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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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陰りのある王都(後)

 六の刻の鐘が鳴る頃、ユウたち4人はレニー市の東門の外で合流した。日は既に沈んでいるので空は真っ暗だ。東へと延びる開拓者の街道の南側にある歓楽街からは賑やかな声が聞こえてくる。その周辺は人の出入りが激しい。


 町の中から出てきたユウがトリスタンとコミニアヌスを迎える。


「コミニアヌス、レニー市の外は広かったから大変だったんじゃない?」


「そうだね。トリスタンの案内がなかったら道に迷っていたかもしれないよ」


「朝の間にユウとざっくり回った所とあとちょっと別の場所にも行ってきたぞ」


「こっちも一通り回れた。貴族の住んでいる場所はさすがに大変だったがな」


 大まかな感想を伝え合った4人は歓楽街へと向かった。続きは夕食を食べながらだ。


 初日に入った店とは別の酒場に入った4人はテーブル席に座り、注文を済ませる。それからテーブル越しに顔を突き合わせた。


 最初にユウが口を開く。


「僕の方から話すね。フランシス商会レニー支店に行って情報提供と荷馬車の護衛の仕事について相談したんだけれど、どちらも駄目だった。情報提供の方はコミニアヌスの言う通り高いお金が必要で手が出せなかったんだ」


「そうだろうね。で、帰りの仕事ももらえなかったんだ。どうしてだい?」


「軍事的な緊張で辺境の街道が使いにくくなっているからと説明されたんだ。でも、話をしているとどうもそれだけじゃないらしいんだよ。あの商会の支店は今、このレニー市では肩身が狭いらしい」


「西方辺境の商会だからだね。たぶん、貴族からの圧力か、同業者からの嫌がらせか、その両方かなんじゃないかな」


「たぶんそんなところだと思う。僕たちがあの丘を越えたときにはまだ荷馬車が往来していたから、フランシス商会の荷馬車だけ通れないなんてことはないはずだろうしね」


「そうなると、帰りは徒歩かぁ。荷馬車の中で眠れないのは厳しいなぁ」


 フランシス商会レニー支店の対応を聞いたコミニアヌスは嘆息した。徹夜で調査結果をまとめるという手段がこれで難しくなる。寝不足で旅をするのは非常に危険だ。


 この直後、給仕女が料理と酒を持ってきた。それを合図に一旦食事を優先する。空きっ腹に肉やエールが染みた。


 ある程度食事が進むと再び会話が増えてくる。今度はトリスタンだ。エールを飲んでから口を開く。


「冒険者ギルドで仕事の確認はまだしていなかったな。たぶんないんだろうけれど、これは明日話を聞きに行けば良いだろう。それで、ユウ、明日はどういう組み合わせで調査するんだ?」


「うーん、まだ考えているところなんだ。コミニアヌス、町の中と外、どっちの調査が大変だと思う?」


「聞き出し方がまずいと情報が全然得られないという点では町の中の方だけれど、歩き回る大変さは町の外だね。これを考慮して組み合わせを考えれば良いんじゃないかな」


「そうなると、僕とトリスタンは町の外、コミニアヌスとアテリウスは町の中になるかな」


「どうしてその組み合わせなんだい?」


「人から話を聞き出すのはコミニアヌスが一番上手だし、今晩調査のまとめを書くなら寝不足の人に広い場所を巡らせるのは良くないと思ったから」


「ははは、確かにね!」


 理由に納得したらしいコミニアヌスが笑ってから黒パンを口に入れた。スープにひたしていないことを口に入れてから気付いたので匙を使って何度かスープを飲む。


「トリスタンとアテリウスは明日も範囲が町の中と外で固定になるけれど、その分僕とコミニアヌスを支えてほしい」


「任せろ。1日で2回も回ったから、さすがに感じがわかってきたぞ」


「そうだな。町の中なら案内くらいはできそうだ」


 ユウに声をかけられたトリスタンとアテリウスはどちらもうなずいた。これで明日の配置が決まる。


 その後は具体的にどこで何を聞き出すのかという話に移っていった。4人から様々な意見が出てくる。全員でそれを練り上げ、更に洗練させていった。




 調査2日目、ユウたち4人はそれぞれの担当範囲を調査するべく日の出直後から動き始めた。この1日で得られるだけの情報を得なければならない。


 町の外を担当するユウとトリスタンは精力的に各地を回った。歓楽街、宿屋街、貧民の市場と住宅街、船着き場、倉庫街などで口の軽そうな人物を重点に話を聞いていく。時間がないため、小銭を多用して相手の口を更に軽くした。


 昼食の時に一旦集まって情報の共有と手段の再検討をしてから昼以降に臨み、そして夕方、ついにレニー市での現地調査を終える。かなりの駆け足だ。


 その直後、ユウはトリスタンと共に冒険者ギルド城外支所へと向かった。西方辺境向けの荷馬車の護衛や人足の仕事を求めたのだ。しかし、いつものように護衛の仕事は冒険者には回ってこないという回答が返ってきただけだった。更に軍事的な緊張で往来に制限がかかっているのでそもそも荷馬車の往来が減ったとも付け加えられる。


 どうにもならないことを知って肩を落とした2人は待ち合わせ場所の東門へと向かった。たどり着くとコミニアヌスとアテリウスの姿が既にある。合流すると酒場へと向かった。テーブル席に着くと早速今日の成果を話し合う。


「あ~疲れた。さすがにほとんど休みなしで町の外を回るのはきついよね」


「そうだな。時間があればもっとゆっくりできたんだが」


「僕たちの方もそれなりに調べられたよ。それなりだけれどね」


「話をしてくれる人も限られていたな。やはり時間が足りん」


 やはり時間の制約は厳しいらしく、できることは限られていた。それでも手に入れた情報をお互いに披露しようとする。


 届けられた料理と酒を手にしながら4人は話を始めた。最初にユウが口を開く。


「町の外で一番感じたのは王家の評判が落ちてきているということかな。王子2人が争っているからというよりも、その影響でレニー市が不景気になってきて稼げなくなってきているからというのが主な理由みたいだね」


「あの様子だとネモの町に何かあっても助けられるか怪しいぞ。それと、密輸組織関連の話は空振りだったな」


「西方辺境関連の品物が少し減ってきたっていう話があったくらいだったよね」


 一緒に調査していたトリスタンと共にユウは町の外の大まかな話をしゃべった。今回求められている情報の性質上、町の外で得られる情報にはあまり期待していなかったので全員がこんなものだという顔をしている。


「だったら次は僕たちだね。まずは王族と貴族についてだけれど、王子2人は王位を争うのに忙しいみたいだね。最初は敗戦の押し付け合いだったみたいだけれど、結局は王位を巡る争いの要因のひとつだからだろうな」


「周辺も巻き込んで内政や外交が疎かになっているらしい。王家の評判が落ちてきているのもレニー市が不景気になりつつあるのもこれが原因だろうな」


「そうそう、フランシス商会と聞いて念のために調べたんだけれど、政争のための資金提供を商人に要求することが最近増えて来ているみたいだね、王子2人の派閥のどちらとも。良くない傾向だよねぇ」


 摘まんだ肉を口に入れたコミニアヌスが指先を舐めた。最近は諦めたのか、手づかみで食べることに抵抗感を示さなくなってきている。一方、アテリウスはもっと早い段階で手づかみでの食べ方を受け入れていた。


 それはともかく、トリスタンが2人にもうひとつの調査対象について問いかける。


「密輸組織関係はどうなんだ?」


「裏で糸を引いていたモノラ教徒系の商会は痛手を被ったことまでは最初から確認してあったから、今日はもう少し調べてみたよ。その商会は最近悪いなりに安定した状態らしいね。不当に安い品物で儲けていたので、その供給源がなくなって困っているみたいだよ」


「これは俺とコミニアヌスの予想なんだが、後もうひとつ何かあれば倒れそうな感じだったな」


「聞いているとじり貧みたいだったからねぇ」


 首を横に振ったコミニアヌスが木製のジョッキに口を付けた。倒産はしていないが危ない状況らしい。


 話を聞いていたユウが口の中の物を飲み込んでから感想を述べる。


「まぁこんなものかな。後はネモの町で1日調査して帰るだけだね」


「今どうなっているんだろうな。そういえば、ネモの町の話は全然聞かなかったが」


「町の中でもそうだったね。興味ないんだと思うよ」


「外に目を向ける者は少ないからな」


 帰路であるネモの町が話題になったが、レニー市ではほとんど聞かなかったことに誰もが気付いた。これはこれでレニー市はネモの町に関心が薄いという情報になるが、帰りの安全に不安を抱えたままというのは落ち着かない。ただ、戦争になっていればその話は入ってくるはずなのでまだ危険ではないと言える。


 この後も4人は更に知っている話を伝え合った。

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