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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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感想はそれぞれ

 新年までもう間もないという13月の終わりになって、ユウたち4人はアドヴェントの町に帰ってきた。季節はすっかり冬に移っていて寒いのが当たり前になっている。


 境界の街道を歩いていた4人は安宿街辺りにやって来ると人通りが増えたことに気付いた。いよいよ町に帰ってきた実感が湧いてくる。


「ああ、帰ってきたなぁ」


「都合3ヵ月弱か。ほとんど移動ばっかりだったよな、今回」


「今回もでしょ。町の外に出たときはほとんど街道を進んでいるんだし」


「心情を言い表しただけで、実際のことを言っているわけじゃないんだけれどなぁ」


 冷静に突っ込んで来たユウにトリスタンが呆れ果てた。しかし、既に気力は使い果たしているようでそれ以上の反論はない。


 その後ろを歩いているコミニアヌスがため息をつく。


「寒いなぁ。早く温かいところで調査のまとめを書きたいよ」


「そこは普通眠りたいと言うところだろう」


「だってまだ書けてないのがあるんだよ。やり残したままだと落ち着かないだろう?」


「確かにそうなんだが、お前という奴は」


 疲れているはずの雇い主がこの期に及んでまだ執筆作業をしようとすることにアテリウスが呆れた。渋い顔をしながら諭そうとするが、コミニアヌスには効果がない。


 すっかりやる気が地に落ちた一行はユウを先頭に歩き、貧者の道へと曲がる。そろそろ日没の時間が近いということもあって人通りも多い。


 安酒場街の路地へと踏み込んだユウたちは酒精と吐瀉物の臭いを強く感じる。10日以上街道を歩いていた4人にとってそれは文明の香りだった。


 いつものように4人が入った安酒場『泥酔亭』の客入りはそこそこである。13月の日没は六の刻よりもかなり早いのでこんなものだ。


 使用済みの食器を手にしたエラが通りかかったときに声をかけてくる。


「いらっしゃい。久しぶりね。最後はいつだったかしら?」


「11月の初め頃だったはずだよ。2ヵ月半以上だったのは確かだね」


「また町の外に出かけていたわけね。しっかり稼いで来たのなら、たくさん飲み食いしてちょうだい。とりあえずいつものでいいかしら?」


「それでお願い」


 何ヵ月も見かけなくなることにすっかり慣れたエラに対してユウは短く答えた。それから空いているテーブル席に仲間と座る。周囲の客が談笑している中、ここだけ静かだ。


 そんなところへサリーが料理と酒を運んできた。近くに座っているトリスタンに声をかける。


「久しぶりに帰ってきたって聞いたから顔を見に来たら、また辛気くさい顔をしてるわね」


「仕事直後なんだから仕方ないだろう。たった今町に戻ってきたところなんだぞ」


「ということは、町に帰ってきてすぐ来てくれたわけなのね。嬉しいわ」


 テーブルに持ってきた料理と酒を置いたサリーはすぐに去って行った。入れ替わりで今度はタビサがやって来て料理を置きながらユウに話しかける。


「随分とお疲れのようだねぇ。うちの料理と酒をたくさん食べて疲れを癒やしておくれ」


「そうします」


「今回はどこまで行ってきたんだい?」


「山を越えた向こうの中央ですよ。帰りに軍隊とすれ違ってひやりとしましたが」


「それは怖いねぇ。まぁ無事で良かったよ。しばらくはゆっくり休むといいさ」


「そのつもりです。しばらく何もしたくないですから」


 笑顔のタビサはうなずくと調理場へと戻っていった。料理と酒はこれで揃ったので4人が緩慢な動作で夕食を始める。次第に騒がしくなっていく店内で誰もが黙々と食べた。


 半分ほど食べたところでユウがぽつりと漏らす。


「また戦争が始まったね」


「また? 前にもこんなことを経験したことがあるのか?」


「アテリウスにはまだ話したことはなかったかな。僕が大陸一周の旅に出る少し前にこの国で内戦が起きたんだよ。それに関わるのが嫌で旅に出たんだ」


「ああ、それらしいことは前に聞いたことがあるな。しかし、改めて考えてみると、内戦に関わるよりも無茶なことをしていないか?」


「うっ、今思い返すとそう思う。でも、あのときは何もかも知らなかったから、漠然とした思いだけでここを飛び出したんだよね」


「そして生きて帰ってきたわけか。大したものだな」


「ありがとう。でもこの様子だと、そのうち関わりそうで怖いんだよね」


 対象が何であれ、暴力を使った生業に就いているのでユウはいずれ巻き込まれそうな気がしているのだ。面白くない予想だが、今後も戦争は避けるように努力するつもりである。


 食事が進むにつれて疲労が癒えてきたのか、会話が少しずつ増えてきた。その中でトリスタンがぼやく。


「今回一番当てが外れたのは、レニー市のフランシス商会で護衛の仕事を斡旋してもらえなかったことだよな。それか冒険者ギルドで隊商の人足の仕事か」


「でもトリスタン、結果論だけれど、今回は歩いた方が良かったかもしれないよ」


「どうしてだ? 荷馬車に乗れた方が楽だし、報酬ももらえるんだぜ?」


「だって、隊商か荷馬車で仕事をするとなると、町ごとに3日くらい滞在するのが普通でしょ、休憩や商売のために。そうなると、ネモの町で戦争に巻き込まれていた可能性があると思うんだ」


「なるほどなぁ。確かに今回はぎりぎりだったもんな。町で普通に休むと逃げ切れなかった可能性があるのか」


 ユウに反論されたトリスタンが考え込んだ。今回はユウが提案した調査時間の短縮で戦争を回避できたのだから説得力がある。


「何にせよ、目的である調査ができて良かったじゃない。僕は満足だなぁ」


「俺はお前の護衛を辞めたくなってきたな」


 嬉しそうに肉を頬張るコミニアヌスに対してアテリウスがため息をついた。端から見て苦労していることはよくわかる。ユウもトリスタンも同情した。




 食後の談笑はあまりせずに夕食を終えたユウたち4人は酒場を出た。六の刻が過ぎてからある程度の時間が過ぎていたので路地に酔客が多い。


 とうの昔に日は暮れていたので周囲はすっかり暗いが、安酒場街は店内から漏れてくる明かりが結構あるので路地は歩けた。貧者の道へ移ると今度は往来する人々の多くが松明(たいまつ)を持っているので何とかなる。これは宿屋街も似たようなものだった。


 そうして宿屋『乙女の微睡み亭』に4人はたどり着いた。中に入ると受付カウンターにジェナが座っている。


「おや、ユウ、帰ってきたのかい」


「ただいま、ジェナ。また宿を借りに来たよ」


「そいつは嬉しいねぇ。また2人部屋を2つでいいのかい?」


「お願いするよ。できれば隣同士の部屋で」


「いいとも。ゆっくり休みな」


 受付カウンターの上に置かれた宿泊料を手にしたジェナがユウに鍵を2つ渡した。ひとつをアテリウスに手渡す。コミニアヌスは半分寝かかっていた。


 宿泊の手続きを済ませたユウたち4人は受付カウンターから離れようとする。振り向いて歩き始めたところで今度はアマンダに声をかけられた。最も近かったユウが声をかけられる。


「ユウじゃないか。あんた本当に年内に帰ってきたんだね」


「年末の前日に帰れるとは思っていなかったよ」


「はは、本当にぎりぎりだもんねぇ。泊まる手続きはもうしたのかい」


「しましたよ。またしばらく厄介になるね」


「できるだけ長くここの厄介になっておくれ。金払いのいいお客は大歓迎さ」


 話が終わるとアマンダは反対側へと向かっていった。すると、それと入れ替わるようにベッキーがやって来る。


「あ、何か声がすると思ってたら、やっぱり帰ってきてたんだね!」


「ベッキー、ただいま。相変わらず元気そうだね」


「そりゃ毎日働いてるもの。それより、約束を覚えてる? 都会の最新情報を教えてくれるっていう話」


「あーそんな話もしていたっけなぁ」


 出発前の宿でベッキーからそんなことを頼まれていたことをユウは今思い出した。しかし、現地調査では主に町の外を担当していたのでベッキーが望むような女性の流行に関してはほとんど調べていない。こういうときに望まれているのは町の中の流行だからだ。


 良くない状況であることを察知したユウは他人を当てにする。


「今回の仕事では僕は町の外にずっといたらかちょっとわからないかな。それより、トリスタンの方が詳しいと思う」


「待てよユウ。俺はお前以上に町の外にいたんだぞ。知るわけないだろう」


「そうなると、コミニアヌスとアテリウスの2人になるかな。ほとんど町の中だったし」


「都会の最新情報? いや、俺たちは今回は別に調べていたわけではないが」


 突然話を振られたアテリウスは動揺した。確かにレニー市で色々と調査していたが、別に女性が好む話を集めていたわけではない。なので返答に困った。


 結局、4人総掛かりでベッキーに説明することになってしまう。当人が満足するのは結構根掘り葉掘り聞かれてからのことであった。

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― 新着の感想 ―
そろそろ1000話近くだから話が 大きく動いて欲しいところ あともっとブックマーク評価催促しても 良いと思いますよ
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