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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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帰りは徒歩で

 駆け足の現地調査を終えたユウたち4人はレニー市を出発した。行きとは違って仕事や相乗りの荷馬車を確保できなかったので歩きである。そのため、徒歩の集団に混じって開拓者の街道を西へと向かった。


 荷馬車の集団の後方を歩く徒歩の集団は雑多な旅人や行商人たちの集まりであるが、今回はそれ以外にもネモの町で一旗上げようとする者たちも混じっていた。単独の傭兵(フリーランス)である。


 武装した彼らと仲良くなったトリスタンやアテリウスが聞いた話によると、ネモの町に戦争が近いことを聞きつけて向かう途中ということだった。傭兵界隈ではそう言う話が出回っているらしい。


 この話を聞いたユウとコミニアヌスはいよいよ戦争が近いことを知る。戦争を生業にしている傭兵はこう言う話に敏感だ。あまり外すということがない。開戦は秒読み段階に入っていると見るべきだろう。


 ネモの町にたどり着いた4人に余裕はあまりなかった。夕方に酒場へと入ると夕食と並行して翌日の現地調査について話し合う。


「調査するのは1日だけだって決めているけれど、今はその時間も惜しく思えるよ」


「でも、依頼を受けている以上は調査しないわけにもいかないしなぁ」


 ぼやきにも似た意見を漏らしたトリスタンが切り取った鶏肉を口にした。少々大きすぎたようで頬張る形になる。難しい顔をしているところを見ると噛みにくいようだ。


 そのトリスタンの言葉を受けてコミニアヌスが提案をする。


「どうせならレニー市でしたみたいに二手に分かれない? 予備調査はできているんだし、2人ずつでも調査できると思うんだ」


「俺もその方が良いと思う。少しでも多くの情報を手に入れたいのならそうすべきだろう」


 黒パンとスープを食べていたアテリウスがコミニアヌスの意見に賛成した。レニー市での経験で4人が固まる必要がないことを知ったとのことだ。


 仲間の意見を聞いたユウが少し考えてからうなずく。


「それじゃまた町の中と外で別れて調査しようか。コミニアヌスは町の中の方がやりやすいのかな?」


「どちらかというとそうだな。貧民相手だと距離感が微妙に狂うことがあるんだ」


「わかった。だったら、コミニアヌスとアテリウスは明日町の中を調査して。僕とトリスタンは町の外を調べるよ」


「それと、今晩レニー市の調査のまとめの残りを片付けておくからね」


「良いけれど、寝不足になるよ?」


「それはもう仕方がないよ。でも、ここで片付けたら後が楽になるからね」


「そういうのなら任せた。でも、最低でも仮眠はしておいて」


「わかっているよ。さすがに徹夜後に歩き回るのはきついからね」


 苦笑いしながらコミニアヌスが木製のジョッキを傾けた。飲み方がまずかったのか直後にむせる。かなり咳き込んでいた。


 そういった調整をしながら明日の行動を決めてゆく。この夜は早めに食事を切り上げた。




 翌朝の二の刻、ユウとトリスタンは安宿で目覚めると外に出る準備を整えた。もう晩秋も終わりなので日の出の時間は三の刻に近いため、そこまで早く起きる必要はない。しかし、今日は日の出前の薄暗い時間に行動を始めたいのですぐに行動できるよう待っておきたかったのだ。


 蝋燭(ろうそく)の明かりがなくても周囲が見えるようになったことに気付くと2人は安宿を出た。ネモの町の外周をぐるりと巡る。貧民の市場と住宅街、船着き場と倉庫街、そして歓楽街など見ていった。


 話しかける相手は暇そうな人や話しかけやすそうな人を中心とする。おしゃべり好きでなければ話を長引かせないようにした。話が次第に適当になってくるからだ。


 そうしてあちこちを調べ回っていると町の東側の郊外に出た。昨日ネモの町入りしたときにも見かけた密集した天幕がある。傭兵らしき男たちが多数往来していた。


 遠くからその様子を眺めていたユウがぽつりと漏らす。


「前に見たときよりも増えているね」


「そうだな。昨日の傭兵もあそこにいるんだろうな」


「ああいうのを見ていると、不安になってくるよね」


「戦争が近いと知っている上に、その場所がこの町らしいからな」


 思わず足を止めて天幕を眺めていた2人はぼんやりと語り合った。冒険者なのであまり人のことを言えたものではないものの、わざわざ進んで人と殺し合いをしたいという感覚がわからない。


 冷たい風に吹き付けられた2人は調査の途中であることを思い出した。天幕から目を逸らして作業に戻る。


 その後、2人は日中は町の外を巡って調査を続けた。小銭をちらつかせて話を聞くこともしているが、前回以上の情報はなかなか得られない。


 2人が色々と調査をしているうちに夕方になった。最後に冒険者ギルド城外支所へと向かう。受付カウンターの前に立つと受付係にネモの町の様子について聞いてみた。しかし、かなり不穏ということは聞けても突っ込んだ話は聞けずじまいとなる。尚、ファーウェストの町方面の仕事は今ほとんどないという返事が返ってきた。


 思うような成果が上げられなかったユウとトリスタンは冴えない表情で合流場所である町の東門前に向かう。そこには既にコミニアヌスとアテリウスが立っていた。黙って近づいていくとコミニアヌスに声をかけられる。


「2人とも、浮かない顔をしているじゃないか。もしかして成果があんまりなかった?」


「そうだよ。傭兵の集まる天幕の数が増えたということくらいかな、新しい話は。ああそれと、誰もがトレジャー辺境伯領から追放した次男がこの町を奪還するために攻めてくるんじゃないかって、前以上に不安に思っていたかな」


「根拠はあった?」


「なかったよ。傭兵の数が前より増えていることを例に挙げる人がたまにいたくらいだね」


「うーん、当てにならないな」


「ユウ、コミニアヌス、先に酒場に行こう。ここは冷える」


 横で話を聞いていたアテリウスが口を挟んできた。トリスタンもうなずいている。


 焦ってしまったことを少し恥ずかしがったユウはアテリウスの言葉に従って歓楽街へと向かった。席の空いている酒場に入る。


 テーブル席に座った4人は料理と酒を注文した。一息つくとアテリウスが周囲を見ながら口を開く。


「前よりも傭兵の姿が目立ってきたな」


「さっきユウが言っていた傭兵の数が増えてきているというのを裏付ける光景だね」


「昼間に町の中の酒場に入ったが、そこは前と変わらなかったな」


「僕にはわからないな。トリスタンはわかる?」


「あんなガラの悪そうな連中を町の中に入れたくないんだろう。喧嘩や乱暴狼藉が頻発するだけだな」


「なるほど、確かに」


 肩をすくめたトリスタンの説明にコミニアヌスとアテリウスがうなずいた。戦力として必要だが信頼はしていないと言うわけだ。


 ここで給仕女が料理と酒を運んできた。一旦夕食を優先する。エールとスープが体に染みた。


 ある程度食べるとユウが早速コミニアヌスに声をかける。


「門の所でも話したけれど、僕たちの方は大して収獲がなかったんだ。コミニアヌスとアテリウスの方はどうだった?」


「それほど多くは得られなかったな。こっちでも資金提供を商人に要求することが最近増えて来ているという話があったくらいだ。けれど、この町の場合は政争のためではなくて傭兵を雇うためみたいだね」


「それで郊外の傭兵が増えているのか」


「ほぼ間違いないと思う。後、ここの人々はレニー市からの援軍は見込めないのではないかと焦っているようにも見えたね」


「それは」


「ある意味正しい認識だよね。2人の王子はそれどころじゃないだろうから。もっとも、弟王子が援軍を送りたくても、兄王子が妨害をする可能性はあるけれど」


「この町の今の領主は弟王子派だったっけ。ややこしいなぁ」


 ため息をついたユウが摘まんだ豚肉の薄切りを口に入れた。温かい肉の脂が口の中に広がる。幸せの味だ。


 今の話を聞いていたアテリウスが木製のジョッキから口を離す。


「あまり有用な成果は得られなかったみたいだな。ともかく、これで冒険者ギルドの依頼は一応果たしたことになるわけだ」


「そうなると、後はここからトレジャー辺境伯領に戻るだけだが、間に合うかだよな」


 匙でスープをかき混ぜながらトリスタンがわずかに真剣味のある表情でアテリウスに言葉を返した。注目するべき点がいよいよ自分たちの身の安全に絞られてくる。それだけにおろそかにはできない。


 豚肉を飲み込んだユウが明日の朝のことを考える。近山の川を渡って検問所を抜けるまでが勝負だ。姿を現した軍隊もそのまますぐには攻めないだろうから、検問所さえ抜けたらどうにかなると計算する。検問所を抜けた時点でネモの町奪還軍が姿を現したとしても、極端な話、街道を避けて草原を迂回してしまえば良いのだ。


 そのため、ユウは明日の昼前までは何も起きてほしくないと祈った。

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― 新着の感想 ―
これはなにか起きるフラグですね、間違いないw
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