新人冒険者の教導研修─実戦実習─
丸1日ジェイクの講習に付き添ったユウとトリスタンは翌日から実戦実習を担当するアーロンに随行することになった。ジェイクから合格と判断されたからである。わずか1日だけで決めるのは早計とも言えたが、そもそもこの2人は実戦実習を担当してもらいたくて引き込んだのだ。講習でいつまでも留めておくわけにはいかない。
当日の朝、2人は夜明け前に冒険者ギルド城外支所へと向かった。集合場所は城外支所の建物の北側だ。その原っぱに教官と参加希望者のパーティが集まっている。
「アーロン、おはよう」
「ユウとトリスタンか! こっちだ」
真冬の原っぱで盛大に白い息を吐き出しながらアーロンが声を上げた。2人が寄ってくるとしゃべる。
「お前ら2人は今日、オレについて来い。どんな風に教えるのか見せてやる」
「わかった」
「ユウ、お前は知ってるだろ。オレたちがイチから仕込んだんだぞ。あれを思い出せ」
「ああ、あれかぁ」
「それとトリスタン、お前さんは森での活動経験はあるんだったよな?」
「あるぞ。ただ、必要に迫られてとりあえずユウに教えてもらった感じなんだ。それと、俺の故郷だと冒険者は下水道で活動するものだったから、基礎的な知識で抜けがあるかもしれないな」
「なるほど、だったら、お前さんはしばらく俺の隣で研修を受けろ。別の森で活動していた経験があるなら、覚えるのにそう何日もかからんだろ」
「わかった。すぐに覚えてやるぜ」
「ユウ、お前は明日から1人で担当させるからな。別の場所でガキどもを一人前にした経験があるならできねぇなんて言わせねぇぞ」
「今日のアーロン、僕にだけ厳しいね」
「当たりめーだ。今のお前はオレと対等なんだ。期待してるぜ」
思わぬ言葉にユウは言葉に詰まった。しかし、隣でにやにやと見ていたトリスタンを見て半目で睨む。効果はまったくなかった。
3人が談笑しながら待っていると、教官がアーロンの元へ集まってくる。そうして今日担当する参加パーティの割り振りがなされた。アーロンが担当するのは6人の新人冒険者パーティだ。今年になって夜明けの森に入り始めたという。
アーロンを先頭にユウとトリスタンはその6人パーティへと移動した。そうして自己紹介を始める。
「オレはアーロンだ。今回、お前らの教官を務める。夜明けの森での活動の仕方をきっちり教えてやるからな。覚悟しとけ! それと、オレの隣にいるのがユウとトリスタンだ。今回はオレの助手を務める。特にユウは俺の元弟子だからな。何でも聞けよ!」
突然の振りにユウは目を丸くした。6人の視線が向けられる。どうにも落ち着かない。
そんなユウを無視して、アーロンは出発を宣言した。同時に周囲が明るくなる。空は曇っているが日が出たことがわかった。
総勢9人は城外支所の建物の北側から解体場を通り越して西へと進む。ここから先は夜明けの森に向かう冒険者と糞便を捨てる汲み取り屋しかいない。
今日のアーロンの予定では森の浅いところをぐるりと回って帰るつもりだ。新人を慣れさせるという目的もあるが、ユウの体質を考えて魔物が現われすぎないように調整するためでもある。
森の手前までやって来ると9人は足を止めた。他の全員も立ち止まって虫除けの水薬を顔や手に塗る。この辺りは新人たちも知っているようだ。
この間にアーロンはこの森で冒険者が求められていることを話し続けた。それは、何はともあれ魔物の駆除ということである。放っておくといくらでも湧いたり繁殖したりして森からあふれ出すからだ。この危険性を新人たちに説く。魔物の駆除を怠ったせいでアドヴェントの町が滅びかけたと聞いた新人たちは、しかし反応が薄かった。
反対に魔物の討伐証明部位を持ち帰って換金できるという話になると食いつきが良くなる。薬草や獣、それに使える魔物もすべて冒険者ギルドの買取カウンターで買い叩かれている利益から費用が賄われていると知って6人は複雑な表情を見せた。しかしすぐに、今まで買い叩かれた分を取り戻してやると意気込む。
使い終わった虫除けの水薬の瓶を6人は腰の巾着袋にしまった。アーロンも同じように瓶をしまいながら口を動かす。
「そんなわけで、俺たちはひたすら魔物を狩り続けてるってわけだ。もちろんたまには他のことに目移りするのも悪くねぇが、本業を忘れちゃいけねぇぞ」
「はい!」
「よし、お前らも準備できたな。それじゃ行くぞ!」
アーロンのかけ声にユウとトリスタンも返事をして歩き始めた。先頭はアーロンとトリスタン、次に新人の6人、最後にユウの順で進む。
夜明けの森の中は一見すると獣の森と同じように見えた。さすがに元々繋がっていただけあって植生に大きな変化はない。外が乾いた冷たさなのに対して、中が湿った冷たさなのも同じだ。
一行は二列縦隊で夜明けの森の中を進んだ。生冷たい中、特に妨害を受けることもなく奥へ向かう。
夏ほど植物が繁茂していないとはいえ、それでも視界は悪い。先頭のアーロンとトリスタンはそんな遮る草木を気にすることもなく前へと歩いて行く。
「早速来やがったぜ! 小鬼3匹だ。お前らに全部任せるぞ!」
前方から走ってくる小鬼を発見したアーロンが背後の新人6人に叫んだ。まずはどの程度戦えるのかお手並み拝見である。
実はこの9人の隊形はユウの体質を利用したものだ。最後尾のユウめがけて突っ込んでくる魔物を実践実習で利用している。森の浅い場所であれば襲ってくる魔物は弱い上に数も少ない。この小集団との遭遇率をユウの体質で上げて新人を鍛えるのだ。
そんなことを知らない新人たちは襲ってきた魔物に色めき立つ。6人はいつも通りの陣形で小鬼3匹を迎え撃った。
最後尾からその様子を眺めていたユウは少し懐かしさを覚える。自分も初めての頃は小鬼1匹に必死だった。それが数をこなすことで慣れていったので、そう言う場を今の新人たちにも与えられればと思う。
戦いはあまり時間はかからなかった。新人2人に対して小鬼1匹とだったというのも大きい。
新人たちがすべての魔物を倒したのを確認したアーロンが6人に声をかける。
「よくやった! 悪くねぇな。その調子でどんどん魔物を狩っていくぞ。その前に、魔物を倒したことを証明するための部位をそぎ取らないといけねぇ。効率のいいやり方を教えてやるから見ておけよ。ユウ、手本を見せてやれ!」
「わかりました」
最後尾で立っていたユウは8人の輪に入ると小鬼の死体からその一部をそぎ落とした。最初は説明し、次にゆっくりと実演してみせる。残りの2体で新人たちが自分たちで魔物の討伐証明部位をそぎ取った。
作業が終わると休憩に入る。ユウとトリスタンが見張り番にたち、新人6人が腰を下ろした。その間、アーロンが夜明けの森についての知識を色々と披露していく。最初からすべてを覚えられるとは思っていない。耳にかすかに残って後日何かのきっかけで思い出せればとりあえず良いのだ。
休憩後、9人は夜明けの森の中を進む。この後は同じことの繰り返しだ。魔物と遭遇すると戦って倒し、討伐証明部位をそぎ取って、少し休憩し、また歩く。その間にアーロンから色々と教わるのだ。後半になると新人6人から質問もたくさん出てくる。
このように書くと何でもない普通の活動であるが、1点だけ他とは違うところがあった。それは魔物との遭遇率だ。奥へ行きすぎると頻度と数が増えるため、アーロンがその辺りを見極めて経路を決める。
その様子をユウは後ろからじっと見ていた。もちろん新人6人に何をどう教えるのかということも重要だが、魔物との遭遇率の調整はある意味それ以上に重要だ。新人たちの実力と天秤にかけているのは間違いないので、自分ならどうするかと常に考える。
新人たちだけでなく研修のユウとトリスタンもアーロンから色々と学びながら森の中を回った。そうして1日が過ぎてゆく。
「もう少しで外に出るからな。気を抜くなよ!」
森の出口まであと少しというところでアーロンが最後尾から新人たちに声をかけた。今はユウが先頭を歩いている。ユウの体質を考えた隊形だ。
大事に至ることなく森を出ると新人たちは体の力を抜いた。魔物の襲撃回数が当人たちの想定よりもかなり多かったからだ。
そうして最後はみんなお楽しみの換金である。新人6人はいっぱいになった袋からそぎ取った部位を買取カウンターにぶちまけた。
ここでユウとトリスタンが部位の捌き方と計算の仕方のこつを教える。これに関しては向き不向きがあるのでできる者だけが修得するという形になった。
こうして今日の実戦実習は終わりだ。新人たちは予想より多額の収入を得てご満悦である。
それを見たユウも何となく満足感にひたれた。




