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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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しばらくは絶対に働かない

 3ヵ月近く町の外で調査活動をしていたユウ、トリスタン、コミニアヌス、アテリウスの4人は新年を迎えた。年末最終日まで働いていたこともあり、新しい年を迎えたというよりも仕事から解放されたという感覚の方が強い。


 そんな4人は新年初日から全員が好き勝手に過ごしていた。ユウはいつも通り自伝を書き、コミニアヌスは実地調査のまとめを整理し、トリスタンとアテリウスは町の中の賭場へと遊びに行く。ちなみに、アテリウスは娼館までは付き合っていない。


 ばらばらに行動している4人ではあったが、夕食のときだけはできるだけ集まるようにしていた。強制ではないので毎日全員が揃うとは限らないものの、日に1度は顔を見せようという考えである。再びちなみに、揃わないときはトリスタンが娼館に行く場合だ。


 この日の夕方は全員が集まった。トリスタンが娼館へ行かなかったからである。冒険者ギルド城外支所の建物で待ち合わせた4人は集まると貧者の道を安酒場街へ向かって歩き始めた。


 どんよりと曇る空の下、冷たい風を浴びながら4人は進む。そろそろ日没という時間帯だけにことさら身に沁みた。


 震えるトリスタンが白い息を吐きながら愚痴を吐く。


「寒いなぁ。早く暖かくなってくれないもんかな」


「同感だね! ペンを握る手がかじかんで動かしにくくてかなわないよ!」


「そう言う場合どうするんだ?」


「首筋に手を当てて温めるようにしているよ。首は冷たいけれどね! ところで、ユウも自伝を書いているんだよね。手が冷えたときはどうしているのかな?」


「僕の場合だと、冷えてどうしようもないときは体を動かすかな。運動不足になりがちだからちょうど良いし、気晴らしにもなるしね」


「そういえば、日の出前に日課の鍛錬以外でもたまに体を動かしているときがあったよな、お前」


 真冬の執筆時の対策について話を始めたユウとコミニアヌスの話を聞いていたトリスタンがつぶやいた。冬の寒さが厳しい地方に入ってから見かけるようになった対処法だ。


 話をしながらいつものように安酒場『泥酔亭』へと入った4人は空いているテーブル席に座った。客入りは増えて来ているが空き席が目立つ頃合いなので席には困らない。


 4人が席に座ると店の女将であるタビサがユウに声をかける。


「今日は全員揃ってるじゃないか」


「タビサさん、サリーは子供の面倒を見ているんですか?」


「そうなのさ。一番下の子が風邪をひいちまってね。なかなか目が離せないんだよ」


「大変ですね」


「慰めてくれるっていうんなら、たくさん注文しておくれ」


「いつものを4人分ください。追加の注文は追々します」


「まいど。ちょいと待ってておくれよ」


 注文を受けたタビサが厨房へと入って行った。連日の盛況さを見ているとサリーがかき入れ時にいないというのはなかなか厳しそうだ。こういうときにあと1人誰かいると楽なのだが、そううまくはいかないようである。


 酒はすぐにやって来た。今度は給仕をしているエラが運んで来る。


「お待たせ。全員の分が揃うのはちょっと待ってね」


「エールがあるんなら急がなくても良いよ」


 木製のジョッキをテーブルに置きながらしゃべるエラにユウは答えた。同時にその取っ手を持ってエールを飲む。ひんやりとした液体が腹の中で温かくなる。


 料理を待っている間に雑談が始まった。主にトリスタンとアテリウスの博打の結果だ。今日の成績は良くなかったらしく、アテリウスが先程から黙ったままである。トリスタンが代わりに説明すると更に面白くなさそうな態度になった。


 エラが料理を運んで来ると4人ともそれに手を付ける。この辺りで会話は一旦衰えた。まずは空腹を満たすことが優先である。


 注文した料理の残りが運ばれてきた。その運んできた給仕女を見てユウは目を見開く。


「あれ、サリー? 風邪を引いた子供の面倒を看ていたんじゃないの?」


「さすがに繁忙期にそんなことは言ってられないわ。ただの風邪だし、寝かしつけてから来たのよ。上の子に面倒を見るよう言っておいたから、何とかなるでしょ」


「上の子、今何歳になるんだっけ?」


「今年で7歳よ。だから寝てる子の様子を見るだけならできるわ」


「もうそんなに大きくなったんだ」


「親戚のおじさんみたいなこと言うわねぇ」


 テーブルに料理を置き終えたサリーが笑いながら答えると呼ばれた別テーブルへと移って行った。ユウはその後ろ姿を呆然と見送る。


「ユウが親戚のおじさんだなんてね! 子供の成長記録を細かく記していそうじゃないか」


「うるさいな。僕がそうだったらコミニアヌスも同じでしょ。調査が必要だって子供を調べ倒すかもしれないしね」


「まさかそんなことはしないよ! たぶん」


「お前なら出産の記録から詳細に書きそうだな」


「そんなことはしないよ、アテリウス!? 何を言っているんだい!」


 突然脇から言葉で殴りつけられたコミニアヌスは目を向いてアテリウスに反論した。湯できれいに体を洗って清潔な布でくるむところまでと言われるとさすがに黙っていられなかったようだ。


 最初はからかわれて面白くなさそうにしていたユウもコミニアヌスの様子を見て溜飲を下げた。そして、赤ん坊の話を聞いて何やら思い出す。


「そうだ、そろそろ体と服を洗わないといけないよね」


「ユウ、まさかだとは思うんだけれど、もしかして境界の川で洗うんじゃないよね?」


「境界の川だよ? そうじゃなかったら、一体どこで洗えば良いの?」


「いやいやいや! ユウ、落ち着こう。こんな真冬に川へ飛び込んだら絶対に病気になるから! もっと文明的な方法で体も服も洗うべきなんだ!」


「文明的な方法ってどういうのかな?」


「えーっと、あれだほら、宿でお湯をもらって体を拭いて服を洗えば良いんだよ!」


「体は手拭いで拭けるからまぁいけるとして、服を洗うのは難しいと思うよ? たぶん充分に洗えないと思う。灰汁(あく)を使って洗うとしても、その後充分に洗い落とさないといけないし」


「もしかして、ユウはこの方法を試したことがあるのかい?」


「あるよ。駄目だったから川で体と服を洗っているんだ」


「なんてこったい」


 思わぬ話を聞いたコミニアヌスは口を開けて呆然とした。更に洗い場で服を洗った経験もあると知ってアテリウスも目を見開く。どちらもユウが川でしか体と服を洗ったことがないと思い込んでいたらしい。


 脇で話を聞いていたトリスタンが首を横に振る。


「コミニアヌス、前に言わなかったか? ユウはきれい好きだって。こいつは大陸を一周していたときに色々と試していたんだよ」


「その話は聞いていなかったような気がするなぁ」


「あの自伝っていうやつにも書いてなかったのか?」


「あれ、どうだったかな?」


「ユウは大陸の北側の寒い地方でも体と服を洗っていたからな。筋金入りだぞ」


「嘘だろ」


「待って、さすがにあのときは真冬は避けていたはずだよ。たぶん。あれ、でも1回くらいはやったことあったかな?」


 反論しているうちにユウは自分の言葉に自信をなくしていった。大陸の北側でも体と服を洗っていた記憶はあるが、季節までは曖昧だ。冬は避けていた気もするが、やっていないとは言い切れない。今度自伝を読み直そうと考える。


 しばらく体と服を洗う話が続いたが、結局今の時期に洗うことは3人によって否定された。ユウが一緒にと誘っても当然拒否される。


 翌日、ユウは仕方なく1人で境界の川へと赴いた。木の枝を集めて焚き火を始め、火勢が充分強くなったところで服を洗い始める。当然刺すように冷たいが我慢した。洗った服は木の枝で作った簡単な物干し台で干し、焚き火の炎で水気を飛ばす。その間、体を洗ってきれいにした。もちろん夏よりも入っている時間は短い。上がった後は手拭いで濡れた体を拭いてから湿った服を着る。そうして焚き火の隣で鍛錬だ。体を動かせば少なくとも体は温かくなる。


 そうして昼頃までに体を温め服をましな生乾き状態にまでするとユウは宿へと戻った。すると、部屋の中の床は水に濡れ、木窓には服が干してあるのを目にする。当人は寝台の上でシーツにくるまっていた。


 そんな相棒にユウが声をかける。


「トリスタン、どうしたの?」


「疲れた。やっぱり洗濯は嫌いだ」


 話を聞くと、体を湯で拭うのはともかく、服の洗濯が大変だったようだ。限られた大きさのたらいの中で服を洗う作業は体力だけでなく精神も削り取っていったらしい。その上、灰汁(あく)をきれいに洗い落とせなかったようなのだ。


 そうだろうなとユウは思った。かつて別の町で洗濯屋の仕事を手伝ったことがあっても難しいと思った作業である。ある意味当然の結果だ。


 ちなみに、隣の部屋のコミニアヌスとアテリウスも同じように挑戦し、そして同じ結果だったようである。

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― 新着の感想 ―
ずっと思っていたのだが、今やお金を持っているのだから、もう1セット服を買えば良いだけでは…? そうすれば生乾きの服を着る必要もないし、お金を払って洗濯女に洗濯してもらってもよいし… ユウはともかくトリ…
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