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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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新人冒険者を導く日々

 新人の冒険者パーティを教導する仕事を引き受けたユウとトリスタンは1月の後半から本格的に実戦実習を担当した。毎朝日の出前に冒険者ギルド城外支所の北側で他の教官と参加希望のパーティと落ち合い、担当パーティと共に夜明けの森へと入っていく。


 ユウに遅れること数日、トリスタンも教官として独り立ちした。最初は緊張していたようだが、1週間もするとさすがに慣れたようだ。


 2人が担当しているのはいずれも夜明けの森に入ったばかりの新人パーティの集まりである。右も左もよくわからない者も珍しくない。そんな者たちに森での活動の仕方をひとつずつ教えていくのだ。


 個々の教官で教え方や教導する日数が異なるのは当たり前だが、それはユウとトリスタンにも言える。ユウの場合は3日程度、トリスタンの場合は6日程度の時間をかけていた。倍も違うのはユウの体質が原因である。魔物との遭遇率が段違いなのだ。この場合、トリスタンが他の教官と同じくらいであり、ユウが異常なのである。


 ところが、この実戦実習においてはその異常性が役に立っていた。こと魔物との戦いに慣れるためにはまず遭遇しないといけないが、ユウの場合は魔物を探す必要がない。勝手に襲ってきてくれるのだ。これは他の教官にはない圧倒的な強みである。


 この強みを活かしてユウは担当パーティを徹底的に鍛え上げた。最初は魔物との戦いに意気込んでいた新人たちもすぐにそんなことを思う余裕がなくなる。最終日ともなると淡々と戦い、手際よく討伐証明部位をそぎ取るようになっていた。


 そのユウ自身、回を重ねる毎に指導方法に磨きをかけていくだけでなく、魔物との遭遇に関してもある程度調整できるようになる。もちろん相手あってのことなのでうまくいくとは限らないが、当初に比べるとかなり上達していた。


 新人パーティだけでなくユウも教官として成長していたわけだが、1人ですべてが完結していたわけではない。周囲の人々とも関わり合っていた。最も関係が深いのはトリスタンとアーロンだが、他の教官とも話をするようになる。場所は冒険者ギルド城外支所の北側の原っぱだ。日の出前の集合時である。ここで意見交換するのだ。


 この日もユウはトリスタンと共に原っぱへとたどり着いた。何人かの教官と挨拶をした後にアーロンの元へと向かう。


「おはよう、アーロン」


「おう、毎朝クソさみぃよなぁ」


「そんな風には見えないんだけれど、やっぱり寒いんだ」


「当然だろ。オレをなんだと思っていやがるんだ。早く森に入りてーぜ」


「あっちの方がまだましだもんね。それにしても、参加希望のパーティの数も落ち着いてきたよね」


「そうだな。春になるとまた増えるんだが、これから春先までは落ち着いたままだ」


「ということは、僕たちもそろそろお役御免かな」


「だな。いや本当に助かったぜ。できるヤツが2人も手伝ってくれたからなぁ」


「特にユウは俺たちの半分くらいで終わらせるもんな」


 隣で白い息を吐きながらトリスタンが小さく首を横に振った。他の教官の2倍の参加希望パーティを担当していることは既に知られている。それでいてしっかりと育て上げているので一目置かれていた。


 そんなユウを機嫌良くアーロンが見る。


「お前の評価が高いと、元師匠の俺の評価も高くなるからな。嬉しいぜ!」


「アーロンは元々人気あるじゃない」


「評判は高くて困ることはねーしな」


「そうだ、今担当している俺のパーティ、次はアーロンに任せようと思っているんだ」


 雑談中に自分の担当パーティのことを思い出したトリスタンがアーロンに相談を持ちかけた。アーロンはその話を気持ちの良い態度で耳を傾ける。


 このように教官たちからの評価が上々のユウだが、担当したパーティを中心に駆け出しの冒険者の間で噂が広がっているという話を耳にした。


 最初にユウへとこの話をしたのはトリスタンだ。とある日の早朝、原っぱでアーロンが別の教官から相談を受けたときのことである。


「ユウ、昨日酒場で話しそびれたことをひとつ思い出したんだが」


「なに?」


「どうもお前のことが鉄級冒険者の間で噂になっているみたいなんだ」


「なんで? 僕、目立つようなことはしていないはずだけれども」


「俺もそう思う。でも、原因はこの実戦実習にあるみたいなんだよな」


 何となく言いにくそうな表情のトリスタンによると、特定の教官のときだけやたらと魔物が現われて忙しくなるという噂が鉄級冒険者に広がっているようなのだ。試しに実戦実習を受けた者たちが自分たちの倒した魔物の数や換金額を比べてみると、明らかにその数値が違うらしい。


 思い当たる節のあるユウが相棒から目を逸らす。


「どうせ魔物を引き寄せるなら、短期間で育ててしまおうって思ったんだよ」


「そうだろうな。俺もその考えは間違いじゃないと思う。別に責めているわけじゃないからな。ただ、駆け出しの連中の噂になっていると伝えたかっただけなんだ」


「トリスタンは誰からその話を聞いたの?」


「今担当しているパーティからだ。それを聞いてこの実戦実習に参加したらしい」


「ということは、担当が僕じゃなかったことについてどう思っているのかなぁ」


「俺に対する評判は上々だからな。そこまでこだわっていなかったんじゃないのか」


 不満を見せていないということを聞いたユウは安心した。さすがにそんなことでトリスタンの評判が下がるというのは心苦しかったからだ。


 こうして新人冒険者を指導する日々を送っているユウだが、他の冒険者パーティと夜明けの森の中で接触することがある。森の浅い場所で教導するユウであっても例外ではない。特に朝夕の森に入るときと出るときによく出会う。


 とある日、ユウは新しい担当パーティを率いていた。狂犬(クレイジードッグ)という新人の冒険者パーティだ。剣と盾を持つデレクをリーダーとし、槍持ちのエドガーとグレーム、そして遊撃担当のジャレッドという4人組である。


 この4人、教えたことはきちんと学んでくれるのは良いのだが、聞くに魔物を引き寄せる体質の噂を聞いて参加してきたらしい。そこで首尾良くユウが担当することになると、ひたすら魔物を出現させるように要求してきた。態度からして金を稼ぐのが目的で、ユウのことは魔物を引き寄せる魔法の道具として見做している節がある。教えたことを学んでくれるのでまだ我慢できるが、ユウとしてはいささかやりづらくあった。


 物覚えも悪くないので3日間で終了させれば良いだろうと思いながらユウが4人の後方を歩いていると、背後から声をかけられる。


「おお、やっぱりユウじゃねぇか! 今帰りか?」


「クリフじゃない。そっちも帰りなんだ」


「そうなんだ。今回もガッツリ稼いでやったぜ! で、トリスタンはどこにいるんだ? それに、その4人は知り合いか?」


「僕は今、冒険者ギルドの実戦実習の教官をしているんだ。この4人は今担当している狂犬(クレイジードッグ)の面々だよ。元気そうなのがリーダーのデレク、がっちりとした体をしたのがエドガー、巨漢なのはグレーム、こっちの小さいのがジャレッド」


「お前そんなことやってんのか」


「リーダー、前にオレが言ったじゃねぇか」


「そうだったか? おお、そうだったな! 今思い出したぜ!」


 ローマンに指摘された首を傾げていたクリフが破顔した。頭をかいて豪快に笑う。


 その様子を見ていたデレクたちは目を丸くしていた。そんな4人にユウが声をかける。


「みんな、こっちのパーティは火蜥蜴(サラマンダー)だよ。今声をかけてきたのがリーダーのクリフ、突っ込みを入れたのがローマンなんだ」


「お前ら、実戦実習やってんのか。しっかり学べよ!」


「ユウが教えてんなら間違いはねぇな、だっはっは!」


 好きなようにしゃべるだけしゃべるとクリフたちは先に森の出口へと歩いて行った。どうやら見かけたから声をかけただけだらしい。


 わずかに呆れながらもユウはその背中を見送ると担当パーティの面々に顔を向けた。クリフたちの姿が見えなくなった後もずっとそちらを眺めている。


「みんな、僕たちも町に戻ろう。さぁ歩いて」


「ユウ、あんた、あの火蜥蜴(サラマンダー)と知り合いなのか!?」


「そうだよ。駆け出しの頃からの付き合いかな」


「おお」


「すげぇ」


「マジかよ」


 リーダーであるデレクの質問にユウが答えると、エドガー、グレーム、ジャレッドが揃って尊敬の眼差しを向けてくる。もちろんデレクもだ。


 まさかこんな反応が返ってくるとは思っていなかったユウは最初戸惑った。それでもこの場限りだろうと思い直す。


 ところが、以後のユウに対する4人の態度は大きく変わった。先輩として立てるようになったのだ。その急変ぶりにユウは再び戸惑う。


 それでも今までよりかはましだと思い、最後まで担当パーティとして面倒を見た。

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