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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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現地調査の結果報告

 アドヴェントの町に帰ってきた翌日、ユウたち4人は日の出と共に起きた。時間に追われていた旅の途中とは違い、後は依頼元に報告するだけなので余裕があるのだ。


 外出する準備をしていると途中で三の刻の鐘が鳴る。街道を往来する人々は既に町を出て歩いている頃のはずだ。


 用意が整ったユウとトリスタンは隣の部屋に向かった。中に入ろうとするとちょうどコミニアヌスとアテリウスが出てくる。


「おはよう、2人とも。昨日はよく眠れた?」


「もちろんよく寝たさ! いつ寝たのかはっきりとわからないくらいだよ!」


「こいつの記憶は酒場から曖昧になっていたらしい。宿に戻った記憶はないそうだ」


「えぇ、ベッキーとしゃべってたじゃないか」


 2人のまさかの回答にユウは言葉を失った。あのとき最も話をしていたのはコミニアヌスだからである。こんな人もいるのかと純粋に驚いた。


 そんなユウに対してトリスタンが声をかける。


「早く行こうぜ。報告が終わったら後は自由なんだろう? 遊びに行きたいんだ」


「わかったよ。コミニアヌス、報告書は持ってきているかな?」


「ちゃんとあるよ! いつでも提出できるからね!」


 返答に安心したユウがうなずくと歩き始めた。鍵を返して宿を出る。路地を歩いて西端の街道に出ると目の前に冒険者ギルド城外支所があった。迷わず中に入る。


 屋内には多数の冒険者たちで騒々しい。本当の意味で今日は年末だというのに活気がある。この中に年を越せる金銭を持っていない者も少なくないのだ。


 そんな者たちを縫うようにして避けて4人は進む。目指す場所はこんな時でも行列ができない受付係の前だ。その場にたどり着くとユウが声をかける。


「おはようございます、レセップさん。昨日戻って来ました」


「久しぶりだな。生きて帰ってきたのは結構なことだ。打合せ室に行くぞ」


 4つの革袋を持ったレセップが席から立ち上がると受付カウンター沿いに南側へと歩いて行った。それに合わせてユウたち4人もロビー内を進んで追ってゆく。


 廊下に並ぶ打合せ室の扉はすべて開いていた。年末の今、利用者はいないらしい。レセップが手近な一室に入ると、4人もそれに続いた。


 席に着いたレセップがテーブルの上に持っていた革袋4つを置くと口を開く。


「今回の報酬だ。先に受け取っとけ」


「良いんですか? まだこっちは成果物を出していませんよ?」


「お前らの様子を見てりゃうまくいったかどうかわかるからな。特にユウ、お前はすぐに顔に出るからわかりやすいんだ」


「うっ、そうですか」


「それに、いつまでも他人の大金を持っていてもオレが面白くねぇんだわ」


 いつもの調子でテーブルに頬杖を付いたレセップが自分の気持ちを正直に話した。確かにその通りなのでユウたち4人は革袋をひとつずつ取り寄せ、中身を確認する。


「これ、日当に日付を掛けた分だけあるんですよね。それなら確かに確認しました」


「みんな数えられたか? 数えたな。それじゃ話を進めよう。ネモの町とレニー市の様子はどうだった?」


「コミニアヌス、報告書を出して」


「いいよ!」


 レセップの要求に対してユウはコミニアヌスへ声をかけた。それに合わせて何枚かの羊皮紙が受付係の前に差し出される。


 相手が羊皮紙の束を受け取ったのを見たユウは説明を始めた。基本的にはレセップが目で追っている報告書の内容と大差ない。いくらか自分たちの所感を付け加えているくらいだ。そんな報告を最初はネモの町、次いでレニー市と続けてゆく。


「以上です。その羊皮紙に書いてあることとほとんど変わらないと思いますよ」


「そうだな。大体同じだ。しかしこれ、読みやすいな。そのコミニアヌスっていうヤツが書いたのか?」


「はい、そうです! 寝不足で眠たかったですよ!」


「昨日町に戻ってきて今朝出したということは、徹夜で書いたのか?」


「いえ、道中でその都度書きました! 大抵は調査が終わったその日の夜ですね!」


「頑張りすぎだろ、お前。旅の途中で倒れたら野垂れ死んじまうぞ」


「アテリウスが運んでくれるので大丈夫です!」


「いい加減、置いていきたくなるときもあるがな」


 隣から容赦ない突っ込みが入ったがコミニアヌスはまったく気にした様子はなかった。


 わずかな間2人の様子を見ていたレセップが羊皮紙をテーブルに戻す。


「書き方に関しては大したもんだが、内容が少し薄いのはどうしてだ?」


「どちらの町も調査期間を2日に限定したからです。ファーウェストの町まで進んだときに戦争が近いということを実感したんで、戦争が始まる前に戻れるよう日数を計算したんですよ。実際、ファーウェストの町からやって来た軍隊と辺境の街道ですれ違いましたから、僕たちの判断は正しかったと思います」


「なるほどな。ネモの町で戦争が始まったらあの街道は使えなくなるからか。回り道もできるっちゃできるが、何ヵ月もかかっちまう。となると、お前の判断も妥当というわけだ」


「だと思います」


「そうかぁ。ということは、あと1ヵ月くらい早く任せられてりゃ良かったわけかぁ」


 ユウの返答を聞いたレセップが天井を見ながら独りごちた。各町の滞在日数を最小限にして往復してぎりぎり戦争に巻き込まれなかったのだから、戦争前に情報を届けるという考えが正しければユウは真っ当な判断をしたことになる。そして、レセップはその判断を妥当だと判断していた。


 それまで黙っていたトリスタンがレセップに話しかける。


「内容が薄いというのはそんなに問題なのか?」


「まぁ今回に限って言えばこんなもんだ。時間も限られてる状態で得られるもんなんてたかが知れてるしな」


「ということは、最初からこうなることはわかっていたわけだ」


「ある程度はな。ただ、この報告書の価値はもう半分しか残ってねぇが」


「どういうことだ?」


「トレジャー辺境伯とチャレン王国中央がきな臭くなってきているので現地の情報がほしいってのが依頼内容のひとつだったろ? 戦争が始まったらきな臭いも何もないからな。今更この情報を受け取っても大して役には立たねぇ」


「そうか? レニー市が援軍を派遣できなさそうというのは有用だと思うが」


「あくまでも噂程度じゃ参考にするのも危険なんだよ。攻め込まれた途端に王子2人が協力して迎え撃つ可能性だってあるだろ」


 一例を挙げて反論されたトリスタンが黙った。噂程度では参考にもできないと言われると報告の内容が薄いと言われる理由が理解できてくる。確かに今回の調査結果は多分に噂を含んでいるからだ。


 トリスタンから視線を外したレセップが更にしゃべる。


「密輸組織の方はその点まだしっかりとしてるから、こっちは参考にできる。ただ、ネモの町で戦争が始まったせいで辺境の街道が使えなくなったから、あっち側から何か仕掛けてくるということは当分ないだろうな」


「戦争で人と物のやり取りがなくなるからですね」


「そういうことだ。まぁこの件は後回しになるのは決まりだな」


 報告を終えたユウはレセップの話を聞いて自分たちがやったことにどれだけ意味があるのかということを考えた。報酬をもらって大きな利益を得たという点では確かに意味はあるが、報告そのものに関してはかなり怪しい。ただ、元はコミニアヌスの大陸西部中央行きを実現するために引き受けた仕事なので、そこを深く考える必要がないといえばなかった。


 こうなるともうこの場に用はない。ユウは仲間と一緒に席を立とうとした。そこへレセップが更に話しかけてくる。


「そうだ、お前ら秋から町を離れてたから、今の夜明けの森の様子を知らないよな」


「え? 何か変わったことがあったんですか?」


「毎年春から夏にかけて魔物の数が増えて秋から冬にかけて数が減るんだが、今は13月だというのに夏並に魔物の数が多いんだ」


「どうしてですか?」


「正確なところはわからん。ただ、秋口に探険隊の連中がこの町にやって来て、11月の頭くらいに森の奥へ行ったんだ。それで先月の半ばくらいにぼろぼろになった生き残りが戻ってきてから、魔物の数が増え始めた」


「それって何年か前にもありましたよね。僕が駆け出しの頃だったかな」


「よく覚えてるな。確かに似てる。それで今、冒険者は大忙しなわけだ」


「冒険者からしたら稼ぎが良くなったわけですから嬉しいですよね」


「そうなんだよな。出費がかさむギルド側は頭が痛いが」


「ということは、今の森に入るときは気を付けろということですか」


「おう、それがわかってりゃいい」


 話が終わるとレセップは立ち上がった。そうして4人を振り返ることなく打合せ室を出て行く。


 残されたユウたちは顔を見合わせた。自分たちと関係のないところで問題が起きているようで何となく落ち着かない。


 しばらく誰も動かなかった。

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