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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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新人冒険者の教導研修─戦闘講習─

 初心者講習を講師の立場から見学したユウとトリスタンはジェイクがどのように教えているのかを知った。あけすけな意見に驚きつつも講師が何を教えるべきなのかを理解する。獣の森での活動経験があるユウはすぐにでも講師として教えられそうだと実感した。


 ジェイクの指示に従って早めに昼食を食べた2人は冒険者ギルド城外支所の打合せ室で暇を潰す。真冬に外で待つのはつらいのだ。


 四の刻の鐘が鳴ると2人は城外支所の建物の北の壁に向かった。初心者講習と同じくその辺りが戦闘講習の集合場所なのである。


 指定された場所には既にジェイクが立っていた。受講者も1人待っている。


「2人とも来たね。もう少し待ったら始めるよ」


 声をかけられたユウとトリスタンはうなずいた。ジェイクの隣で待つ。2人で雑談をしていると受講希望者が更に2人やって来た。それで締め切りらしく、北側の出入り口から外に出て城外支所の建物と水堀の中間辺りまで歩く。


 冷たい風が緩やかに吹く中、ジェイクが受講者に向き直った。そうして全員の注目を浴びながらしゃべり始める。


「オレの名はジェイク、この戦闘講習を担当する講師だ。隣にいるのがユウとトリスタン、この講習では講師補助だな。必要なときに手伝ってもらう予定だ。ところで、キミたちが習いたいという武器は、剣が2人にダガーが1人でいいのかな」


「そうだぜ!」


 血気盛んそうな青年が声を上げた。他の2人もうなずいている。我流が多い中、金を払って技術を身に付けようとする者たちだ。やる気に満ちた目をジェイクに向けている。


 ちなみに、受講料は銅貨4枚だ。これはユウが受講したときよりも銅貨1枚だけ多い。受講料全体が昔に比べて上がっているようである。


 続いてジェイクは受講者たちが持参してきた武器を見た。3人とも自分の武器を持ってきており、その状態を確認する。たまに貧民の市場でひどい状態のものを掴まされる者がいるのだ。さすがにそんなのを使うのは危ないので忠告するのである。


「ありがとう。大体わかった。それじゃ次に、武器について何を教えてほしいのか聞かせてくれ。可能な限りその要望に添って講習をしよう」


「まずはオレから!」


 先程元気に挨拶してきた青年が積極的に発言を始めた。ジェイクがその話を聞いていくつか質問をする。剣で魔物をより確実に両断したいというのが希望らしかった。


 他の2人からも続けて話を聞いたジェイクはユウとトリスタンに顔を向ける。


「トリスタンは確か剣が得意だったよな。だったらオレと一緒にあの2人を教えよう。ユウ、キミはダガーは教えられるかい?」


「教えられますよ。ここで教わったこともありますし」


「だったらそっちのダガー希望者を教えてくれ」


「わかりました」


 受講者3人の希望を聞いたジェイクから1人を任されたユウはその相手に向き直った。おとなしそうな人物だ。ユウをじっと見つめている。


 そんな受講者相手にユウは話を始めた。ダガーの使い方をしっかり学びたいというこの少年はかつてのユウに似ている。当時のことを思い出しながらどう話すべきか考えた。それから口を開く。


「ダガーの使い方をしっかりと学びたいということだったね。それだったらまずは最初から話すよ。まず、ダガーは基本的に予備武器(サブウェポン)だから主武器(メインウェポン)にしない方がいい。冒険者として夜明けの森で魔物狩りをするのならね。とどめを刺すときには便利だろうけれど、ダガー中心でというのは危ないかな」


「さすがにそのくらいは知ってる」


「だったら、今日はダガーでの基本的な戦い方を教えよう。主に対人戦の技術だから魔物や獣にはあんまり意味ないけど、襲ってくるのがそれだけだとは限らないしね」


 真剣な表情で自分を見つめる受講者の少年に対してユウはダガーに関する講義を始めた。最初に広く概要から説明を始めて、次第に細かい話に移っていく。


「説明はこれくらいかな。それじゃ実践といこうか。まず、ダガーの持ち方には2種類ある。剣のように持つ順手とそれを逆にした逆手だよ。理想を言えば常に順手で戦えたら一番だけど、実際は逆手のときの方が多い。というのも」


 具体的な話に移ってユウは受講者に自分の指示に従って体を動かしてもらった。ときには実際に自分がダガーを使って例を見せる。どんな状況で有利あるいは不利なのか、あるいはやって良いこと悪いことを教える。


「次に型を教えよう。順手なら剣とそんなに変わらない。一方、逆手だと上段に構えるんだ。ダガーの威力は弱いからね。思い切り突き刺さないと効果が薄いんだ」


「それは感じたことがある。そうか、オレの使い方が下手だったわけじゃないのか」


 やはり冒険者をやっているだけあって体を動かして理解する方が早い。要領が良いらしく、何回か繰り返すと次々とユウが教えたことを覚えていった。たまに痛い目に遭いながらもその受講者はダガーの使い方を身に付けていく。


「次に、素手でダガーに対抗する方法を教えるよ。ダガーの講習なのにって不思議な顔をしてるね。僕も最初はそうだった。でも、話を聞くと納得できるよ。早い話、ダガーは小さくて持ち運びに便利だから暗殺や喧嘩によく使われるんだ」


「喧嘩でも使う?」


「そうなんだ。血の気の多い人が酔っ払って揉めたときに抜くことがあるんだ。本当に迷惑だよね。どうせなら殴り合いで済ませたら良いのに」


「でも素手で対抗できるのか?」


「できるよ。ダガーで襲いかかられるときって、こっちが武器を持っていないとき、あるいは武器を抜く暇がないときが多いんだ。だから、何としても素手で初撃を躱して時間を稼ぐ必要がある」


「その後は?」


「そのとき次第だね。自分もダガーを抜くのか、周りの物を利用するか、それとも逃げるのか。自分にとって最適な選択をするんだ」


 その後も説明しては実際に体を動かすということをユウは繰り返した。受講者は自分が教えてほしかったことらしく、技術を身に付ける度に機嫌が良くなっていく。


 いつもこんな感じで教えられたら良いのになとユウが思っていると、剣組の方が騒がしくなったことに気付いた。何事かと顔を向けると、血気盛んな青年がトリスタンに食ってかかっている。思わず受講者と顔を見合わせた。


 その間にも事態は推移し、ジェイクが間に入って引き離すとユウを呼びつける。


「ユウ、木剣を2本持ってきてくれ」


「その2人を対決させるんですか」


「どうにもうまくいかなかったみたいでね」


 まだ事情をよくわかっていないユウだったが、冒険者ギルド城外支所に入った。そうしてまっすぐレセップの元へと向かう。


「木剣2本借りたいんですけれど、どこにあります?」


「裏の解体場の倉庫にあるが、はぁ、まぁいいか。ついて来い」


 途中で言いたいことを変更したらしいレセップが席を立った。ロビーへと移ってそのまま北口の出入口から建物の外に出る。


 その後をついていったユウは解体場に入り、とある倉庫の前に立った。扉を開けたレセップに促されると中に入る。そこには木製の武器類がいくつも保管されているのを目にした。その中からレセップが見繕った2本の木剣を手渡される。


「初日から面倒なことになってるみたいだな。喧嘩でもしたのか?」


「僕もはっきりとは知らないんです。ダガーの使い方を1人の受講者に教えていたら、剣を教えている方が騒がしくなっていて驚いたんですよ」


「まぁ、誰にでも噛みつくヤツはいるからな。今回もそんなヤツを引いちまったんだろう」


 木剣を受け取ったユウは礼を述べると小走りでジェイクの元に戻った。戦闘講習を開いていた原っぱではジェイク、トリスタン、受講者3人が今も立って待っている。トリスタンは迷惑そうな顔をしており、血気盛んな青年は今にも噛みつかんばかりの勢いだ。


 これは後にトリスタン本人からユウが聞いた話だが、地元の貧民出身の血気盛んな青年がよそ者のトリスタンを見下しているのが原因らしい。そして、そんな相手から教わるのが我慢できなかったようだ。


 ユウからするとつまらない理由だが、血気盛んな青年にとっては重大なことのようである。ジェイク立ち会いの下、2人が木剣で相対した。合図と共に決闘が始まる。


 勝負は一瞬でついた。相手の剣をはたき落としたトリスタンの勝利だ。傭兵と同じく力の強さがそのまま上下関係になりやすい冒険者でこの勝敗は決定的な結果である。


 以後、血気盛んな青年はトリスタンを睨みつつ、何も言わなくなった。これ以上は恥の上塗りである。


 久しぶりに嫌なものを見てユウは眉をひそめた。他の町であるのだからアドヴェントの町でもこのような感情があるのは当たり前だということを思い出す。


 人に関わることの面倒さをユウは改めて思い知った。

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― 新着の感想 ―
ダガーを習いに来てるのは概ね素直に教えられてくれそう。 ダガーを選んでる時点で自分が力に秀でているとか思ってないだろうし、獣とか魔物相手では根本的な威力不足で「何か足りない」って感じてることも多そう。
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