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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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人を導いた後で

 自分1人だけで新人冒険者を指導したユウはその4人を見送った後、冒険者ギルド城外支所の北側の壁際に移った。夕闇が迫る中、西端の街道側から人々のざわめきが聞こえてくる。換金を終えた冒険者たちがぱらぱらと西から東へと歩いて行いった。


 そんな冒険者たちに混じって1人の青年がユウに近づいて来る。


「ユウ、待たせたな」


「そっちは今終わったんだ。今日はちょっと遅かったね」


「いやそれが、実戦実習自体はもう少し前に終わっていたんだが、次の実習についてアーロンと話をしていたんだよ。俺も次からは1人でやるから」


「おお、ついに!」


 合流したユウとトリスタンは東に向かって歩き出した。西端の街道に入ったかと思うとすぐに貧者の道へと移る。その間にも2人はしゃべり続けた。最近は話したいことがたくさんあるのだ。


 寒くて手をこするトリスタンが白い息を吐きながら話を続ける。


「そう、ついになんだよな。今日はアーロンから色々と話を振られて新人を教えていたが、自分1人でとなると初めてだから緊張しているんだ」


「そういえば、僕と旅を始めてからのトリスタンが人を指導しているところって見たことなかったね。出会う前にもそういう経験はなかったんだ」


「お前と出会う前は下水道でその日暮らしだったんだから、あるわけないだろう。ユウはあるのか? いや、そういえばどこかで教えていたな」


終わりなき魔窟(エンドレスダンジョン)のある町で教えていたよ。あの経験はかなり大きいな。あのときはもう1人と一緒だったから間違っても平気だったし」


「いいなぁ」


 往来する人々の流れに混じってユウとトリスタンは貧者の道を歩いた。そのまま安酒場街の路地へと入る。


「ユウ、今担当している新人パーティはどんな感じなんだ?」


「僕はおとなしい子たちを担当させてもらったから楽だったよ。アーロンが言うには初めてだからこれで自信を付けろだって。トリスタンも最初はそうじゃないかな」


「そうだといいが。で、そのパーティはあとどのくらい教えるつもりなんだ?」


「今日でもう終わったよ」


「え、まだ3日目だぞ!? そんなに早く終わっていいのか?」


「僕の場合はこれでも大丈夫なんだ。ほら、体質上、魔物がいくらでも寄ってくるから場数だけはやたらと踏ませることができるし」


「そうか、そうだったな。それで時間を短縮できたのか」


「教えていた子たちも喜んでいたよ。換金額がいつもと全然違うって」


「そうだろうなぁ。俺たちが2人で魔物狩りしているときみたいになるだろうし、中堅並みの稼ぎを手に入れたら新人なら浮かれるか」


 安酒場『泥酔亭』にたどり着くと2人は店に入った。盛況な店内を突っ切ってカウンター席に向かう。


「あらいらっしゃい。いつものでいいのよね」


「うん、お願い」


 途中、エラとすれ違ったユウは挨拶と同時に注文をした。それから席に座る。


「ユウ、今日アーロンと担当していたパーティの中に、1人物覚えの悪い奴がいたんだ。何回教えてもすぐ忘れる奴だったんだけれど、そういう奴ってどうやったら教えたらいいんだ?」


「言葉で理解できない性質の人だったら体で覚えさせるのが一番だろうね。どのくらい時間がかかるかはその人次第だけれど、やっていればそのうちできるようになるよ」


「何度かやらせてみても駄目だったんだよなぁ」


「うーん、そうなると実際に見てみないとわからないかな」


「他にも、アーロンから反発的な奴がいたときの対処法を教えてもらったんだが、ユウだったらどうする?」


「そういうときは上下関係を示すのが一番だから、穏当な方法で叩きのめすかな。模擬試合をするとか、何か技法を教えるときの練習台にするとか」


「アーロンと同じことを言うんだな。教えてもらったのか?」


「人への教え方までは教わっていないかな。旅の途中で身につけたものだよ」


「ということは、俺と出会う前かぁ」


 呻くような声を出したトリスタンが天井を見上げた。経験の差を痛感しているらしい。


 その間にサリーが料理と酒を持ってくる。


「はい、お待たせ。トリスタンは何をしてるのよ?」


「何かに悩んでいるみたいなんだ。エールを飲んだらすぐに治るよ」


 大して興味なさそうなサリーは注文の品を置くと他のテーブルへと向かって行った。


 それを途中まで見送ったユウは再びトリスタンへと顔を向ける。


「初心者講習や戦闘講習の報酬は安かったけれど、実戦実習の報酬はそんなに悪くないよね。1日銅貨6枚だし」


「でも実は、講習2つは朝と昼に1回ずつやると同じ6枚もらえるから、あっちの方が楽だったりするんだよな。実習の方は丸1日で6枚だから」


「うっ、せっかく目を逸らしていたのに。でも、冬場だと魔物狩りで1日7枚くらいだからよく考えられているんじゃないかな。食事は支給だし」


「さすがにそのくらいないと誰もやりたがらないだろうしなぁ」


「稼ぎが悪いと他の仕事をしようかってなるもんね」


「ただ、いつもある仕事じゃないというのが難点だな。だからこれで生計は立てにくい」


「講習や実習、他の冒険者ギルドの仕事も片っ端から引き受けたらやっていけそうだね」


「その日暮らしの人足と変わらないな、その生活」


「でも、引退した冒険者がとりあえず食いつなげるようにはなっているんだよね」


「うまいことできているよなぁ」


 料理と酒を手にしながらユウとトリスタンは冒険者ギルドの仕事について話し合った。仕事や報酬をひとつずつ見ていくと高い安いと色々言えるが、全体で見るとうまくできている。


 木製のジョッキを空にしたトリスタンがサリーに代わりを注文した。それからユウに向き直る。


「結局、仕事の数にしろ報酬額にしろ不安定なんだよな、冒険者ギルドの仕事って」


「安定した仕事は金額の高い低いにかかわらずギルド内で回すだろうからそうなるでしょ。だからアーロンも言っていたじゃない、引退したか稼げない冒険者がやるものだって」


「そんな仕事を俺たちに頼むのも変な話だよな」


「単に一時的に手が足りないから手伝ってほしいということじゃないの? 僕らならどうせいくらでも稼げるからと思っているんじゃないかな。後は、今から引退するときのことを考えておけって暗に言っているのかもしれない」


「こう言う仕事もあるぞって示したわけか。確かに引退後もうまくいくとは限らないもんな。こう言う仕事もあると知っておくのも悪くないか」


 摘まんだ肉を口に入れたトリスタンが口を動かしながら考え込んだ。実際のアーロンが何をどれだけ考えているのか2人にはわからない。しかし、とりあえず食いつなげる方法があるということを知れたのは良かった。これで日々の生活がいきなり底抜ける可能性はほとんどなくなる。


 2人の会話が途切れたちょうどそのとき、カウンターの奥からトリスタンの前に木製のジョッキが置かれた。タビサが顔を覗かせる。


「おや、しけた顔をしてるじゃないか」


「ちょっと考えごとをしていただけですよ。悪いことがあったんじゃないです」


「それならいいさ。楽しんでいっておくれ」


 繁忙期で忙しいタビサはすぐに奥へと引っ込んだ。ユウとトリスタンもそれをきっかけに会話を再開する。


「でも、稼げる人がする仕事じゃないよね。レセップさんもそんなことを言っていたな」


「森に入るときに必要な水と食料を支給してもらえる分だけ利益は増えるが、俺たちの場合だとそんな差額を考えるより、去年までの仕事をしていた方がはるかに儲かるもんなぁ」


「あんな危険な仕事はそうそうないし、あんまり引き受けたいとも思わないけれどね」


「あれで儲けた奴が言っても説得力ないけれどな」


「うっ、ともかく、中堅パーティ並の稼ぎができる今の仕事は一般的には悪くないだろうね」


「そうだな。でも人手不足だってアーロンは言っていたよな。どうなっているんだか」


「最近の魔物狩りは儲かるから、稼げない冒険者が少なくなったのが原因のひとつだとは思う。引退した人は、どうなんだろう?」


「どんな引退の仕方をしたのかにもよるよな。初心者講習ならともかく、戦闘講習や実戦実習は五体満足でないとできないだろうし」


「ああそうか。怪我で引退した人はできないことが多いんだ。そうなると引き受け手は少なさそうだね」


「それは思い付かなかったな。自分でしゃべっていて気付かないなんて」


「まぁそういうこともあるよ」


 気付かないうちに自分で答えを話していたなんてことはよくある話だ。ユウはため息をつくトリスタンを慰める。


 その後の2人は実戦実習についての話に再び戻っていった。初めて1人で教えることになるトリスタンが色々とユウに質問するのだ。どうにも不安があるらしい。


 相棒の不安を解消するためにもユウは疑問にひとつずつ答えていった。

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