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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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新人冒険者の教導研修─初心者講習─

 冒険者ギルド城外支所で講習の仕事を引き受ける契約を結んだユウとトリスタンは、翌朝の三の刻に城外支所へ向かった。相変わらず盛況な室内を突っ切って受付係の前まで歩く。しかし、ジェイクの姿は見えない。


 頬杖を付いたレセップにユウが挨拶をする。


「おはようございます、レセップさん。ジェイクはどこにいるんですか?」


「あそこだ」


 レセップが指さした先は建物の北の壁だった。確かにジェイクがそこに立っており、その周りに6人の青年や少年が集まっている。


 目的の人物を見つけたユウはトリスタンと共にそちらへ足を向けた。すると、ジェイクが手を上げてくる。


「やあ、2人とも来たね。それじゃ行こう」


 ユウの返事を待たずにジェイクが講習者を促して北側の出入り口から外に出た。そうして冒険者ギルド城外支所の建物と水堀の中間辺りまで歩く。


 鉛色の雲が広がる空の下、ジェイクは立ち止まって6人の受講者に面と向かった。ユウとトリスタンはそのジェイクの隣に立つ。


「オレの名はジェイク、この初心者講習を担当する講師だ。隣にいるのがユウとトリスタン、今後この講習を担当してもらうために来てもらっている。まぁ講師補助だな。必要なときに手伝ってもらう予定だ」


 いよいよ始まった講習をユウは眺めていた。かつて自分が受けたときは罵声から始まった記憶がある。それに比べたら随分と穏当だ。


 そんなユウの思いに関係なくジェイクの講習は続く。


「冒険者ギルドには年中いろんなヤツがやって来るが、みんな決まってカネがない。それはキミたちも同じだろう。だからすぐに稼ごうとする。気持ちはわかるが、実はこれが間違いなんだ。魔物がいる夜明けの森に丸腰で突っ込んで殺され、貴族様の権利でがっちり固められている獣の森で許可なく獲物を狩って罰せられる。そういう連中が結構いる」


 穏やかな語りはユウにとって聞きやすいものだった。しかし、受講者の半分以上はつまらなさそうに聞いている。


「貧民の場合は横のつながりがあるからその辺のことはみんなで教え合っている。でも、町から出てきた今のキミたちにそういったことを教えてくれる人はいないだろう。それをオレが今から教えるわけだ。銅貨2枚以上の価値があることはすぐにわかるよ」


 淡々と語るジェイクは受講者の態度を気にせず語っていた。その内容と実際を知っているユウからすると大切なことばかりだが、町の外に出たばかりの者ではその意味が理解できないこともよく知っている。


「最初に、キミたちが一番勘違いしていることを正そう。冒険者としてギルドで登録できるのは、きちんと武装して夜明けの森に入れる者だけだ。あそこの森には獣なんかよりはるかに恐ろしくて凶暴な魔物が出る。そんな連中とまともにやり合える者だけが冒険者として認められるんだ」


「丸腰で入ったら一発で殺されるって受付で聞いたがホントか? 逃げたらいいだろ」


「武器も持たずに夜明けの森に入るヤツは毎年後を絶たない。でも、その中で戻って来られるのは10人中1人や2人くらいだ。そして、調子に乗ってまた森に入って戻って来たヤツはいない。だからギルドは冒険者登録をした者以外は夜明けの森に入るのを禁止しているんだ」


「マジかよ?」


「事実だ。価値の高い植物なんかがあるから、ギルドとしてはもっと夜明けの森に人を送り込みたいのが本音だ。でも、帰ってこなければ行かせる意味がないだろう?」


 真剣な表情で話すジェイクを見る受講者の表情は様々だ。問いかけた青年のように微妙な表情をする者、胡散臭そうに見る者、薄笑いを浮かべる者などである。


 自分の時もそうだったとユウは受講者を眺めながら思い返した。


 周囲の思いなどお構いなくジェイクは言葉を続ける。


「では、キミたちはどこで稼げばいいのか? もちろん稼げる場所はある。夜明けの森がダメでも、獣の森に行けばいい」


「オレ聞いたことがあるぞ。獣がいくらでも湧いて出てくる森だよな」


「確かに普通の森よりも獣が多数出てくるね。さすがに大群で襲いかかってくることはないが、油断はできない森だ」


「まずはそこで稼げってことか」


「その通りだ。しかし、いくつか注意点がある。それについての説明はこっちのユウからしてもらおう」


 全員が注目する中、ユウは前に出た。そうして口を開く。


「僕はこの町出身で前に獣の森で活動していたから、その経験を踏まえて説明するよ。魔物の方が危険だけど、だからといって獣が安全なわけじゃない。獣は獣で危険なんだ。狩りをする場合はもちろん、薬草を採取するときも背後から襲われることなんて当たり前だしね。普通の森とは違って人間に攻撃的だから見つかったら即戦闘だよ」


「やたらと凶暴ってことか」


「そう考えておいた方が良いね。ちなみに、獣の森に行く人たちは最大6名までのグループを作ることができる。そして、その代表者の名前だけをギルドに登録するんだ。この代表者のことを職員たちは所属者と呼んでいるよ。冒険者ではないがギルドに所属しているという意味でね。ちなみに、代表者以外は付属者と呼んでいる」


「なんで全員登録しねーんだ?」


「獣の森には貧民の人たちもよく入っていて、数が多い上に入れ替わりが激しいから管理できないんだ」


「なんだそれ、好き放題できんじゃねーか」


「最初はみんなそう考える。でも、世の中そんなに甘くないよ。森番という見張りが森の中で密かに監視している上に他のグループの密告もある。だから不正をすると必ずばれる」


 舌打ちした受講者はつまらなさそうにつばを吐いた。他の受講者の表情もうんざりとしたものになり始める。


 そんな目の前の受講者の態度など気することもなくユウはしゃべる。


「それで、首尾良く薬草を採取したり獣を狩ったりできたとする。それらは必ずこの冒険者ギルド城外支所で換金すること。いい? 絶対にだよ」


「なんでそんなこと決められなきゃいけねーんだよ。一番高いところで売った方がいいだろう」


「その気持ちはわかる。でも、獣の森全体がトレジャー辺境伯爵の所有地で、この地でその森を管理しているのがアドヴェントの町なんだ。そして、冒険者ギルドはその管理を代行しているから利用料を回収しないといけないんだよ」


「ちぇっ、つまんねぇ」


「ちなみに、町の中はもちろん、外の市場や貧民街でも取り引きはできないよ。冒険者ギルドは貧民街近辺の管理を町から委託されているからね。あの辺の治安維持や税金回収なんかも全部だよ。この意味はわかるよね?」


 悪態をついていた受講者が顔をしかめた。町の中と同じく、外にも貴族やギルドの支配が及んでいるということだ。先程の森番や密告の話も含めると森の中も例外ではない。


 不機嫌な受講者をそのままにユウは尚も説明を続ける。


「肝心の獣の森の利用料だけれど、薬草採取は1人1日につき銅貨5枚だよ。狩猟は1人1日につき最も良い獲物を1頭差し出す。獲物がないときや獲物が小さすぎるときは銅貨5枚を支払うんだ」


「いくら何でも高すぎるだろ!」


「だから特例として、冒険者ギルドに所属した者は最大6名までを1人として扱うことが許されている。しかも、狩猟に関しては獲物がなければ利用料を支払わなくてもいいことになっているんだ。このように、群れるということは単に危険を防ぐためだけじゃない。利益を大きくするためでもあるんだ。そして、その利用料を換金のときに差し引くんだよ」


 話を聞いていた受講者の顔つきが少し真面目なものになった。規則は義務として強制されるだけでなく、利益を得られるようにもなっていることに気付いたからだ。


 口を閉じたユウが隣に目を向けた。ジェイクがうなずくと温和な表情で締めくくる。


「そんなところだね。森の中には常に危険があふれている。その危険とは魔物や獣はもちろん、別のグループとの争いや規則違反への誘惑など様々だ。稼ぎたいという気持ちが強くなるのは仕方のないことだが、常に危険と隣り合わせだということは自覚しておくように。そして、決して一線は越えてはいけない。お互い不幸にしかならないからね。以上、質問がなければ講習は終わりだ」


 解散の宣言と共に受講者が去って行った。すぐにユウがジェイクに尋ねる。


「僕のときは罪人の処罰も見学したけれど、今回はないんだ」


「あれはあるときだけだね。ないのが一番なんだが」


「今のを全部説明するのか。俺には無理そうだな」


「極端な話、丸暗記して伝えるだけでもいいんだ。どうせ受講する連中で獣の森のことを知ってるヤツはいないからね」


 苦笑いするジェイクの言葉にトリスタンが目を丸くした。


 ともかく、これで初心者講習は終了である。3人は冒険者ギルド城外支所の中へと戻った。

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