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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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今後の4人の付き合い方

 年が明けてから数日が過ぎた。ユウたち4人は休暇を満喫している。誰もがまだしばらく休むつもりだ。何ヵ月も働いていたのだから当然だろう。


 今日も夕食を全員で済ませると宿屋『乙女の微睡み亭』に帰ってきた。ユウが受付カウンターで鍵を受け取るためにアマンダへと声をかける。


「アマンダ、部屋の鍵をちょうだい」


「はいよ。今年に入ってからは随分とのんびりしてるじゃないか」


「働いた分は休まないとね。アマンダは休まないの?」


「ちょいちょい休んではいるさ。こっそりとね。それに、お客がいないときなんかに居眠ってたりするのさ」


 うまくやっていることを伝えられたユウは曖昧にうなずきながら鍵を受け取った。やりようは何とでもあるらしい。


 宿屋の裏方を垣間見たユウたち4人は借りている部屋に向かった。2人部屋を借りているので、ユウとトリスタン、コミニアヌスとアテリウスに分かれて部屋に入ろうとする。


 そのとき、ユウはコミニアヌスに声をかけられた。扉を開けかけたところで体を止める。


「どうしたの?」


「今後のことについて話をしたいんだ。後で良いかな?」


「なるほど、そうだね。わかった。だったらすぐにそっちへと行くよ」


 いずれ話し合う必要があることだとはユウも承知していたので即答した。まずは休みたいという思いがあったので後回しにしていたのだ。


 一旦自室に戻って身を軽くした後、ユウとトリスタンは隣の部屋に移った。既に待っていたコミニアヌスとアテリウスが寝台に座っている。それを見たユウは椅子に座り、トリスタンは木窓の横の壁にもたれかかった。


 全員が揃ったことを確認するとコミニアヌスが口を開く。


「それじゃ始めようか。まずはユウとトリスタンにお礼を言うね。去年森の中で出会ったときは右も左もわからなかった僕たちに手を差し伸べてくれて。しかも、素性の知れない僕たちを大陸西部の中央にまで連れて行ってくれたことには本当に感謝するよ」


「似たような経験があったから、放っておけなかったんだ」


「君の自伝を読んでその辺りのことも知ったよ。経緯は全然違うけれど、路頭に迷っていたところは似ていたね。それで、本題なんだけれど、去年僕が願った大陸西部中央の実地調査は一応できた。そのまとめも今日書き終えた。ということで、去年の作業がようやく終わったんだ。そこで、今後どうするかを4人で話し合おうと思ったんだ」


「当初の目的は果たしたんだよね。ということは、僕たちが君たちと交わした契約は完了ということで良いのかな」


「構わないよ」


「ということは、2人が古鉄槌(オールドハンマー)に所属する意味はあるのかな?」


「それなんだよね。僕たちがユウのパーティに入ったのは大陸西部中央に行くためだったんだけれど、その目的は一応果たせた。でも、一応なんだ」


 一応という言葉を強調するコミニアヌスを見たユウはトリスタン共々反応しなかった。あれで満足したとは当初の言動から考えられなかったからである。そうなると、これから何を話すのかというのは明らかだ。


 話を聞いていたトリスタンが声を上げる。


「コミニアヌスは大陸西部中央の調査をまだし足りないというわけだな」


「そうなんだ。さすがにあんな駆け足でさっと見ただけというのじゃ全然足りないんだよね。僕はもっとこう、じっくりと調査したいんだ」


「でも、今のネモの町は戦争中で行けないぞ。一体どうするつもりなんだ?」


「実地調査のまとめを書いているときから色々と考えていたんだけれど、この西方辺境から大陸西部中央に行くための経路は他にも2つあるんだよね。北の端と南の端」


「北の端は見たことがあるな。南の端はユウが通ったんだったか」


「そうだね」


 相棒に声をかけられたユウは当時のことを思い出した。北の玄関口であるフロンの町と南の玄関口であるバイファーの町のどちらにも行ったことがある。ついでに言うと、ファーウェストの町にも行ったことがあるのですべての玄関口を通った経験があるのだ。


 次第にコミニアヌスのやりたいことがはっきりとわかってきたユウが先回りする。


「つまり、例えば、西方辺境の北の端から大陸西部中央に行って縦断して、西方辺境の南の端から入ってアドヴェントの町に戻るという感じで調査がしたいのかな」


「そうなんだ! 1年くらいかけてじっくりと大陸西部中央を実地調査したいんだよ!」


 力説してくるコミニアヌスを見ながらユウは頭の中で計算してみた。西方辺境の経路はユウが実際にたどった街道を使うとすると、そこから大陸西部中央を縦断するのにかかる時間も合わせると半年くらいはかかりそうだ。あとはどのくらいの数の町に寄ってどの程度調査するかだが、この勢いなら町ひとつに1週間くらいかけそうに思われた。


 その上でユウはアテリウスに顔を向ける。


「アテリウスはどう考えているのかな?」


「さっさと帰りたいというのが俺の意見だが、雇い主はあっちなんでな。それに、こちらの本来の目的でもあるから反対しにくい」


「なるほど。そうかぁ」


 肩をすくめるアテリウスの様子を見たユウは何も言えなかった。前にも雇い主権限が発動されたことがあったことを思い出す。それに、本来の目的に合致しているのならば護衛であるアテリウスが反対できるわけがないのだ。


 こうなるともうユウとしては結論が出てしまう。


「そうなると、僕たちとしてはもうこれ以上は付き合いきれないよ。僕たちの方に大陸西部中央へ行く理由はないからね。さすがに冒険者ギルドの依頼を探してもコミニアヌスの意に沿うような仕事はないだろうし」


「うーん、やっぱりそうなるよね」


「確認しておきたいんだけれど、2人はアドヴェントの町での生活には慣れたかな?」


「そうだね。生活する分にはもう大丈夫だよ」


「だったらもう2人だけで旅はできるんじゃないかな。僕から見ても2人でやっていけるように思えるよ」


「そうなんだ。だったら、僕たち2人だけで行くことにしよう。ああでも、残念だなぁ。君の自伝が読めなくなるなんて」


「アドヴェントの町にまた寄るつもりなら、この宿に来たら良いんじゃないかな。1年くらいならまだここにいるはずだから、ね?」


 語尾が若干弱くなったユウはトリスタンへと顔を向けた。その相棒は小さく肩をすくめるだけだ。


 この言葉を聞いたコミニアヌスの顔が明るくなる。


「そうなの!? やった! 必ず戻ってくるよ!」


「ああ、うん。できるだけ書き進めておくね」


「頼むよ! 戻って来たら大陸の北側がどうなっているのか読むんだ!」


 はしゃいでいるコミニアヌスを見たユウは苦笑いした。ここまで楽しみにしてくれるとなると書く方としては嬉しい。同時に少し慣れないが。


 喜ぶコミニアヌスに対してアテリウスが声をかける。


「コミニアヌス、これで旅に出ることが決まったわけだが、そうなると先立つものが必要になるぞ。またユウに頼んで換金しておくべきだろう」


「そうだった! ユウ、僕の手持ちの砂金を貨幣に変えたいんだ。だからまた商館に連れて行ってくれないかい?」


「わかった。それじゃこの後に行こうか。あいや、ちょっと待って。どのくらい必要になるのかな?」


「まだそこまでは考えていなかったけれど、何かあるの?」


「アドヴェントの町で交換できる貨幣はトレジャーの貨幣なんだ。西方辺境だと大体は通じるけれど、中央だとたぶん通じないんじゃないかな」


「でも、前にレニー市へ行ったときは通用したじゃないか」


「あれは同じチャレン王国内だったからだよ。他の国だとそうはいかないよ。だから、この町であんまり多額のトレジャー硬貨に換金するのは良くないと思う」


「なるほど」


「それと、今僕がある程度金貨を持っているから、砂金と交換したいんだったら僕とする? これなら手数料を取られることもないよ」


 難しい顔をして黙ったコミニアヌスにユウは代案を提示した。大陸西部中央に行くと現地の通貨が必要になるが、それは現地で何とか手に入れるしかない。そして、当面必要な金銭ならばユウの持つ金貨の枚数で充分だった。


 少し考えたコミニアヌスはユウの提案に応じる。やはり手数料がかからないというのは魅力だった。これで数十枚の金貨を手に入れる。


「ユウ、結構金貨を持っていたんだね」


「先日の依頼の報酬と君からもらった報酬だよ」


「なんだか自分が与えた金貨を買い戻した気分だなぁ」


 何とも言えない表情のコミニアヌスが手にした金貨を見ながらつぶやいた。ちらりとアテリウスへと目を向けるがこちらは我関せずである。


 こうしてユウとトリスタンは去年の秋から共に行動していたコミニアヌスとアテリウスの2人と別れることになった。1年後再会するという約束を交わして。以後、出発する2人は旅の準備を始めた。

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