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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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1人での教導

 夜明けの森でアーロンの実戦実習にユウとトリスタンは随行した。懐かしいと思いつつも学ぶべきところが多く新鮮な気持ちで指導を見る。


 その翌朝、2人は再び夜明け前に冒険者ギルド城外支所へと向かった。集合場所は城外支所の建物の北側である。その原っぱに教官と参加希望者のパーティが集まっていた。


 昨日と同じようにユウがアーロンに声をかける。


「アーロン、おはよう」


「ユウとトリスタンか! 来たな!」


 冷え込みの厳しい原っぱで盛大に白い息を吐き出しながらアーロンが声を上げた。2人が寄ってくるとしゃべる。


「トリスタンは今日もオレについて来い。ユウは今日から駆け出しのパーティの面倒を見るんだ。最初だから素直な連中を回してやる」


「それは嬉しいな」


「いいか、前にも言ったが、合格水準になるまで指導してやるんだぞ。何日かかってもだ。中途半端に放り出したらダメだからな」


「あんまり長いと参加パーティの方が嫌がりそうだよね」


「それでも最大で1週間だ。これに耐えられねぇヤツはそもそも実戦実習なんぞに参加しに来ねぇ。だから気にしなくてもいい」


 アーロンの言葉にユウはうなずいた。さすがに最大日数があらかじめ決まっているのにそこまで耐えられないというのは参加パーティの意識の問題だと言える。食費は自腹だが、狩った魔物は自分たちのものになるのだ。普段の活動に教官が付いたとも言える。実際にそのような感覚で参加するパーティもいた。


 3人が談笑しながら待っていると、教官がアーロンの元へ集まってくる。そうして今日担当する参加パーティの割り振りがなされた。アーロンが担当するのは昨日の6人の新人冒険者パーティだ。


 一方、ユウは4人の新人冒険者パーティを担当することになった。まだ少年の面影が残っている者たちだ。


 担当が決まった後は教官の裁量で始めることができる。アーロンとトリスタンが自分たちの担当パーティへと向かうのを見送ると、ユウもそれに倣った。


 自分の担当パーティの前にやって来たユウは自己紹介を始める。


「僕はユウだよ。今日からみんなの教官を務めることになったんだ。夜明けの森での活動の仕方を教えから、しっかり覚えて帰ってほしい。この森のことは大抵のことは知っているから、気になることがあれば質問してくれたら良いよ」


 昨日のアーロンの自己紹介を思い出しながらユウはしゃべった。担当する新人冒険者4人の表情に変化はない。とりあえずこれで良とした。


 新人冒険者たちにも名乗ってもらった後、ユウは夜明けの森へと出発する。そのときちょうど周囲が明るくなった。空は曇っているが日が出たようだ。


 総勢5人は城外支所の建物の北側から解体場を通り越して西へと進む。


 この間にユウはこの森で冒険者が求められていることを話し続けた。内容は昨日と同じだが、新人たちの反応も同じく薄い。逆に魔物の討伐証明部位を持ち帰って換金できるという話には全員が注目した。稼ぐのが目的ならばこんなものであろう。


 今日のユウの予定では森の浅いところをぐるりと回って帰るつもりだ。自分の体質を考えて魔物が現われすぎないように調整するためである。


 森の手前までやって来ると5人は足を止めた。他の全員も立ち止まって虫除けの水薬を顔や手に塗る。ここでいい加減に塗っていたり逆に塗りすぎている者にユウは注意した。特に駆け出しの頃は鉄貨であっても出費は惜しい。程よく塗って節約すべきだからだ。


 使い終わった虫除けの水薬の瓶を5人は腰の巾着袋にしまうとユウは4人に告げる。


「今から森に入るからね。朝の間は僕が先頭を歩くよ。どういう風に動いているかよく見ておいて。昼からはみんなに先頭を歩いてもらうからね。そのときは気付いた点をどんどん指摘していくから。それじゃ行こう」


 新人たちがうなずくのを見るとユウは森へと入った。その後を4人が二列縦隊で続く。


 昨日とは違ってユウが先頭に立つのは襲ってきた魔物の数を調整するためだ。適度な数にした後で後ろへ下がって新人たちと交代するのである。また、新人たちが対処できない数の魔物に襲われた場合、囮になる意味もあった。


 何にせよ、1人で何役かをこなす必要があるので、教官が複数人いる場合とやり方が変わってしまう。この辺りはやりにくいとユウは思った。しかし、新人たちが慣れてくれば先頭を歩かせることは可能だ。しばらくの我慢である。


 湿った冷たさがまとわりつくのを強く感じながら5人は森の中を進んだ。特に妨害を受けることもなく奥へ向かう。


 夏ほど植物が繁茂していないとはいえ、それでも視界は悪い。先頭のユウはそんな遮る草木を気にすることもなく前へと歩いて行く。


「来た! 犬鬼(コボルト)2匹! 2人一組で戦って!」


 前方から走ってくる犬鬼(コボルト)を発見したユウが背後の新人4人に叫んだ。この魔物相手ならば2対1で戦えばまず負けることはない。


 新人たちは襲ってきた犬鬼(コボルト)2匹を迎え撃った。


 最後尾に後退したユウは戦いの様子を眺めた。1人が正面から受けて、もう1人が横から攻撃をする。動きが危ういところもあるが、基本に忠実にあろうとしていた。つたないが堅実な戦い方だ。これは誰かから教えてもらった可能性が高い。


 戦いはあまり時間はかからなかった。


 新人たちがすべての魔物を倒したのを確認したユウが4人に声をかける。


「思っていたよりもずっと良かったよ! その調子でたくさん魔物を狩っていこう。でもその前に、魔物を倒したことを証明するための部位を取っておこう。良いやり方を教えるから見て」


 話し終えたユウは犬鬼(コボルト)の死体からその一部をそぎ落とした。最初は説明し、次にゆっくりと実演してみせる。残り1体で新人たちが自分たちで魔物の討伐証明部位をそぎ取った。


 作業が終わると休憩に入る。ユウは見張り番として1人を立たせた。そして、見張りとして何をどうやって見張れば良いのかを教える。休んでいるところを奇襲されると大変なことになるので、これについてはこの後何度も繰り返して指導した。他にも、休んでいる他の3人に夜明けの森についての知識を色々と披露していく。


 休憩後、5人は森の中を進む。この後は同じことの繰り返しだ。魔物と遭遇すると戦って倒し、討伐証明部位をそぎ取って、少し休憩し、また歩く。その間にユウから色々と教わるのだ。昼前頃からは新人から質問もたくさん出てくるようになる。


 この繰り返しがユウの担当パーティでは突出して多い。理由は明確で魔物との遭遇率が非常に高いからだ。これが新人たちの経験を急速に積み上げてゆく。後に判明するが、同世代よりも頭ひとつ抜ける要因となった。


 ただ、奥へ行きすぎると頻度と数が増えすぎるため、ユウはアーロンの選択を参考にして経路を決めていく。これがなかなか大変だった。


 こうして1日が過ぎていく。今は町へと戻るために進んでいた。周囲の地形の見方や方角の大雑把な確認方法を教える。そして、実際にやらせてみるのだ。このときはユウが最後尾を歩いていた。今の新人に背後からの襲撃は荷が重い。特にユウの体質だとそうなる可能性が高いので止めてやる必要があるのだ。


 そうしてついに5人は森の外へと出た。新人たちは体の力を抜く。魔物の襲撃回数が当人たちの想定よりもかなり多かったからだ。


 最後はみんなお楽しみの換金である。新人4人はいっぱいになった袋からそぎ取った部位を買取カウンターにぶちまけた。ここでユウが部位の捌き方と計算の仕方のこつを教える。


「お疲れ様。よく頑張ったね。この調子で続けていけばすぐに合格できるよ」


「はい!」


 予想より多額の収入を得てご満悦の新人たちが元気よく返事をした。今の4人がこれを基準に考えるのは危険だが、頻繁に魔物の襲撃を受けた見返りとしては当然のものだ。


 以後、ユウはこれと同じことを新人たちに繰り返した。途中からは新人たちを先頭で歩かせてやって来る魔物の相手を次々とさせる。


 また、自分の考えが正しいかを知るためにアーロンとも相談をした。教導するに当たって不明点をはっきりさせることも忘れない。


 実戦実習を始めて3日後、ユウは新人たちが合格水準に達したと判断した。そのため、実習は終了だと新人に宣言する。


「みんな、よくついて来てくれたね。夜明けの森で活動するために必要なことは一通り教えたよ。後は繰り返して身に付けてくれたら良いかな。だから、これでみんなの実戦実習は終わりにするね」


「ありがとうございました!」


 元気な声で礼を言われたユウは笑顔でうなずいた。これから先この4人がどうなるのかわからないが、立派に成長して一人前の冒険者になってほしいと願う。


 去ってゆく4人の後ろ姿を見ながらユウは大きな満足感にひたっていた。

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