑問をぶつける。


「2人のパーティは最近の調子はどうなの?」


「オレんところは調子いいぞ。新年のときにも言ったと思うが、あれからずっと変わらん」


「こっちもだ。最近はいっそ不気味だな。冬なのに夏並に稼げるというのは。嬉しいんだがどうにも落ち着かない」


「これっていつまで続くと思う?」


「さすがにそれはわかんねーな。あーでも、来月は3月だし、この様子だともうずっとこのままなんじゃねーか? そうなったら後輩の連中がちょっとやべーかな」


「というより、春からは今以上に魔物の数が増えるかもな。そうなると、ちょっと危ないかもしれない。特に鉄級の連中はな」


 自分たちにとっては稼げるから歓迎という態度をローマンとマイルズはとった。しかし、同時に2人は今後を考えると鉄級冒険者のパーティに不安が出てくると懸念を示す。


 これに関してはユウも同じ考えだった。アーロンや他の教官からも異なる意見は聞いたことがない。夜明けの森の魔物が今後増えるのか減るのかは見守るしかないのがもどかしかった。


 幾分かテーブルの雰囲気が盛り下がってしまったが、すぐにローマンが話題を切り替える。ユウもマイルズもそれに乗った。




 また別の日、ユウはいつものように四の刻の鐘を聞いてから酒場『昼間の飲兵衛亭』に向かった。店内に入ると既にほとんどの席が埋まっており、空いている席は数えるくらいしかない。


 1人なのでカウンターへと向かったユウは空いている席を探した。どこに座ろうかとひとつずつ席を見ていると見知った背中を2つ見つける。


「テリーとウォルトじゃない。前のときもカウンターに座っていたよね」


「2人だからね。テーブル席を使うほどじゃないからだよ」


「ユウ、久しぶりっす!」


「今回はオレの隣が空いてるから、こっちに座ったらいいよ」


 給仕女に声をかけたユウは注文を伝えるとテリーの勧めに従って席に座った。そうして2人に話しかける。


「最近の印象だと、2人で一緒にいることが多いように思えるんだけれど」


「まぁね。同じアルフの家で育ったから、小さい頃の話題が重なるんだ」


「一緒に生活はしなかったっすけど、あの家のことは知ってるっすもんね」


「去年だったかなぁ。ケントと会って少し話をしたんだ」


「ケント! 懐かしい。あいつ、まだあの家にいるんだ。今何をしているんだい?」


「アルフの代わりにあの家をまとめているよ。同じようにね」


「あれ? それじゃアルフは何をしてるんすか?」


「え? もしかして2人とも知らないの?」


 2人ともアルフの最期を知らないと知ったユウは目を見開いた。しばらく言葉が出てこなかったが、テリーに促されてケントから聞いた話をそのまま伝える。話聞くにつれてどちらもうなだれた。


 しばらくそのままだった2人だが、やがてテリーが頭を上げてつぶやく。


「そうか。アルフはずっと前に死んでいたんだ」


「同じ町に住んでたのに、全然知らなかったっすね。そうっすかぁ」


「あの家で今僕たちが知っている人はもうケントだけだね。他の知り合いはみんな独り立ちしたそうだよ。詳しくは聞かなかったけれど」


「冒険者になってから、特にニックがいなくなってからは寄り付かなくなったからなぁ」


「オレもあそこを出てから1度も戻ってないっすね」


「普通はそういうものらしいよ。何度か戻って来たテリー以外はそんなことした人はいないってケントが言っていたから」


「そうっすか」


「あそこの生活は最低だから、思い出したくない子もいるだろうってケントが言っていたよ。だから自分からは会いに行かないとも」


 どちらも打ちのめされている姿を見たユウは話題の選択を失敗したことを悟った。どうにか修正できないものか考える。


「そうだ、僕、先月の半ばから冒険者ギルドの実戦実習の教官をしているんだ。それで最近はほぼ毎日夜明けの森に入っているんだよ」


「そうなんすか? 全然見かけなかったっすね。テリーは知ってたっすか?」


「いや、初耳だな。でもどうしてまた?」


「アーロンに頼まれたんだ。実習の参加希望者が増えたから手を貸してほしいって」


「なるほど、それはいいことだね」


「ユウはすごいっすね。人に教えられるんすか」


「ウォルトだってそろそろ後輩に物を教える立場じゃないの? もう銅級なんでしょ?」


 目を見開いたウォルトが黙って目を逸らした。人に教えるのが苦手だから避けているらしい。ユウは思わず苦笑いした。


 そんなユウにテリーが話しかける。


「でも、魔物の間引き期間のことを考えると、使える鉄級冒険者は多い方がいいからオレは応援するよ」


「何か不安になることでもあるの?」


「去年から冬の間、ずっと調子良く魔物狩りができてたけど、このまま春から夏にかけて魔物が増え続けるのかもしれないと思うとね、どうにも不安になるんだ」


「それはオレもたまにそう思うっす。だからユウにはこれからも頑張ってもらいたいっす」


 会話に復帰してきたウォルトもテリーとと共にユウを応援した。それを聞いたユウがうなずく。


 その後、3人は明るく食事を続けた。

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